ボーダレス・ジャパン社長の田口一成さん(左)とeumo代表取締役の新井和宏さん(右)。
出典:Beyond Sustainability
Business Insider Japanは、持続可能な社会の実現とビジネスの両立に取り組む企業を表彰するイベント「Beyond Sustainability2021」(10月4〜8日)を開催した。その中で、「SDGsはきれいごと? フロントランナーに聞く【サステナ質問道場】」と題したトークセッションを展開。
登壇したのは、ヒューマニズム部門で受賞したボーダレス・ジャパン代表取締役社長の田口一成さんと、同アワードのアドバイザリーボードを務めたeumo代表取締役の新井和宏さんだ。
サステナブルとビジネスの両立に悩む若い世代が抱きがちな疑問を、BI編集部が「3つの問い」にまとめ、二人に答えてもらった。司会はBusiness Insider Japan副編集長の滝川麻衣子。
Q1.きれいごとでは儲からないと会社に言われます。
——まず一つ目の質問です。「会社でソーシャルビジネスの提案をすると『きれいごとでは儲からない』と言われます。どうしたらいいでしょうか?」。田口さんの回答は「ちゃんと儲かる提案をつくる」でした。
田口一成(以下、田口):「ソーシャルビジネスは儲からない」というのは、単なる決めつけです。社会課題を解決するという「目的」と、儲ける手法を取るという「手段」が混同されてしまっている。本来その2つは分けて考えるべきです。提案する側はそれを踏まえて、社会課題を解決するという「目的」を据えながら、きちんと儲かる手法で提案することが大切です。
——きちんと儲かる仕組みをつくることは、社会起業家としてのケジメだと著書で書かれていましたね。
田口:はい。「社会にいいことをやるので儲かりません」というのは、残念ながら言い訳に過ぎません。社会課題を解決する「目的」と、ちゃんと儲ける「手段」はセットで成り立つと自分は信じています。これまでボーダレスジャパンでさまざまな事業をつくり、助成金や寄付金に頼らない黒字経営の維持にこだわってきたのは、それを証明したいという気持ちがあったからです。
——新井さんはこの質問に対して、「気にしないで前に進みましょう」と回答しました。
新井和宏(以下、新井):今、世界ではESG投資の流れが加速しています。これからの時代、企業はいかに儲けるかだけではなく、持続可能な企業を目指さないことによって「発生するリスク」を考えなければいけません。
ソーシャルビジネスを提案するときは、こうした世界の状況を自分自身が理解した上で、上司に説明してみましょう。もし理解を得られなかったとしても、自分と同じように行動を起こしたいと思っている人は社内にきっといます。声を大きくして仲間を見つけ、諦めずにチャレンジしてほしいですね。
Q2.社会問題をビジネスにできる極意はありますか?
田口さんはソーシャルビジネスは「失敗を前提に始めることが重要」と話す。
出典:Beyond Sustainability
——では2つ目の質問です。「社会問題をビジネスにできる極意はありますか?」。新井さんは「なぜビジネスで成り立たないかを考え抜くこと、そしてやってみることです」と回答しました。
新井:ソーシャルビジネスに取り組む人が少ないのは、そこに何か理由があるからです。簡単にできるならとっくに誰かがビジネスにしているはずなので、まずはそうなっていない根本的な原因を考え抜かなくてはなりません。
ただ、それ以上に心に留めておいてほしいのは「やってみないと分からない」ということ。「マーケットがない」、「ビジネスは成り立たない」といった勝手な決めつけをするのではなく、まずはやってみて、そこから事業をブラッシュアップしていく姿勢が大切です。
田口:新井さんの言う通りで、ソーシャルビジネスとはいわば社会実験です。実験には失敗がつきものですよね? 失敗を前提に始めることが、ソーシャルビジネスにおいてはすごく重要なんです。
そこで必要になるのが、「忍耐強いお金(=ペイシェントマネー)」です。投資してすぐに稼ぐことを期待する「クイックマネー」だけではなく、長期的な回収を前提とするビジネスも時には考えなくてはなりません。
ペイシェントマネーを投資して、社会のためにトライアンドエラーを重ねていく。それが企業の一つの形でも良いのではないかと思います。
新井:今までは「短期的にできるだけ早く回収する」儲け方が重視されていましたが、儲け方はそれだけではありません。10年かけてようやく利益が出るようなゆっくりと成長していくやり方もあります。
持続可能な社会を作っていくためには、後者の稼ぎ方も必要なのかもしれないという観点を企業に持ってほしいですね。
——田口さんはこの質問に対して、「自走型のビジネスをつくると決める」と回答しました。
田口:ソーシャルビジネスを考えるときに、「絶対に儲かる仕組みにするんだ」と決めれば、そうしようと知恵を絞るはずですよね。ところが、「儲からないかもしれない」と思いながら考えると、その可能性を視野に入れてビジネスを組み立ててしまうものなんです。
何より大切なのは、まず最初に「儲かるビジネスにする」と自分が決めること。その覚悟が突破口になる可能性は高いです。
新井さんの言うように、世の中が変わりつつある今だからこそ、「ソーシャルビジネスは儲からない」という考え方は根本的に変えなければいけません。それは企業側だけでなく、ソーシャルビジネスを提案する側にも当てはまることだと思います。
Q3.生活が苦しい人も、SDGsについて考えるべきですか?
