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メルカリが語るD&Iのリアル。「草の根活動」が経営戦略に変わるまで

寶納弘奈さん

メルカリDiversity & Inclucion Teamマネージャーの寶納弘奈さん。親の転勤でベルギーに住み文化の違いにショックを受けたことが原点にある。その後ガーナでボランティアを経験。文化や価値観の違いを超えて協働することの大切さを伝える今の活動へつながっているという。

撮影:的野弘路

Business Insider Japanは、持続可能な社会の実現とビジネスの両立に取り組む企業を表彰するイベント「Beyond Sustainability 2021」(10月4〜8日)を開催した。その中で、「メルカリが語るD&Iのリアル。『草の根活動』が経営戦略に変わるまで」と題したトークセッションを展開。

登壇したのは、D&I部門で受賞したメルカリDiversity & Inclucion Teamマネージャーの寶納(ほうのう)弘奈さんだ。

メルカリ社内のD&Iが経営戦略になるまで、どんな経緯をたどったのか。Business Insider Japan記者の西山里緒が聞いた。

「D&Iをやりたい」の背中を押すカルチャー

──まずは寶納さんがメルカリに入社して、D&I(ダイバーシティ&インクルージョン)プロジェクトを立ち上げるまでの経緯について教えてください。

寶納弘奈さん(以下、寶納):入社前は、もともと異文化コミュニケーションのトレーナーをしていました。

2018年5月メルカリに入社し、グローバルオペレーションズチームに配属されて、社内の通訳・翻訳を担当しました。前職の経験を生かし社内のコミュニケーションに関する研修も同時に担当する中で、D&Iを推進する必要があると感じた出来事がありました。

当時はメルカリが急成長していた頃で、外国人も含めて月に100人も新しいメンバーが入社していました。一人ひとりの仕事の作法、コミュニケーションのスタイルは違うので、その期待値がずれて問題が生じるだろうと予想したのです。誰か一人の良くしたいという善意に依存するのではなく、インクルーシブな環境を作ることが必要です。

すでにダイバーシティクラブという部活動としてD&Iに取り組んでいた人たちに声を掛け、2018年8月にチーム横断のD&Iプロジェクトを始めました。半年ほど経った頃、経営側からミッションと施策の柱を立てて進めていくべきという話があり、経営陣と一緒にD&Iチームを立ち上げたのです。

経営陣を巻き込んだディスカッションを継続的に行う中で、会社の経営戦略としてD&Iを推進することがメルカリのミッション達成につながると判断され、2021年1月に山田(進太郎)社長直下のD&I Councilという社内委員会が設立されました。

──もともとメルカリには多国籍の社員が在籍していたからD&Iチームが生まれたのでしょうか。

寶納:それもありますが、メルカリには社員がやりたいことを提案して、会社や事業の成功につながる可能性があると判断されればすぐやってみようと後押ししてくれる風土があるんです。

私もD&Iを推進したいと言った時、周囲のメンバーが背中を押してくれたのが大きなきっかけとなっています。

ラマダンイベント

2019年5月、有志のメンバーが企画したラマダンイベントの集合写真。

提供:メルカリ

──今、寶納さんはD&Iチームの専属メンバーですか?

寶納:私を含めて2名が専属メンバーです。D&Iの課題発見と解決のための施策を提案する立場で、各部門のリーダーとコミュニケーションを取りつつ課題を洗い出し、コンサルテーションを行うという第三者機関的な役割を担っています。社内で困っている社員の相談も受け付けています。

「バイアスをなくそう」ではなく「どう気を付けるか」

無意識バイアス

バイアスは誰にでもある。お互いにどう気をつけてばいいかを話し合う場を作ることが大事だという。

出典:メルカリ

──あらゆるスタートアップが、多様なバックグラウンドを持つ社員を巻き込みながらどのようにインクルーシブな環境を作るか、悩んでいると思います。メルカリは「アンコンシャス(無意識)バイアスワークショップ」が有名ですね。

