クマムシが琥珀に閉じ込められる過程を描いた想像図。
Art by Holly Sullivan
- クマムシは、少なくとも5億4000万年前から存在しているほぼ不死身の生物だ。
- しかしその小ささゆえに、化石を見つけるのは難しい。
- ドミニカ共和国で琥珀に閉じ込められたクマムシの化石が発見され、それに関する最新の研究論文が発表された。
クマムシは、動物界の中でも最も屈強な生物であると言われている。
というのも、クマムシは真空の宇宙空間、火山の中、南極の氷床の約1000m下にある湖などでも生存できるからだ。30年間凍結された後に、生き返ったことさえある。
クマムシは少なくとも5億4000万年前から地球に存在しているが、これまでに化石として発見されたのは2種だけだった。しかし今回、3種目の発見が発表された。
2021年10月6日に発表された研究論文によると、科学者らは、ドミニカ共和国で琥珀に閉じ込められたクマムシの化石を発見したという。
「クマムシの化石の発見は、一世代に一度あるかないかの出来事だ」と、ニュージャージー工科大学の生物学者で、今回の論文の共著者であるフィル・バーデン(Phil Barden)は、プレスリリースで述べている。
「クマムシの何がすごいかというと、古代からあらゆる場所に生息し、恐竜の滅亡も植物が地上を覆うようになるのもすべて見てきたということ。しかし、古生物学者にとってのクマムシは、化石の記録がほとんどない、幽霊のような存在だ」
バーデンの研究グループは、この化石が1600万年前のものであり、「Paradoryphoribius chronocaribbeus」というこれまで発見されていなかったクマムシの1種であることを突き止めた。
小さすぎて何カ月もの間、気付かれなかった
クマムシは、英語で「ウォーター・ベア(水のクマ)」や「モス・ピグレット(コケの子ブタ)」とも呼ばれている。体長約0.6mmで、顕微鏡で見るとジャガイモのような体に小さな爪のある8本の足が生えていて顔にはシワが寄っている、そんなクマムシにぴったりのニックネームだ。
クマムシは摂氏マイナス272度から摂氏151度までの温度や、地球の海の最も深いところの水圧の最大6倍の圧力にも耐えることができる。
さらにクマムシは、ニックネームの由来となったクマと同様、冬眠状態に入ることができ、その間は水や酸素を必要とせず、人間にとっては致命的な温度や環境でも生き残ることができる。
しかし、クマムシは生きている間はほとんど破壊されないが、体に硬い組織がないため、化石になって見つかることはない。そのため、琥珀に閉じ込められることが、クマムシが数千年にわたって保存される唯一の方法となる。しかも、クマムシは非常に小さいので、科学者が古代のクマムシを発見する可能性は極めて低いと言える。
ドミニカ共和国で発見された琥珀に、「Paradoryphoribius chronocaribbeus」というクマムシの1種が含まれていた(四角い枠に拡大写真を表示)。右上は比較のための10セント硬貨。
Phillip Barden (Harvard/NJIT)
実際、研究グループは同じ琥珀に含まれる化石化した3匹のアリ、甲虫、花について詳細に研究していたにもかかわらず、何カ月もこの新種のクマムシの化石に気づかなかったと、バーデンは述べている。
このクマムシの体長は0.6mm程度で、クレジットカードの厚さよりも小さかった。
消化器官で新種と判明
顕微鏡で捉えたクマムシの化石。
Ninon Robin/Harvard/NJIT
これまでに発見されたクマムシの化石は、いずれも琥珀の中から見つかっている。1つ目は、1964年にカナダ・マニトバ州のシーダー湖付近で発見された約7800万年前の化石で、もう1種は、20年前にニュージャージー州の琥珀の鉱床から発掘された9200万年前の化石だ。
今回発見された3種目となるクマムシの化石が埋まっていたのは、琥珀の表面近くだったため、体のパーツや器官の観測がしやすく、研究的な価値が特に高い。
研究グループは特殊な顕微鏡を使って、このクマムシの口や爪を調べ、喉や消化器官の構造を再構築することができた。
今回発見されたクマムシの化石の爪を、顕微鏡で拡大した画像。
Marc A. Mapalo; Harvard/NJIT
その結果、このクマムシが別の属・種に分類される新種のクマムシであることがわかった。
「この化石の研究に基づき、前腸の内部構造を初めて可視化し、現在のクマムシには見られない特徴の組み合わせを発見した」と研究を主導したハーバード大学の進化生物学者で論文の筆頭著者であるマーク・マパロ(Marc Mapalo)はリリースで述べている。
現在、約1300種のクマムシが存在している。今回発見されたような化石は、クマムシがどのように進化し、地球の5回の大量絶滅を生き延びたのかを解き明かすのに役立つだろうとマパロは述べている。
(翻訳:仲田文子、編集:Toshihiko Inoue)