今回は読者の方からのご相談にお答えします。
転職する際に中小企業や地方企業の出身者は不利なのか……という疑問を抱いていらっしゃいます。
Aさんはまだ大学生なのですね。就職活動にあたり、大手企業か中小企業か、地元企業か大都市圏の企業か、どの企業を志望するか迷っている……といったところでしょうか。
これと同様の質問を、社会人の方々からもよくお受けします。
「自分は知名度が低い中小企業でしか働いたことがないので、転職市場での評価は低いんじゃないか」——と。
でも実は、大手企業出身者と中小企業出身者が同じ求人に応募して、中小企業出身者が選ばれるケースは少なくないんです。
詳しくお話ししていきましょう。
「中小企業出身は転職で不利」と思われているのはなぜ?
Aさんがネットで目にするという「中小企業出身者は転職で不利になる」という情報。確かに、求人によっては大手企業出身者が有利になるケースもあるのは事実です。
その主な理由を3つ挙げると……
【1】大手企業に「採用された」実績からポテンシャルが期待される
大手企業は志望者が多く、競争倍率が高いですよね。「大手企業の厳しい選考を突破して採用された人物」と見られるため、基礎能力やポテンシャルといったところに期待が寄せられます。
【2】ビジネスの基本教育を受けていると期待される
大手企業は研修プログラムが充実しているため、特に20代の若手層であれば、「ビジネスマナーなどの基本教育がされている」という安心感を持たれます。
中小企業には、大手企業のような教育専門部署がなく、入社後すぐにOJT(オン・ザ・ジョブ・トレーニング:現場での経験を通じた教育)に入るケースも多いため、「ビジネスマナーが粗削りなのでは……」と懸念されることもあります。
【3】「大手企業の流儀」を理解している人を求めている
大手企業が中途採用を行う場合、大手企業出身者を望むケースもあります。それは、大規模な組織内での「身のこなし」や、決裁などの流儀(根回しが必要、など)の感覚が身についていると思われるからです。
また、ベンチャー企業などが大手企業との取引を目指す場合、大手企業との交渉ができる人材を求めます。つまり、大手企業の組織の仕組みや論理を理解している大手企業出身者を優先的に採用するわけです。
この3つのうち、【1】【2】については自分次第で十分カバーできます。
【1】に関しては、「大手企業の選考に落ちて、仕方なく中小企業に入ったのでは」と思う人事担当者もいるかもしれませんが、明確な目的や意思を持って中小企業を選んだことを伝えれば、ネガティブなイメージは払拭できるでしょう。
「○○の経験を積みたいと考えて就職活動をし、それができると考えて今の会社を選びました。実際、○○の経験を通じて△△の力を身につけられたと思います」
このように、就活~現在までのストーリーを自信を持って語れる人であれば、「知名度だけに惹かれて、深く考えずに大手企業に入社した」という人よりもむしろ高く評価されることもあります。
【2】のビジネスマナーなどについても、応募書類を丁寧に読みやすく作成したり、面接でしっかりとコミュニケーションをとったりすることで、プラス評価を得られるはずです。
教育体制が整っていない中小企業にいて自信が持てないなら、書籍やセミナーで学ぶこともできるでしょう。
中小企業出身のほうが高評価なことも
冒頭で、「大手企業出身者と中小企業出身者が同じ求人に応募して、中小企業出身者が選ばれるケースは少なくない」とお伝えしました。
私は転職エージェントとして、実際にそのような採用事例を多く見てきました。
中小企業出身者が大手企業出身者よりも有利になるのは、企業が次のような人材を求めているケースです。
- 自分の専門分野の業務だけでなく、さまざまな役割を兼務してほしい
- いちいち上司の指示を受けなくても、自分で考えてどんどん行動してほしい
- 突然環境や状況が変わっても、柔軟に対応してほしい
世の中の中途採用求人のうち、多くを占めるのが「拡大中のベンチャー企業」。そのような企業では、選考で上記の要素を重視します。
この観点で言えば、大手企業出身者は、
「細分化された組織で、一部の業務しか担当してこなかったため、幅広い業務に対応できない」
「若いうちは裁量権がなく、上司の指示に従う働き方しかしていないので、自分で判断・行動できない」
「安定した環境にいたため、変化に弱い」
