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調査会社PitchBookのデータによると、2021年に入ってから環境系ITのスタートアップがベンチャーキャピタル(VC)から調達した額は、10月初旬時点で190億ドル(約2兆900億円)となっている。
これは2020年の調達額115億ドル(約1兆2700億円)をすでに上回る数字であり、2017年の28億ドル(約3100億円)と比較すると約7倍だ。この分野への投資の勢いはまだまだ続きそうだ。
環境関連に取り組むIT企業が成功する例はあまりなく、投資家が数十億単位で損を出していた2000年代前半の状況と比べると、この盛り上がりは全く対照的だとクリアビジョン・ベンチャーズ(Clearvision Ventures)のマネージング・パートナーであるダン・アン(Dan Ahn)は言う。
アンをはじめとするVCによれば、いまや環境系ITは注目の的となっており、炭素会計や環境リスクモニタリングなどの分野は優良な投資対象として考えられている。
環境関連IT事業に投資しているVCから、最も注目度の高いスタートアップについて聞いた。
1. オーロラ・ソーラー(Aurora Solar)
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拠点:カリフォルニア州サンフランシスコ
事業内容:ソーラー関連の専門家による住宅など、建物向けの太陽光パネルプロジェクトの設計や販売をサポートする3Dモデリングのプラットフォームを開発。
調達額: 3億2000万ドル(約350億円)
注目すべき理由:オーロラ・ソーラーのソフトウェアを使うと、太陽光発電の導入でどれだけ電気代を節約できるかを顧客に示せるようになっており、太陽光発電への切り替えを促す。また建物に何枚のパネルが設置できるのか、バックアップ電力のために何個のバッテリーが必要なのかも計算してくれる。
2021年5月にシリーズCラウンドで2億5000万ドル(約280億円)を調達し、2年間で3億2000万ドル(約350億円)を調達したことになる。
2. ベータ・テクノロジーズ(Beta Technologies)
ベータ・テクノロジーズの創業者カイル・クラーク。
Beta Technologies
拠点:バーモント州サウスバーリントン
事業内容:垂直に離着陸する、完全電動の航空機およびドローンを開発。
調達額: 4億2560万ドル(約470億円)(PitchBookによる)
注目すべき理由:ベータ・テクノロジーズは貨物・輸送業界をターゲットにしている。ネットショッピングが浸透する中で、都市では車による環境汚染の大部分を配送トラックが占めるようになってきている。
環境保護基金(Environmental Defense Fund)によれば、「全車両の酸化窒素の排出量の半分近く、また微粒子の6割近くが配送トラックによるもの」という。
UPパートナーズの共同創業者兼マネージング・パートナーであるサイラス・シガリ(Cyrus Sigari)は、ベータ・テクノロジーズのような会社が提供する完全電動の航空機を使って直接顧客に商品を届けられるようになれば、何台ものトラックや配送センターを使う現在の配送形態による排出量を完全にゼロにすることができると言う。
3. ブロックパワー(BlocPower)
ブロックパワーの社員たち。
BlocPower
拠点:ニューヨーク・ブルックリン
事業内容:リノベーションにより、低所得地域の建物のエネルギー効率を改善する。
調達額: 6330万ドル(約69億3000万円)
注目すべき理由:社会における不平等の解消とサステナビリティを同時に実現することが同社のミッションだ。エネルギー効率改善だけでなく、低所得地域に頭金なしで電動の冷暖房設備の提供も行う。
4. ジュピター・インテリジェンス(Jupiter Intelligence)
ジュピター・インテリジェンスCEOのリック・ソーキン。
Jupiter Intelligence
拠点:カリフォルニア州サンマテオ
事業内容:企業向けに、自社の環境リスクを評価・管理できるデータ分析プラットフォームを提供する。
調達額: 4000万ドル(約44億円)
注目すべき理由:ジュピター・インテリジェンスは、保険業、銀行業、資産管理、不動産、エネルギー、水道、電力、石油、ガス、製造、化学、鉱業、小売、農業、公共部門など、さまざまな業種の企業に2100年までのリスク管理分析を行うプラットフォームを提供している。
クリアビジョン・ベンチャーズのマネージング・パートナー、ダン・アンは、「このソフトウェアによって、長期的な気候変動が自社の資産にもたらすリスクを評価し管理することができます。ジュピター・インテリジェンスは、今後飛躍的に伸びるでしょう」と言う。
5. パーセフォニ(Persefoni)
パーセフォニCEOのケンタロウ・カワモリ。
Persefoni
拠点:アリゾナ州テンピ
事業内容:企業向けに自社のカーボン・フットプリントの測定・報告を行うソフトウェアを提供する。
調達額:1700万ドル(約18億7000万円)
注目すべき理由:環境関連IT分野において、これから炭素会計や炭素モニタリングが重要になってくるだろうと考えるVCは少なくない。パーセフォニはそうした機能を持つSaaSプラットフォームを提供しており、複数の大手企業がこれを使って自社のサステナビリティレポートを消費者や投資家に提供している。
6. シールド(Sealed)
シールド共同創業者兼CEOのローレン・ソルツ。
Lauren Salz
拠点:ニューヨーク州ニューヨーク
事業内容:地元の電力供給会社と提携して、既存および新設の建物に対しエネルギー効率が高く環境に優しい冷暖房設備を導入できるようサポートする。
調達額: 3800万ドル(約41億8000万円)
注目すべき理由:ブロックパワー同様、すべての家庭に太陽光発電を選択肢として提供することで、「太陽光発電の民主化」に貢献することをミッションとしている。H/Lベンチャーズの共同創業者兼マネージング・パートナーであるオリバー・リビー(Oliver Libby)によると、こうした動きはかなり大きなトレンドになっているという。
7. ユニバーサル・ハイドロジェン(Universal Hydrogen)
ユニバーサル・ハイドロジェンCEOのポール・エレメンコ。
Universal Hydrogen
拠点:カリフォルニア州ロサンゼルス
事業内容:空港に水素を運搬するモジュール型カプセルを製造。また、短距離航行の飛行機を水素で飛べるように改造するための装置を開発中。
調達額:2350万ドル(約25億8500万円)
注目すべき理由:ユニバーサル・ハイドロジェンは改造した飛行機に水素を通常貨物として載せて運搬できるような枠組みも作ろうとしている。そうすれば貨物として載せた水素で燃料補給でき、「2025年くらいに」平均的な航空機で運航する多くの地方便に対応できるようになる、としている。
プレイグラウンド・グローバル(Playground Global)のゼネラル・パートナーであるピーター・バレット(Peter Barrett)によれば、ユニバーサル・ハイドロジェンは2022年までに最初のフライトを実現する予定だという。「できそうでできなかったことを可能にするための事業に投資するのは本当にワクワクします」
[原文:7 rising climate-tech startups, according to VCs]
(翻訳: 田原真梨子、編集:大門小百合]