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年間700億円の「休眠預金」は子どもの“体験格差”を解消するか

クラウドファンディング大手のREADYFOR(東京都・千代田区)と困窮家庭の子どもの学習や居場所支援を行うNPO法人キッズドアが組み、コロナ禍の学習格差の解消に向けた緊急支援事業を開始する。鍵となるのは“忘れられたお金”“忘れられた口座”と呼ばれる「休眠預金」だ。

休眠預金をNPOの活動資金に

金融庁

休眠預金をNPOなどに助成する制度が始まっている。キーワードは「分配」だ。

shutterstock / StreetVJ

休眠預金とは10年以上にわたって取引のない預金のことを指す。

金融庁によると、2014年度から2016年度にかけて毎年約1200億円程度の休眠預金が発生。うち500億円ほどが預金者に払い戻され、残りの約700億円が“忘れられた”休眠預金となっている。

2018年には休眠預金等活用法が施行され、

(1)子どもや若者(2)障害や難病、DVなど日常生活を営む上で困難が生じている人たちへの支援、また(3)地域活性化のための活動を行う民間団体に休眠預金を助成金として分配する制度が始まった。

READYFORとキッズドアの取り組みはこの制度を利用したものだ。

コロナ禍で40億を追加

休眠預金

出典:JANPIA公式HP

休眠預金の活用は上の図のように行う。金融機関から預金保険機構に移された休眠預金は、国の唯一の指定活用団体である「一般財団法人日本民間公益活動連携機構(JANPIA)」に交付される。そこから資金分配団体を通じて、NPOなどへと助成する仕組みだ。資金分配団体はJANPIAが、NPOなどの実行団体は資金分配団体がそれぞれ選定する。

政府は新型コロナウイルスの拡大を受けた緊急対応として、「通常枠」の30〜36億円に加え、19年度は10億円、2020年、2021年度は40億円を「コロナ枠」として設けるなど、休眠預金を活用した助成金を増額してきた。

READYFORは2020年度にこのコロナ枠の資金分配団体に選定され、休眠預金約2.5億円を26団体に助成している。キッズドアもその助成を受けた実行団体の1つだった。今回は両者が共に分配団体となって現場で支援活動を行う団体を公募し、選定を行う。

クラファンでは届かない人へ

クラウドファンディング

出典:READYFOR公式HP

READYFORはこれまで約2万件、累計約200億円をクラウドファンディングを通して集めてきた。なぜ今、休眠預金なのか。10月4日に開かれた記者会見で、本プロジェクトを率いるREADYFOR基金開発室の市川衛室長は、その狙いを語った。

「クラウドファンディングはNPOなどの資金調達の選択肢として広く知られるようになりましたが、成立して間もない団体や知名度が低い団体は、大きな金額を集めるのに苦労する部分も多いです。まずはこうした助成金を使って活動してファンを作って欲しい。そして助成事業が終わった後にその人たちにクラウドファンディングに参加してもらったり、マンスリーサポーターになってもらい、今度は自分たちで活動資金を調達して活動を継続できる体制を整えてもらいたい。そのノウハウを伝えたいなと」(市川さん)

休眠預金のコロナ対応支援枠の助成期間は1年間。その間にREADYFORやキッズドアが事業戦略や担い手の育成などを伴走支援する。

今回は応募団体が想定している事業規模に応じて、500万円〜1000万円と2000万円〜5000万円の2段階の助成金を用意している。それぞれ5〜10団体ほどを選定し、総額約3.5億円を助成する予定だ。公募期間は2021年10月18日18時まで。

「まだ団体になっていなくてもいいので、志のある人に申し込んで欲しいです」(市川さん)

体験格差が学力格差に

キッズドア

提供:NPO法人キッズドア ・READYFOR

募集するのは、困窮家庭の子どもたちへの学習支援や居場所づくりに加え、コロナで減ってしまった「体験」を提供する事業だ。NPO法人キッズドア代表の渡辺由美子さんは言う。

「もともと課題だった、家でごはんが十分に食べられない、塾に行けないなどの『経済的資本』に加え、コロナ禍で『文化的資本』や『社会関係資本』がすっぽりと抜けてしまっています。ここを補っていかないと、低所得家庭の子どもたちの学力格差がますます開いていってしまう」(渡辺さん)

文化的資本:モノ(本・美術品など)、価値(学業重視・学歴期待など)、行動様式(努力・欲求充足期など)

社会関係資本:人的ネットワークに埋め込まれている、子どもを見守り、ケアし、育てていく上で活用できる手段の総体

キッズドアの無料の学習教室などに通う困窮家庭の子どもたちの中にも、低学力の子どもとそうでない子どもがいるという。キッズドアが2017年から2018年にかけて行った調査によると、低学力の子どもは「博物館・科学館・美術館などに行く」「家庭で料理をする」などの体験が少なかった。理由としては「金銭的な理由」のほかにも「家庭の方針」などが上げられたそうだ。

休眠預金活用の「柔軟さ」と「スピード感」

雑踏

shutterstock / StreetVJ

「体験活動は大事ですが、ボランティアさんを集めて勉強を教えるのとは違い、どこに行くにも何を体験させるにもすごくお金がかかります。やりたいという思いはあっても資金的にも人手的にも難しいと困っていた方々に、ぜひ今回の助成金を活用して欲しいです」(渡辺さん)

さらに渡辺さんは、休眠預金を民間団体の活動資金として活用することの意義は「柔軟さ」と「スピード感」にあるという。

「政府や地方自治体もNPOに対して貧困対策や子どもの居場所づくり事業を補助金などで支援していますが、コロナ禍に対応したものではありません。なので、コロナ禍で出てきた課題に沿った支援をやりたいとなると、その資金でまかなっていくのは難しい。

必要性を訴えて理解してもらえても、次年度で予算を立てて、それが実現できるのはまた翌年……ということに。休眠預金の助成金はスピーディーに課題に対応できるという点で、貴重です」(渡辺さん)

JANPIA事務局長の鈴木均さんによると、休眠預金を活用した事業は現在、全国で600近くが進行中だ。

「インパクトはかなり広がってきています。民間の創意工夫をいかした、公的な事業ではカバーできない社会課題の解決が期待されていると思います」(鈴木さん)

休眠預金の分配は私たちの暮らしをどう変えるのか。今後の動きを注視したい。

(文・竹下郁子

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