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500万DLのタクシーアプリ「GO」のDX戦略。業界を破壊させず進化させる【モビリティテクノロジーズ・中島宏1】

中島宏 Mobility Technologies

撮影:今村拓馬

業界構造をがらっと変えてしまう、もしくはその業界ごと消失させてしまうほどのイノベーションを「ディスラプション」と呼ぶ。DX(デジタルトランスフォーメーション)が進む今日では、どの業界も常にディスラプションの脅威にさらされている。

この言葉が使われるときによく例に挙げられるのが、アメリカ発のUberだ。Uberはアメリカのタクシー業界をディスラプト(破壊)した。同様のビジネスモデルには東南アジアを中心としたGrab、中国のDiDiなどがあるが、このライドシェアという新しい輸送形態は瞬く間に世界を席巻するかに思われた。

ところが、その大波に飲み込まれなかった国がいくつかある。ドイツ、韓国、そして日本だ。

黒船Uber阻んだ日本独自のDX

uber カット

Uberは現在、80カ国以上で展開している。日本ではUberよりもUber Eatsの方がすっかり定着した。

MOZCO Mateusz Szymanski / Shutterstock.com

日本はもともと都心部でのタクシー普及率が高く、乗務員のマナーや教育も行き届き安全に乗車できること、参入障壁が高かったことなどが、その理由だと言われる。しかしそれだけではない。

日本では、約23万台のタクシーが運行している。従来、タクシーに乗るには道端で手を挙げるか、乗り場に行くか、タクシー会社に電話して迎車を頼むかが主流だった。それが今やスマホのアプリで予約から配車、支払いまで簡単にできる時代になった。

開拓者となったのはJapanTaxi社だ。2011年独自に開発したタクシーアプリは、その後約900事業者と業務提携し、「全国タクシー配車」のちに「JapanTaxi」アプリへと進化した。

一方、業界の外から真っ向勝負を挑んだのが、DeNAから2018年にリリースされたタクシーアプリ「MOV」だった。本来なら真正面から競合するライバル同士が、2020年に友好的な統合に至る。これにより日本のタクシー業界は独自の路線でDXを進めると同時に、Uberに代表されるライドシェアサービスという黒船の上陸を阻んだのである。

2社が統合した新会社「モビリティテクノロジーズ」の社長に就任したのが、DeNA時代から交通分野の課題解決に取り組み、「MOV」を率いてきた中島宏(43)だ。

社名だけ聞いてもピンとこない人でも、竹野内豊のCMは目にしたことがあるのではないだろうか。昔ながらの方法で道で手を挙げてタクシーを呼ぶ部長(竹野内)に対し、雨の日でもアプリでサクッとタクシーを呼び、代金も支払う部下の掛け合いは印象に残る。このタクシーアプリ「GO」を運営するのが、中島率いるモビリティテクノロジーズだ。

大荒れの「タクシー業界三国志」

GO CM

竹野内豊が出演するタクシーアプリ「GO」のCM。「じゃあ、どうする? GOする!」のフレーズが印象的だ。

提供:モビリティテクノロジーズ

「GO」の誕生は一筋縄ではなかった。

日本の個人客の輸送は、UberやDiDiといったライドシェア海外勢と、「JapanTaxi」アプリ、そして中島が代表の「MOV」が勢力を3分し、三国志状態になっていた。

アメリカ発のUberや中国発のDiDiが展開するライドシェアと呼ばれるビジネスモデルは、車の免許があり登録さえすれば、誰でも個人事業主として自分の車で客を運べる。

Uberは2013年に、DiDiは2018年に、それぞれ日本に進出していた。迎え撃つ日本勢、「JapanTaxi」アプリや「MOV」は、これまでタクシー業界が100年の歴史の中で培ってきた「乗客の安心安全を守る」「乗務員の労働基準や社会福祉を守る」といった既存の枠組みを残したまま、DXすべきだと考えていた。

「DXは、やるなら一気にやらなきゃいけない。しかし、業界をディスラプトするのではなく、既存の枠組みを守りながらDXする」

この中島の考えに近かったのが、「JapanTaxi」アプリを運営するJapanTaxi社の社長、川鍋一朗だった。

思想が似ている。守りたいものも、攻めたい場所も同じだ。加えて、川鍋とDeNA会長の南場智子はマッキンゼーの先輩後輩という縁もあった。

共同記者発表会

JapanTaxi社を率いていた川鍋一朗(写真左)とMOVの中島は、2020年、2年間のライバル関係を終え、ついに手を取り合うことになった。

提供:モビリティテクノロジーズ

2020年、JapanTaxi社とMOV事業等は経営統合し、川鍋を会長に、中島を社長に据えた新会社、モビリティテクノロジーズとなる。

全国のタクシー協会会長として、業界内はもちろん、国や自治体に対する影響力が大きく信頼の厚い川鍋と、DeNAで新規事業畑を歩み、サービス構築や事業戦略に強い中島。互いを補完しながら二人三脚が、スムーズに漕ぎ出している。

川鍋も「アグレッシブな中島さんと、コンサバな僕で、スキルの補完関係ができている。とても良いコンビだと思っている」と語る。

勝機は「既存産業のDX」にある

中島宏 Mobility Technologies

撮影:今村拓馬

統合に伴い、2つあるタクシーアプリのどちらのシステムを存続させるかについては、エンジニアのトップ同士で話し合ったが、ものの30分で結論が出たという。当時、利用者が多かった「JapanTaxi」アプリではなく、「MOV」のシステムに統合することになったのだ。これは、「MOV」が後発だったゆえの利を持っていたからだ。

それまでタクシーアプリは、それぞれのタクシー会社の無線につなぎ込むスタイルが主流だった。ユーザーがアプリで配車を依頼すると、「各車」ではなく「各社」に連絡がいく。その分、会社からそれぞれの車に連絡を落とす時間のロスがあった。

「その点、後発で開発したMOVのシステムは、直接車に連絡がいくので、スピーディに配車できたのです。ユーザー側も乗務員側も全てアプリ内完結。これは、後から参入した役得だったと思います」(中島)

三つ巴だったタクシー配車アプリ産業は、こうして、既存の日本の企業のシステムや思想を残しながら再編し、DXを進めることとなった。

「日本はDXに関して周回遅れだと言われています。しかし、そのおかげでUberのようなライドシェアサービスが引き起こした労働問題など、先行事例を参考にしながら改革を進めることができる。むしろ、これからがチャンスです」

既存産業を破壊するディスラプティブモデルなのか。それとも既存の産業をDXして進化させていくのか。世界中が2択を迫られる中、日本のタクシー業界がとった「既存産業のDXモデル」は、他産業にとっても参考になる側面が大きい。

実際のところ、2021年「GO」は、500万ダウンロードを達成。コロナ禍でタクシー業界は、営業利益を約4割落としたが、アプリ経由の配車数はサービス開始1年で約5倍に伸びた。コロナが収束すれば、売り上げは V字を超えて回復するのではないかという見通しも、他産業に希望を与える。

そしてこの「破壊せずに、進化する」を選んだ交通業界のDXは、今、あらゆる日本の産業の注目を集めている。周回遅れの日本が、今後世界的競争力を持ち直す指針となるのではないかと考えられているからだ。

次回はコロナ禍で進んだタクシー業界のDXを追う。

(▼敬称略・続きはこちら)

(文・佐藤友美、写真・今村拓馬、デザイン・星野美緒)

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