このように評価されるケースもあります。
もちろん、中小企業においても、狭い範囲の業務しか経験していない人、指示に従って働いている人は大勢いるでしょう。
しかし、ルールに縛られた大手企業に比べると、自分から手を挙げて新しい仕事にチャレンジしたり、役割の幅を広げたりするチャンスは多いと思います。
成長中の中小ベンチャー企業であれば、マネジメント経験も、比較的若いうちから積むチャンスがあります。
在籍していた企業規模にかかわらず、自身がどのような意識・スタンスで働いてきたか。どんなチャレンジをして、どう成長してきたか。
それを転職活動でプレゼンできる人であれば、中小企業出身というだけでネガティブな評価を受けることはありません。
「地方勤務」の弱点はデジタルでカバーできる
ここまでお話ししたことは、「地方企業」においても同様です。
その企業で、どんな取り組みをして、どんな成果を挙げたか、その経験を通じてどう成長したか。中途採用の選考では、その点が注目されます。
ただし、地方企業の場合、大都市圏の企業と比較すると、新しい情報や手法の導入が遅れる傾向にあります。
地方企業から大都市圏の企業への転職を目指すとなると、「新しいツールや手法になじめるか」といった点が懸念されるかもしれません。
しかし、この問題はすでに時代が解決してくれています。
デジタル技術の進化により、オンラインセミナーなどを利用して、全国どこにいても最新の情報をキャッチアップできるようになりました。
また、地方から、大都市圏をはじめとする全国、さらには海外へビジネスを展開しやすい環境となっています。
今では業界トップの「ユニクロ」も「ニトリ」も、もともとは地方企業。地方企業も、全国区のブランド企業、グローバル企業に成長を遂げる可能性は十分にあります。
そんな可能性を秘めた企業に入社し、成長に貢献すれば、転職市場で価値が高い人材になれるでしょう。
Aさんはまだ学生なので、企業の将来性を見極めるのは難しいかもしれません。そんなときは、親御さんや親戚の方などに「地元で有望な企業はどこか」と聞いてみてはいかがでしょうか。
特に、金融機関に勤務している人であれば有力企業の情報を持っていることがあるので、相談してみるのも手です。
もちろん、大学のキャリアセンターの情報もフル活用してください。
このほか、自治体には「Uターン・Iターンの相談窓口」が設置されています。新しいチャレンジに積極的な企業では、大都市圏でキャリアを積んだ人を呼び込むため、そうした機関と連携していることもあるので、情報を取りにいってみてはいかがでしょうか。
ちなみにAさんは、結婚・出産後も仕事を続けたいと考えているでしょうか?
仕事と育児を両立したいなら、大都市圏に出るよりも、地元企業のほうが都合がいいかもしれません。
大都市圏では、保育園が定員オーバーで子どもを入園させられず、仕事に復帰したくてもできない女性が大勢います。
その点、地方であれば保育園に預けやすく、また、実家が近ければ親御さんや兄弟姉妹、近隣の知人などからの育児サポートも受けやすいのではないでしょうか。
まとめると、転職を成功させられるかどうかは、企業規模や勤務地ではなく、「自分がどのように働き、どんな力を身につけるか」にかかっています。
将来、どんな自分になりたいかを描いたうえで、その像に近づける企業を選んでくださいね。
※転職やキャリアに関して、森本さんに相談してみたいことはありませんか? 疑問に思っていることや悩んでいることなど、ぜひこちらのアンケートからあなたの声をお聞かせください。ご記入いただいた回答は、今後の記事作りに活用させていただく場合があります。
※本連載の第63回は、10月25日(月)を予定しています。
(構成・青木典子、撮影・鈴木愛子、編集・常盤亜由子)
森本千賀子:獨協大学外国語学部卒業後、リクルート人材センター(現リクルートキャリア)入社。転職エージェントとして幅広い企業に対し人材戦略コンサルティング、採用支援サポートを手がけ実績多数。リクルート在籍時に、個人事業主としてまた2017年3月には株式会社morichを設立し複業を実践。現在も、NPOの理事や社外取締役、顧問など10数枚の名刺を持ちながらパラレルキャリアを体現。2012年NHK「プロフェッショナル〜仕事の流儀〜」に出演。『成功する転職』『無敵の転職』など著書多数。2男の母の顔も持つ。