富裕層の顧客は、モルガン・スタンレーのような会社にとっては、とても魅力的な顧客だ。
Sean De Burca
モルガン・スタンレー(Morgan Stanley)では毎年、約100人の顧客アドバイザーが、富裕層を担当するための試験を受けている。
初めての受験でテストに合格するのは、約60%。再受験や、時には複数回受験して最終的に合格するのは約75%だ。
「我々は、このプログラムに参加させる人数を決めているわけではありません。当社のアドバイザーたちが、トップの顧客層とうまく仕事ができるようにしたいと考えているのです」と同社のファミリー・ウェルス・ディレクター(家族資産管理)プログラムを担当するアレックス・チェスター(Alex Chester)は言う。
チェスターによると、アドバイザーの経験レベルにもよるが、テストに至るまで、アドバイザーは約150時間の社内トレーニングコースを受講するという。
受験者は、主に資産管理計画に関する17のモジュールを受講する。そしてその後、筆記試験を受ける。家族資産管理の顧客というのは、融資など幅広い商品を売ることができるので、アドバイザーにとっては儲けを見込める魅力的な客たちだ。
多くのアドバイザーにとって、フルタイムの仕事に加えて試験の勉強をすること自体は大したことではない。それより悩ましいのは終盤の、ライブで行われるケーススタディの研修だ。
ライブの研修では、モルガン・スタンレーのファミリー・オフィス・リソースの責任者であるデビッド・ボックマン(David Bokman)率いるチームが、富裕層の顧客とその会計士や弁護士に扮する。アドバイザーは、1時間、ボックマンのチームメンバーが演じる顧客の話を聞き、顧客のために3時間かけて綿密な計画を提案しなければならない。
ボックマンは、財産を相続した夫と、才覚ある事業家の妻という夫婦を想定したケースで研修を行った。その中では、顧客に適切な質問をして、3人の子どものうち1人が薬物依存症であることや、それぞれの子どものニーズに合わせてどれだけの財産を残すべきか迷っていることなどの話を引き出すことが課題となる。
「私たちが必ずしも話していない家族関係の問題があるかもしれませんが、事実が分かれば、その問題の話を引き出すような質問ができるようになるでしょう。もし問題を引き出せなかったら、お客様にふさわしい計画を提案することはかなり難しいでしょう」とボックマンは言う。
モルガン・スタンレーでは、2019年からは、1000万ドル(約11億円)以上の超富裕層の顧客を担当するプライベート・ウェルス・マネジメント部門のすべてのアドバイザーが、少なくとも簡易版のプログラムを受講しなければならなくなった。
各部門から1人ずつ指名されたメンバーは、全プログラムを受講のうえ試験に合格し、ファミリー・ウェルス・ディレクターの肩書きを得なければならない。これは、仕事のレベルを上げて富裕層向けの業務に携わりたいと考えている新入社員や社内スタッフも対象となる。
このプログラムは長年にわたり更新されており、最近では行動ファイナンスやインパクト投資に関するモジュールが追加された。また、モルガン・スタンレーは、プライベート航空や健康コンシェルジュの事業を手掛ける会社も視野に入れ、ライフスタイルに関するアドバイスの講義を追加することも考えている。加えて、企業向け株式プランや運用ビジネスを積極的に展開しているEトレード(E-Trade)を買収したことを受け、企業のエグゼクティブを相手にするための具体的な講義を追加することも考えている。
しかし、資産設計が研修の中心であることに変わりはないと、信託・遺産管理の弁護士でもあるボクマンは言う。このコースでは、顧客との初期の会話の中で、相続に関する個人的な質問をしたり、受託者を選んだりするテクニックを教えている。
「デリケートな問題に対しては、お客様もアドバイザーも往々にして慎重になるものです。しかし、であるからこそ、なるべく早くこうした話題に触れたほうがいい。ここを理解せずに、投資や寄付や相続などの計画を立ててはいけないからです」
(翻訳、編集:大門小百合)