起業家にとって、投資家の目を引こうと多くのスタートアップ企業がメールで売り込む中で目に留めてもらうのは、まさに闘いだ。
朗報なのは、2020年、ベンチャーキャピタリスト(VC)による出資額は記録的な額に達したこと、彼らがスタートアップ企業のプレゼン資料に目を通す時間は平均で3.4分となったこと。2019年の平均17秒からは大幅なアップだ。
とはいえ、対面あるいはバーチャルな会議で売り込む際、投資家にどれだけ好印象を残せるかは重要だ。これによって資金調達の成否も変わってくる。
そこでInsiderは11人のVCに取材を敢行、希望に満ちた起業家からの出資要請を断った理由を聞いた。意見に多少の違いはあったものの、明確なテーマがいくつか浮かび上がった。
ハリー・ブリッグス率いるオマーズベンチャーズ(OMERS Ventures)は、「最終的には99%のスタートアップ企業にノーと伝える」と言う。理由はさまざまだが、一番多いのが「十分な志が感じられない」からだ。
一方、ブロッサムキャピタル(Blossom Capital)は、年間わずか5社にしか出資しない。創設者のオフィーリア・ブラウンは、同社が却下したとしても、それは「必ずしもスタートアップ企業のチームに問題があるからではない」と話す。
以下は、投資資金数百万ドルを誇るVCが「こんなスタートアップには投資したくない」と思う5つの理由だ。VCからの出資を取り付けるために「やるべきこと」「やるべきでないこと」の参考にしてほしい。
1. チームの足並みがそろっていない
フロントラインベンチャーズのウィリアム・マッキラン。
Frontline Ventures
フロントラインベンチャーズ(Frontline Ventures)のパートナー、ウィリアム・マッキランは、主にアーリーステージのスタートアップを対象に投資している。信頼するに足るスタートアップに出資したいと思うものの、口で言うほど簡単なことではないと語る。
「創業者は悪くなけれど感動するほどではなかったり、将来性があって市場も大きいけれど競合が多かったり。一筋縄ではいかないことが多いです」
足並みがそろっていないチームは危険信号だ。マッキランは言う。「ミーティングの場で、創業メンバーが文字通りいさかいを起こしたともありますよ。殴り合いのけんかではなく、言い争いでしたけどね。お互いの意見が食い違っていることは明らかだし、ビジョンすら一つにまとまっていない。これは問題です」
2. 創業者の自覚がない、フィードバックに耳を貸さない
フライヤー・ワン・ベンチャーズの投資ディレクター、エレナ・マズーハ。
Genesis Investments
アーリーステージでは、投資家は完成されたプロダクトよりもチームを見込んで出資する。そのため、マッキランは相手がどんな人たちかをかなり重要視する。「創業者としての自覚がゼロというのも問題ですね。チームを作り上げたり、自分たちの弱点を理解したりする明確な能力に欠けているのです」
フライヤー・ワン・ベンチャーズ(Flyer One Ventures)は、外部の意見に耳を貸さないチームとは一緒に働きたくないと話す。同社の投資ディレクターを務めるエレナ・マズーハの弁はこうだ。
「事業のある側面に何年もこだわりすぎて、先に進めなくなっている起業家を何人も見てきました。これはつまり、自分自身や他者の過ちから学べないということ。テック業界ほど動きのある業界では危険です」
VCは、起業家がどう問題を解き、結論を導き出し、難しい状況に対処するかを見ている。「自分や他者の経験から学べないのは、危険信号です」とマズーハは加える。
キューベンチャーズ(QVentures)のマネージング・パートナー、ロバート・ウォルシュもこれに同意する。ウォルシュが投資機会を断る最大の理由は、「姿勢が合わない」ことだ。
「長い付き合いになりますからね。しっかりと話し合ったりアイデアに対して意見を言ったりできる相手かの見極めは、投資を決めるうえで非常に重要です」
3. 目指している方向性が違う
フロントラインのマッキランにとって、手っ取り早いエグジットを求めている創業者は絶対に「ノー」だという。
