店頭に並ぶ格安スマートフォン。
撮影:小林優多郎
10月4日、岸田内閣が発足するなか、菅義偉前首相が官邸を後にした。
在任期間は384日間。そんな菅政権の「置き土産」と言えるのが10月1日から始まった「SIMロックの原則禁止」だ。
菅政権の目玉政策のひとつだったのが「携帯電話料金の値下げ」。NTTドコモ「ahamo(アハモ)」など、3キャリアからオンライン専用プランが登場したことで、日本は世界の主要6都市で2番目に安い通信料金水準(総務省調べ)になった。
「SIMロック原則禁止」という菅政権の置き土産
ただ、この料金値下げは菅前首相や武田良太前総務相がこぶしを挙げたことで、無理矢理、急ごしらえで実現した値下げと言える。
総務省では、継続した競争環境を実現しようと2020年10月に「アクション・プラン」を公表し、キャリア間での料金競争につなげようと腐心してきた。その結果のひとつが、この10月から実現する「SIMロックの原則禁止」だ。
例えば、NTTドコモで購入した場合、NTTドコモの回線でしかスマホを使えないようにロックがかかっていた。これが「SIMロック」と呼ばれていた制限だ。
総務省ではこれまで「一括で購入すれば、すぐにSIMロックを解除できるようにする」「中古スマホでもSIMロックを解除できる」など、段階的にキャリアにSIMロックを見直させてきた。
ようやく、この10月1日から「購入時からSIMロックが施されていない状態」での販売が義務化されたのだった。これを見据えて、9月24日発売のiPhone 13シリーズは、NTTドコモ、KDDI、ソフトバンク、楽天モバイルのすべてのキャリアでSIMロックがかかっていない。
各社がオンライン契約専用の格安料金プランを用意。NTTドコモのahamo、KDDIのpovo、ソフトバンクのLINEMOは、今や毎月のように乗り換えることもできる状況だ。
撮影:小林優多郎
総務省としては「スマホを購入した後、別の安価なキャリアや料金プランが出てきたら、気軽に乗り換えるようにするため」という狙いがある。
ユーザーが気軽にキャリアを乗り換えれる環境を作ることで、結果としてキャリア間の料金競争を促すというわけだ。
料金プラン変更のように、自由に通信キャリアを乗り換える
ユーザーからすれば、どこでiPhone 13などを購入したかに関わらず、自分の好きなキャリアや料金プランに自由に渡り歩けるようになった。
例えば「LINEMOが3GBで990円というプランを出したら、すぐにLINEMOを契約。その後、povoが基本料金ゼロ円を始めたので、またすぐに乗り換える」といったことができる。
総務省の働きかけによって、いまでは2年縛りや解除料なども存在しない。辞めたいときにいつでも辞めて、自由にキャリアを乗り換えられるようになった。
ちなみに筆者も3月まで楽天モバイルで契約していた回線を、この半年でLINEMO→ahamo→povo→ahamo→povo 2.0に乗り換えている。毎月のように、iPhoneで使う通信会社を変えていることになる。
見ようによっては、これもSIMロックが原則禁止なったことのメリットだ。 1台のスマホがあれば、自由に4キャリアもしくは格安スマホ(MVNO)に乗り換えることができる。ただし、ちょっとだけ気にしなくてはならないのが「対応周波数帯」だ。
注意が必要な「対応周波数の問題」
実は4キャリアが持っている周波数帯はそれぞれ微妙に異なっている。
そのため、「NTTドコモで買ったAndroidスマホがSIMロックが解除されていたので、ソフトバンクで使おうとしたら、いまいち電波の入りが悪い」なんてことが起きる可能性がある。
シャープ「AQUOS」やソニー「Xperia」など、3キャリアもしくは4キャリアで展開されているスマートフォンブランドであっても、中身の対応周波数帯は微妙に異なることもある。
この懸念点に対して、総務省の有識者会議などでは「すべてのキャリアでしっかりと使えるように、スマホメーカーは国内キャリアが持つ周波数帯すべてに対応するスマホをつくるすべき」という意見が出ているようだが、現実はかなり厳しいようだ。
あるスマホメーカー幹部は、内情をこう語る。
「国内キャリアが展開するすべての周波数帯に対応しようと思うと、検証コストがものすごい跳ね上がる。それをやろうとしたときに、結果としてコストがあがり、それがユーザーの負担につながってしまう。 『キャリアを乗り換えようとする人だけのメリット』を優先するために、それ以外の購入者の方すべてが余計な金額を負担するのは無理があるのではないか」
この幹部は、総務省の議論には静観する構えを見せている。
なぜiPhoneは「1機種で4キャリアに対応」できるのか
9月24日から一斉発売になった「iPhone 13 Pro」。キャリアを自由に行き来する視点でみると、対応周波数の多さはこれからのメリットの1つになるかもしれない。
撮影:伊藤有
一方、例外もある。4キャリアすべての周波数帯に、ほぼ対応していると言えるのが、アップルのiPhoneシリーズだ(ただし、5Gのミリ波をのぞく)。
iPhoneは国内4キャリアが扱っていることもあり、どのキャリアの周波数帯もきっちりと安定して使うことが可能だ。
前出のスマホメーカー幹部は「iPhoneのようにグローバルで数千万台流通するスマホとなってくると話は変わってくる。できるだけ多くの周波数対応し、同じモデルを世界中に流通させた方がコストが安くなる。キャリアごとに仕様を変えるAndroidメーカーとは考え方が全く違う」と語る。
実際、iPhone 13 Proの場合、世界に向けて5モデルしか存在しない(4Gのころはさらに少なく、3モデル程度しかなかった)。
それぞれの国や地域で中心となる周波数帯が異なっているため「アメリカ向け」「中国向け」「日本・カナダ・メキシコ など向け」といった仕向けによって対応する周波数が若干、違っていたりするのだ。
日本でiPhone 13 Proを購入した場合、アップル直営店だろうがNTTドコモ、KDDI、ソフトバンク、楽天モバイル、どこで買っても「日本・カナダ・メキシコなど向け」が売られている。つまり、どのキャリアで買っても同じ仕様のiPhoneとなっている。
考えようによっては、10月以降に「SIMロックがかかっていないのなら、どこかのタイミングでキャリアを乗り換えてみよう」と思っている人は、とりあえずiPhoneを買っておく、というのは安全策としてアリな選択だ。
iPhoneであれば、オンラインだけで回線開通まで完結できる「eSIM」にも対応しており、オンラインで契約したら、すぐに回線を切り替えて使うこともできる。
いろんな意味で「乗り換えに安心で、便利」なことは、10月以降の端末選びの新たなポイントになりそうだ。
(文・石川温)
石川温:スマホジャーナリスト。携帯電話を中心に国内外のモバイル業界を取材し、一般誌や専門誌、女性誌などで幅広く執筆。ラジオNIKKEIで毎週木曜22時からの番組「スマホNo.1メディア」に出演。近著に「未来IT図解 これからの5Gビジネス」(MdN)がある。