今回は読者の方からのご相談にお答えします。
SDGsへの意識が高く、人や社会への貢献意欲が高い女性。しかしその思いと、会社員として「利益」を追わなくてはならない現実のはざまで葛藤を抱いていらっしゃいます。
Aさんのように、仕事選びにおいて「社会貢献」という軸を大切にする方にお会いすることがよくあります。そして、中には「社会貢献」にこだわるあまり、納得がいく就職先になかなか出会えず、悩む方も見受けられます。
仕事の種類には、「ライスワーク」と「ライフワーク」があります。
ライスワークとは、ご飯を食べるため、つまりは生活に必要な収入を得るための活動。ライフワークとは、自分がやりたいこと、自分の夢を追い求める活動です。
この2つのバランスがとれてこそ、人生の充実感が得られると思います。
Aさんにとって、ベストなバランスがとれるのは、どんな配分でしょうか? それによって、今後の選択肢が変わってくると思います。
私からは、3パターンの選択肢をお伝えしますね。
1. 安定した仕事を続けながら、副業・ボランティアで関わる
世の中には、SDGsに関連する事業を手がける企業・団体はたくさんあります。
しかし、「サービスの提供対象が社会的弱者(=低所得者)」「環境に配慮した製品は、素材が割高でコストがかかる」など、利益を上げるのが難しい構造といえます。
それでも、信念を持つ企業・団体の方々が、低収入ながら多くの労働時間を費やして頑張っている現実があります。
Aさんが企画のキャリアを活かして安定収入を得続けたいと考えるなら……つまり「ライスワーク」を最重視するなら、今の会社にとどまるのが現実的と言えるかもしれません。
とはいえ、ライフワークを完全にあきらめる必要はありません。会社勤務を続ける一方、副業やボランティアなどで社会貢献を実感できる活動に参加し、心のバランスをとってみてはいかがでしょうか。
実は、そのような方は少なくありません。
私はNPO法人の理事を務めており、そこでいろいろな方にお会いします。本業では日々、合理的判断によって利益を追っているビジネスパーソンが、「社会貢献を実感したい」「ありがとうと言われたい」と、NPOに参加しているケースもあります。
会社でも家庭でもない「サードプレイス」で、自分の思いや信念を実現できれば、本業で感じているストレスはかなり軽減されるのではないでしょうか。
そのように、当面は副業やボランティアで関わりながら、知見を磨き、ネットワークを築く。そして、いずれお子さんが独立するなり住宅ローンを完済するなりで経済的に余裕ができたら、ライスワークとライフワークのバランスを変えて、ライフワークの割合を増やす道もあると思います。
2. 信念に基づいて働ける企業に転職する
やはり「ライフワーク」に重きを置きたいのであれば、転職を検討してみてはいかがでしょうか。
これまで3回転職されたというAさんは、転職に対してトラウマをお持ちのようですね。「事業理念に惹かれて入社しても、実態は異なっている」と。
けれど、Aさんが信念に基づいて働ける風土がある会社は、どこかに必ずあるはずです。その1社を探し出してみてはいかがでしょうか。
これまで経験された会社では、掲げている「ミッション・ビジョン・バリュー」が、体裁だけで実がなかった……ということのようです。
そこで、転職活動に臨む場合、候補企業が「ミッション・ビジョン・バリュー」に対し、どの程度本気なのかを見極める方法をお伝えしましょう。
面接で、次の2点を尋ねてみてください。
「ミッション・ビジョン・バリュー」が決まるまでのプロセス
素晴らしい「ミッション・ビジョン・バリュー」だけれど、「実は外部のブランディングコンサルタントが作った」というケースもあるものです。
そこで、役員クラス以上、あるいは人事のトップとの面接時に、「どのようなプロセスを経て、このミッション・ビジョン・バリューにたどり着いたのですか?」などと質問してみましょう。
ちなみに私の経験では、「社長の独断で決まった」よりも、「社員たちの声を集め、その総意によって決まった」という会社のほうが、ミッション・ビジョン・バリューの浸透に向けた活動やカルチャー醸成が現場でしっかり実践されていると感じます。
「ミッション・ビジョン・バリュー」を日々の行動に落とし込む施策
「ミッション・ビジョン・バリューの実現のため、どんな行動指針を定めていますか?日々の行動に落とし込むために、どんな施策をとられていますか?」
この質問への回答から、「ミッション・ビジョン・バリュー」が現場に浸透し、実践されているかどうかがつかめると思います。
以上、2つの切り口から質問を投げかけてみると、その会社の「ミッション・ビジョン・バリュー」への本気度がつかめるでしょう。
相手企業の回答に納得、共感できれば、入社後にギャップを感じることはないかと思います。
3. やりたい仕事を選べる自分になれるように、実力をつける
私からのもう一つの提案は、中長期視点で「ビジネス力を磨く」ことです。
Aさんは「独立してフリーランスでやっていくほどの自信はない」とおっしゃいます。ならば、しっかり実力を磨いて、自信を持てるようになればいいと思います。
そうすれば、本当にやりたい仕事を選べる自分になれる。信念を貫く仕事に、存分に取り組めるようになります。
力を磨く方法はいろいろあります。今の職場で、率先して新たなプロジェクトを立ち上げ、マネジメント経験を積むのもいいでしょう。今の職場でできなければ、ビジネススキルを磨く目的で別の会社に転職する道もあります。
ビジネススクールやセミナーなどで学び、知識とネットワークを得るのも一つの手です。
副業・ボランティアであれ転職であれ、もやもやを抱え続けるよりも、何らかのアクションを起こすための第一歩を踏み出してみてはいかがでしょうか。
※転職やキャリアに関して、森本さんに相談してみたいことはありませんか? 疑問に思っていることや悩んでいることなど、ぜひこちらのアンケートからあなたの声をお聞かせください。ご記入いただいた回答は、今後の記事作りに活用させていただく場合があります。
※本連載の第64回は、11月8日(月)を予定しています。
(構成・青木典子、撮影・鈴木愛子、編集・常盤亜由子)
森本千賀子:獨協大学外国語学部卒業後、リクルート人材センター(現リクルートキャリア)入社。転職エージェントとして幅広い企業に対し人材戦略コンサルティング、採用支援サポートを手がけ実績多数。リクルート在籍時に、個人事業主としてまた2017年3月には株式会社morichを設立し複業を実践。現在も、NPOの理事や社外取締役、顧問など10数枚の名刺を持ちながらパラレルキャリアを体現。2012年NHK「プロフェッショナル〜仕事の流儀〜」に出演。『成功する転職』『無敵の転職』など著書多数。2男の母の顔も持つ。