寶納:バイアスは人間が誰しも持っており、それ自体がいけないわけではありません。

ただ、「女性だから甘いものが好きに違いない」とか「見た目が外国人だから日本語は喋れないだろう」などと決め付けるのは危険です。

そのため「バイアスをなくそう」ではなく、「バイアスはあるのでお互いどう気を付けたらいいだろう」ということを話す場を作りたくてこの研修を行っています。

社長や経営層はもちろん、マネージャー層は全員受講必須で、それ以外のメンバーはチームごとに受講してもらっています。

──2021年にこの研修の資料と分厚いファシリテーターガイドを無償公開していますが、その目的は?

寶納:外部の講師が来て無意識バイアスについて教えるより、社内で課題を感じているメンバーが自分たちの言葉で伝える方がよっぽど重要でインパクトがあります。

無意識バイアスについての研修コンテンツを作ったメルカリのファシリテーターが他社に出向いてレクチャーするのではなく、あくまでその会社で課題を感じている人たちが自主的に取り組んでほしいと考えました。

「傷付けてしまったとき謝れる関係」こそサステナブル

──確かに少し前にも、「女性は話が長い」などというバイアスによる発言が問題になりましたね。このファシリテーターガイドを作られた時にどんなことを意識しましたか?

寶納:最もお伝えしたかったのは、ある人の一部だけを見て判断しないというアクションです。また、バイアスで人を傷付けてしまう・傷付けられてしまうのは不可避です。

自分もバイアスで誰かを傷付けてしまうかもしれないと自覚することの重要性と、間違って傷付けてしまった時に謝れる関係性を作りましょう、その方が健全でサステナブルな関係性を作れますよ、という内容を入れたのもポイントです。

D&Iの視点

ファシリテーターガイドの後半部分には、「傷付けてしまったときに謝れる関係性を」というメッセージが書かれている。

出典:メルカリ

──無意識バイアスを目にした場合は、どう対応するのですか。

寶納:D&Iの相談受付窓口として、最初に困っている人から詳細を聞くことが多いです。ただしその場に私がいたわけではないので、第一ステップとして当事者にヒアリングして真偽を確認することから始めます。

「Aさんのあのやり方が気に食わない」とか「Bさんのあの発言はありえない」と指摘されている側にも、そうせざるを得ない事情や理由があったかもしれない。それを理解することから始めなければなりません。

無意識バイアスが起こる背景の1つには傍観者の存在もあります。そうした状況を抜け出すための方法を提案したり、本人に「あなたを責めているわけではないけれど、これは社内の課題なので一緒に解決したいです。どう思いますか?」と対話に持っていきます。時間はかかりますが必要なプロセスです。

見えていない課題について意見を出し合うコミュニティ

寶納弘奈さん

2021年9月にはプロダクトのアクセシビリティに関する勉強会も実施。メルカリのアプリは弱視の人にとって使いやすいか。梱包してコンビニに持っていく作業ができない人はどうするかなどを今後社内で話し合うための第一歩だという。

撮影:的野弘路

──ほかに取り組んでいるD&Iの施策はありますか。

寶納:私たちの組織が抱えている課題について、D&Iチームのメンバーだけではなく、さまざまな部門のメンバーから意見を出してもらうことが重要です。

先ほど話したD&I Councilという社内委員会のほか、D&IコミュニティというEmployee Resource Group(エンプロイー・リソースグループ)を組織して運営しています。女性のエンパワーメントなどのテーマに取り組むためのコミュニティがあり、そこから出てきた課題を吸い上げることもあります。

同時に、我々が解決できない問題を「どうアプローチしたらいいと思いますか」とコミュニティに協力を仰いだりしています。

──コミュニティというのは社員が自由に参加できるということですか?