新井さんは「SDGsは誰もが気軽に取り組めるもの」と強調する。
出典:Beyond Sustainability
——では最後の質問です。「生活に余裕がない人も、SDGsについて考えないといけないのでしょうか? そういう状況の人でも、サステナブルな社会をつくるためにできることはありますか?」。
新井さんは「SDGsをしっかり理解すれば、自分のやっていることの中にSDGsが内在しています」と回答しました。
新井:SDGsが「自分の外側に存在する」と思っている方は多いのですが、そんなことはありません。すべての人は必ず社会とつながっているので、日々の活動を変えれば、それが社会のためになります。
自分が気持ちいいと思う商品やサービスを選んだ結果、後からSDGsの要素が付いてくるのでも構いません。SDGsは大それたものではなく、誰もが気軽に取り組めるものだと思ってほしいですね。
田口:新井さんの言う通りで、経済的な理由からやれないことがあるのは全く問題ありません。大切なのは、自分にやれることをやることです。
——田口さんの回答は「ハチドリ電力にする」でした。ハチドリ電力はボーダレス・ジャパンのサービスですね。
田口:はい。ハチドリ電力は自然の電力100%なのに、契約すると旧電力会社よりも電気料金が安くなるサービスです。このようにお金をあまりかけずにできる取り組みは意外とあるので、ぜひ探してみてください。
SDGsを気にする消費者が増えれば、企業もそうした消費者を意識した商品開発を行います。まずは良き消費者であろうとすることが、世の中を変える。そういう循環が存在することは意識しておいてほしいなと思います。
SDGsは「ハチドリのひとしずく」の精神で
微力は決して無力ではない、ということを「ハチドリのひとしずく」は教えてくれる。
Shutterstock/Ondrej Prosicky
——最後に、次の世代を担う人たちへのメッセージをお願いします。
新井:皆さんにお伝えしたいのは、社会は必ず変わるということ。先ほどお話ししたように、次の社会を変えていくのは日々のちょっとした行動です。ぜひできることからスタートしてみてください。
田口:僕からは最後に、ハチドリ電力の名前の由来になった『ハチドリのひとしずく』という南アメリカの先住民に伝わる物語を紹介させてください。
森が燃えていました
森の生きものたちは われ先にと 逃げて いきました
でもクリキンディという名の ハチドリだけは いったりきたり
口ばしで水のしずくを一滴ずつ運んでは 火の上に落としていきます
動物たちがそれを見て 「そんなことをして いったい何になるんだ」 といって笑います
クリキンディはこう答えました
「私は、私にできることをしているだけ」
出典:『ハチドリのひとしずく:いま、私にできること』(辻信一監修、光文社刊)
この話はとても重要なことを物語っていると思います。何もやらないよりは、やったほうがいい。微力かもしれないけど、それは決して無力ではありません。
社会に必要だと思うことをやるときは、クリキンティのように「ハチドリのひとしずくの精神」で始めてみると良いのではないでしょうか。個人としても会社員としてもそれを指針にすると、きっといい方向に進んでいくと思います。
(文・一本麻衣)