将来有望視される米電気自動車(EV)スタートアップ、リビアン(Rivian)のデビューモデル『R1T』。
Rivian
2009年創業、「次のテスラ」と目される電気自動車(EV)スタートアップの有望株、米リビアン(Rivian)が2021年下半期の新規株式公開(IPO)に向けて着々と準備を進めている。
ブルームバーグの報道(8月27日付)によれば、リビアンは800億ドル(約8兆8000億円)程度の評価額を目指している。
米EV最大手テスラ(Tesla)の株式公開(2010年6月)時の評価額は約20億ドル(約2200億円)。リビアンのIPOが成功すれば、その40倍にも達することになる。
リビアンはこれまで110億ドル(約1兆2000億円)の資金を調達し、アマゾンからは(配送用EVバンの)大型受注に成功。デビューモデルに試乗したドライバーは絶賛の声を寄せ、競合他社と一線を画する支持を集めてきた。
そんなリビアンも2021年に入ってからはいくぶん静かな時期が続き、10月初頭、ついに米証券取引委員会(SEC)に有価証券届出書(S-1)を提出、上場手続きを開始した。
同社の詳細な情報が詰まったこの書類から、重要なポイントを4点紹介しよう。
【ポイント1】リビアンは「成長痛」を経験した
110億ドルの資金と9年間の開発プロセスを経て、デビューモデルの電動ピックアップトラック『R1T』および電動SUV『R1S』を完成させたにもかかわらず、リビアンの行く先にはさらなる障害が待ち受けていた。
『R1T』は2021年9月、『R1S』は同12月の発売を予定していたが、新型コロナウイルスの世界的流行や部品の供給不足を受け、「生産ラインの立ち上げに当初想定したより時間がかかって」スケジュールを後送りする結果となった。
リビアンは届出書のなかで別の課題があることも示唆。書類作成の過程で「財務報告に係る内部統制に重大な弱点があることが明らかになった」という。
問題の詳細は明示されていないが、上場企業に求められる財務報告を適切に行うインフラが整っていなかったために発生したとしている。同社は目下、この弱点の改善に取り組んでいるという。
【ポイント2】収益化の手段を拡大中
リビアンは複数の収益源から成るビジネスモデルを構築しており、もしある車種の販売が期待外れに終わっても、販売好調な別車種の利益を最大化して難局を切り抜けることができる。
同社は『R1T』『R1S』のような消費者向けの車種以外に、配送用EVバンも生産している。
その主な販売先となる法人は、まとまった数量を発注してくれるだけでなく、長期保有によるコスト削減効果の面で消費者以上にEVの価値を理解してもらえる優良顧客だ。
リビアンは届出書のなかで、エネルギー貯蔵や配車サービスなどの関連ビジネスに進出する可能性を示唆している。
また同社は、配送管理ソフトウェアや保険、融資、修理、充電などEVに関連する多様なサービスも提供している。
【ポイント3】さらなる資金調達の可能性
リビアンは上場を通じて目指す資金調達額を明らかにしていないが、いくらに設定しても、自走を実現するまでにはまだまだ大きな資金が必要になる。
同社はここ数年、3車種(配送用EVバン・ピックアップトラック・SUV)を市場投入し、営業販売・サービス提供のインフラを構築するために支出を増やしてきた。
2021年上半期(1〜6月)の純損失は9億9400万ドル(約1100億円)で、前年同期の3億7700万ドル(約420億円)から3倍近くにふくれ上がっている。
「予見できる近い将来に限って言えば、黒字化は想定していない」というのがリビアン側の見解で、いずれ株式を売却するか、金融機関からの借入などで運転資金を調達することになる。
【ポイント4】アマゾンとの関係は決定的に重要
2019年、アマゾンはリビアンに配送用EVバンを10万台発注した。創業10年(当時)のスタートアップにとっては巨額の契約だ。リビアンは届出書のなかでその重要性を強調している。
「当社にとって最初となる売上高の大部分は単一の顧客からのものになる」との記述は、アマゾンへの納品による収入を意味する。
だからこそ、リビアンにとっては、最初に納品する配送用EVバンにアマゾン側が満足してくれるかどうかが決定的に重要になる。届出書には以下のような記載がある。
「もし当社がこの顧客(アマゾンを指す)との関係を維持できない場合、あるいはこの顧客の購入台数が当社の想定を超えて大幅に減少したり、購入中止になったりした場合、当社の事業、見通し、財務状況、業績、キャッシュフローに重大かつ不利な影響を及ぼす可能性があります」
なお、アマゾンはリビアンの発行済み株式の5%以上を保有する(詳細な数字は明らかにしていない)最大株主として名を連ねており、配送用EVバンの大量発注以外の面でも同社の成功を左右する存在と言える。
(翻訳・編集:川村力)