「当社が聞きたいのは、そういうことではありません。彼らにとってはいいかもしれませんが、私は規模がとても大きな企業を作りたいんです。手っ取り早くエグジットしてしまうようでは、私と志を同じくしているとは言えません。そんなリターンは求めてはいませんから、そのスタートアップの投資家としてフロントラインはふさわしくないと言っているようなものです」
エグジットすれば、マッキランが投資した額の2倍、3倍にはなるかもしれない。だが、マッキランが求めるのは投資額の「20~50倍」だ。「非常にハイリスクであること承知しています。でも大きな可能性があるのなら、リスクも厭いません」
一方、アクセル(Accel)のセス・ピエールポンは、動きが鈍い起業家や、思い切ってやろうとしない起業家、リスクを取りたがらない起業家の話は断ると話す。
VCの中には、社会的インパクトにまで考慮に入れるところもある。
アスタノールベンチャーズ(Astanor Ventures)は、同社の事業全体の社会的インパクトと「ぴったり合っている」企業しか支援しない、とアスタノールのパートナーを務めるヘンドリック・バン・アスブルックは言う。
ブルーホライズン(Blue Horizon)もまた、社会的インパクトやESG(環境、社会、コーポレートガバナンス)に確固たる考えを持っている。投資をするなら、自社のインパクトを計測・マネジメントする明確な計画を持っているような企業であってほしい、とブルーホライズンのマネージング・パートナー兼COOであるセデフ・コクテントゥルクは考えている。「当社では倫理的な観点も考慮します。例えば、直接・間接問わず動物を搾取するおそれのある企業には一切投資しません」
アルビオンVC(AlbionVC)のジェイ・ウィルソンはこう語る。「どこかのファンド1社に断られたとしても、大したことではありません。単にそのファンドの好みとは違ったってことでしょうから。ただし、いつも同じようなフィードバックをもらっているなら、もっと体系的に対処する必要があるというサインかもしれませんね」
4. 事業の拡大余地が小さい
VCにしてみれば、スタートアップ企業が事業領域にしている、あるいはしようと思っている市場の規模と成熟度を知りたいものだ。マッキランは、市場がかなり小さければ「即座にノー」だと言う。ビジネスモデルやプロダクトといった他の問題は早い段階で「解決できる」。そのため、市場規模よりも「もっと細かい」市場分析が求められる。
先出のピエールポンも相当規模のリターンを狙っているため、市場が小さい、競合が多いという要因は事業拡大の妨げになりかねないと考えている。バン・アスブルックも、事業の拡張性が見えない場合は出資を断ると言う。
ローカルグローブ(LocalGlobe)のパートナー、エマ・フィリップスは、ターゲット顧客をしっかり理解している創業者に会いたいと話す。
5. 戦略が曖昧
ブルーホライズンのマネージング・パートナー兼COO、セデフ・コクテントゥルク。
Blue Horizon
アーリーステージの投資家の中には、事業アイデアをもとに出資したいと考える投資家もいる。だがコクテントゥルクは、スタートアップ企業が描く成功への道筋を知りたいと考えている。
「当社は変化を促すことにコミットしています。それはつまり、単なるアイデア以上のものでなくてはいけないということです。私たちは、ビジネスのアイデアと戦略を持った起業家や、それを実行して本当のインパクトを生み出すチームを支援しているんです。
グローバル規模の市場が理想ですが、その市場でどうやって受け入れられていくのか。プレゼンの場では、そのビジョンと実行の道筋をしっかりと説明してほしいですね」
例えば、ブルーホライズンでは食糧の未来に関して、動物性タンパク質と代替タンパク質の価格パリティをどう設定するか、具体策を持っているスタートアップ企業の話が聞きたいと考えている。
UCLテクノロジーファンド(UCL Technology Fund)のデイビッド・グリムに言わせると、この仕事で一番嫌なのは、ノーと伝えなければいけないときだ。「だいたいいつも、本当に申し訳ないなと思っています。でもこちらが求めるものからかけ離れていたのでは、私にできることはあまりありませんからね」
ローカルグローブのフィリップスは、起業家からはぜひ、事業と機会に関するストーリーが織り込まれた、はっきりと伝わるプレゼンが聞きたいと話す。