ラストワンマイル物流サービスのボンド(Bond)がマイクロ物流拠点サービスを展開するリーフ(Reef)に買収された。写真はボンドの配送用電動三輪車。
Bond
孫正義氏率いるソフトバンクグループから出資を受け、駐車スペースをゴーストキッチンや物流拠点として有効活用するリーフ・テクノロジー(Reef Technology)が、物流面で協力関係にあるボンド(Bond)を買収することで合意した。買収額は非開示。
リーフは2020年11月に日本のソフトバンクグループやアラブ首長国連邦(UAE)政府系ファンドのムバダラ・インベストメント(Mubadala Investment)などから7億ドル(約770億円)の調達に成功している。
リーフとボンドはこれまでニューヨーク2カ所、フィラデルフィア1カ所の駐車場活用で連携してきた。
新型コロナ感染拡大による行動制限を背景に、Eコマース(電子商取引)が急速に拡大を続けるなか、どの販売事業者もラストワンマイルの配送能力を少しでも強化しようと躍起になっている。
そうした状況のなかで、今回のリーフによるボンドの買収は、両社が共同展開してきたハイパーローカルな宅配サービスが人気のフードデリバリーにとどまらず拡大成長を続けていることの証左と言えるだろう。
貨物輸送大手ユナイテッド・パーセル・サービス(UPS)最高経営責任者(CEO)のキャロル・トメは、来るアメリカのホリデーシーズン(=11月後半から年末年始まで)には、1日あたり500万個の配送能力が不足すると予測している。
そうした空前の物流ひっ迫を受け、リーフのような即日宅配サービス事業者による一般的な梱包物の配送分野への進出が相次いでいる。
中小企業や個人が利用できる「マイクロ物流拠点」
買収されたボンドの展開するビジネスは、従来別の用途に使われていたスペースをEコマース向けのマイクロ物流拠点(フルフィルメントセンター)として活用するもの。配送には特別仕様のトレーラーや電動三輪車が使われる。
同社は2020年、新型コロナ感染拡大を受けてEコマース向け配送サービスの需要が爆増する直前、1500万ドル(約16億円)の調達に成功している。
一方のリーフはもともと、ボンドが始めたマイクロ物流拠点向けに不動産を提供していたが、半年後には両社のサービスを統合することに決めた。
「次なるステップとして、買収は自然な流れだった」(ボンド共同創業者兼最高収益責任者のマイケル・オサドン)
ボンドは中小規模の販売事業者がフルフィルメントセンターを手軽に活用できるマネジメントツールなどのテクノロジーも開発・提供しており、それがフルフィルメントサービスの新たなフェーズを切り拓くことになるとリーフ側の経営幹部はみているようだ。
今回の買収合意により、ボンドのテクノロジーはリーフが展開するフルフィルメントサービスのオペレーティングシステム(OS)として機能することになる。
両社が提供する翌日から最短10分の即日配送サービスを利用できるのは、全米30都市圏の5500拠点、全人口のおよそ7割に広がる。
こうしたスピード配送は(レストランなど)フードデリバリー分野ではすでに定着しているが、ギグワーカーのプラットフォームと小売り事業者の連携が急激に進んだため、梱包物などを扱うEコマースにまで広がりつつある。
リーフ共同創業者兼シニアバイスプレジデント(プロダクト担当)のフィリップ・サン=ジュストは、同社の提案する価値を「サービスとしての近接性(Proximity as a Service)」と表現する。
その言葉通り、リーフの配送ドライバーが担当するのは、フルフィルメントセンターから5マイル(約8キロ)以内がほとんどだ。
サン=ジュストによれば、リーフが提供する効率的な配送サービスの核心は、フルフィルメント(注文受付から決済、在庫管理、梱包、返品対応など関連業務全般)とデリバリーの徹底管理に加え、ギグワーカーとの契約ではなく従業員を雇用していることだという。
同社はフルフィルメントセンターごとに担当するテリトリーを知悉(ちしつ)する体制を重視し、早い段階でギグエコノミーを選択肢から外した。
必要なものを必要なときに手に入れられる時代
リーフは現在、ニューヨークのネットスーパー「フレッシュダイレクト(Fresh Direct)」の宅配や、ウェンディーズ(Wendy's)などレストランの全国配送を請け負っている。
ボンド買収により、中小規模の企業や個人もリーフのハイパーローカル物流サービスを利用できるようになり、フードデリバリー以外の全国配送機能も拡張されることになる。
「外食産業と小売業の垣根は低くなってきています。対象が食品であれ何であれ、必要なものを必要なときに何でも手に入れられるようになってきており、それこそがパラダイムシフトなのです」
(翻訳・編集:川村力)