寶納:そうです。自分はLGBTQの当事者ではないけれど、アライ(※)としてサポートしたいという人も参加できます。女性のエンパワーメントのグループにも男性が参加することもある、開かれた場として利用されています。

※アライ:性的マイノリティが抱える課題に寄り添い支援する人たちのこと

数値目標を置かない理由

──D&Iの取り組みを推進するにあたって、ゴールやKPIの設定が求められると思います。メルカリではどのように設定しているのですか?

寶納:メルカリでは数値目標を設定しないと決めています。社内外の人から、「『あと○年で女性の管理職を○%にします』という明確な目標がある方が動きやすいのでは?」という意見をいただくこともありますし、そのような考え方もありだとは思います。

理由は、この状況を改善するためにやるべきことはただ1つ、「人事プロセスに不平等や格差があるなら改善する」ことだからです。やるしかないので、数値目標は設定してもしなくても同じなんです。

D&Iを推進する理由は、「経営的に利益があるから」「最近D&Iが流行っているから」ではなく、社内のあちこちに存在する構造的な格差や不平等を是正するためです。

まずは格差是正のためのプロセスにコミットしたい。そのプロセスがどう変わっていくのかを定点観測し、プロセスの中で見つけた問題を改善することが最も重要だと思っています。

この作業を繰り返せば結果的に数字に表れることもあるかもしれません。表れなければ改善の仕方が間違っているということなので、そこからまた次のアクションを決めればいいのです。

──ゴールを設定した方が動きやすいとは思うのですが、寶納さんはどのようにロードマップを描いていますか。

寶納:確かにゴールを設定した方が分かりやすく動けると思います。

しかし、そもそもD&Iにはゴールなどありません。なぜなら格差や不平等が一切なく、従業員や国民は全員ハッピーという企業や国はこの世界に存在しないからです。

組織内の人間の属性のバランスが変われば常に新しい問題が生まれます。そのためD&I推進は永遠の課題であり、やり方もアップデートし続けなければならないのです。

あえてゴールを言うなら、さまざまな属性の人が住みやすい国を作るとか、多様な人々のポテンシャルが発揮されるように会社の環境を整えることだと思っています。

D&I推進者は、心と体のWell-beingが一番大事

寶納弘奈さん

「共通のバリューとしてD&Iを捉えていければ組織はいい方向に進める。私が見ている方向はそっちです」。

撮影:的野弘路

──その話を聞いて、草の根活動を続けた結果、D&Iカウンシルのような社内組織が生まれていることを考えると納得感があります。D&Iチームとしての今後の展望や課題を教えてください。

寶納:社内のデータを活用するスキルが必要だと痛感しています。

先ほど話したプロセスの変化を追いかけるためにKPIの設置を試みているのですが、どのデータを見れば自分たちの活動に効果があるのかを判断しなければなりません。

例えば女性エンジニアが少ないという問題は、国内でSTEM教育を受けている女性の数を継続的に収集、追跡すればいいのか。

それともメルカリの面接を受けてくれた女性の人数を追跡すればいいのか。社内でエンジニア職にキャリアチェンジした人の数を追跡すればいいのか。

ボトルネックをきちんと理解するためにいろんな施策を練って、その結果を何年もモニタリングする必要があります。長期的な施策になると思っています。

──最後にD&Iに取り組みたいけれど何から始めればいいのか分からないという企業の人に向けてメッセージをお願いします。

寶納:大きく2つあります。

1つは、D&Iはすべての組織が取り組む必要がありますが、自分たちの組織特有の課題があるはずなので、まずそれを深堀りすること。そのために同じ志を持つメンバーを集めて一緒に課題を探すことが大きな初めの一歩です。

2つ目は、D&Iを推進しようとすると社内のさまざまな人からフィードバックがあり、時には辛辣なコメントもあります。

その負荷で参ってしまうかもしれないので、D&Iを推進しようとする人たちの心と体のWell-being(ウェルビーイング)を一番に考えていただきたいと思います。

(文・山下久猛)

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