渋谷の街には、Luupがある風景が馴染んできた。
撮影:三ツ村崇志
東京・渋谷を中心に電動キックボードなどの小型電動モビリティのシェアリングサービスを提供するLuupは、10月13日、東京海上ホールディングス(以下、東京海上)との資本業務提携を発表した。両社は今後、電動キックボードの安全性向上を目的に協業を進めていくとしている。なお、出資金は非公表。
資本業務提携にともなう具体的な取り組みは次の4点。
- マイクロモビリティの安全な利用体制の確立に向けたリスクコンサルティング
- 走行データを活用した、マイクロモビリティ向けの新商品、サービス等の研究
- ポート設置場所の拡大、提携先の開拓
- 安全講習会の実施など、その他マイクロモビリティの普及に向けた協業
この中でも、とりわけ今回の資本業務提携で重要となる取り組みは、大きく2つある。
電動キックボードが抱える「課題」とは?
Luupと東京海上の協業の具体的な内容。
撮影:三ツ村崇志
Luupにとって重要な取り組みの1つは、電動キックボードの安全性の向上に対する取り組みだ。
Luupの岡井大輝代表は、
「メンテナンス、給電、製造を含めた現状のサービスの安全性だけではなく、ちまたに増えてきた違法キックボードの撲滅、キックボード市場全体の啓蒙活動を含めた、全体の安全性の向上を目指します」
と今回の提携の狙いを語る。
Luupは2021年4月から渋谷区を中心に、新事業特例制度を利用して電動キックボードのシェアリング事業をスタートさせている。これまでの累計走行距離は30万キロメートルを超え、東京の街中では、電動キックボードの姿を見る機会が増えてきた。
その一方で課題となっているのが、Luupをはじめとしたさまざまな電動キックボードによる「交通トラブル」だ。
電動キックボードは、基本的に原動機付自転車(以下、原付)と同じ枠組み。運転するには免許が必要になることはもちろん、機体へのナンバープレートの装着、運転者はヘルメットの着用などが義務付けられている。
Luupが2021年4月から実施している実証試験では、この規制を再考するためのデータ収集を目的に、ヘルメットの着用が任意になったり、原付相当から小型特殊自動車相当へと枠組みが変更されていたり、例外的な取り扱いとなっている。
ただしそれでも、その手軽さから自転車のように利用されてしまい、禁止されている「歩道の走行」などの現場を見かけることもある。
加えて、海外メーカーから輸入し、ナンバープレートやヘルメットを未装着で利用されている「違法キックボード」による走行も目立つ。
今後、電動キックボードの利用がさらに拡大したり、新たな小型電動モビリティが登場したりする中で、適切にリスク・安全性を管理する方法や、業界としての走行ルールの周知・徹底が課題となっていたというわけだ。
電動モビリティは本当に安全か?プロの目でリスク分析
Luupの岡井代表(左)と、東京海上の中西氏(右)。
撮影:三ツ村崇志
岡井代表は、今回の資本提携にいたる経緯に関するBusiness Insider Japanの質問に対して、
「Luupのサービスは場合によっては人命に関わることから、もともと慎重に安全性の確認を進めていました」
と前提となる考え方を語った。
岡井代表らが業界団体を組織し、電動キックボードに限らない小型の電動モビリティの普及も視野に入れて、各省庁と連携しながら安全性に関わるルールづくりに励んでいたのも、その危機意識のあらわれだ(参考)。
しかし、4月に電動キックボードのシェアリングサービスをスタートさせて以降、サービスがめざましく伸びていく中で、同時に事故の発生件数の絶対数も増えてきていたという。
「関係省庁らとの連携以外に、何か安全性に関して見落としている『盲点』がないか」
それを探すためには、モビリティの歴史や最新事例に精通する第三者からの厳しいフィードバックを受け、自社製品のリスクを知る必要がある。
そこで白羽の矢が立ったのが、日本初の自動車保険の販売を手掛けた東京海上だった。
記者会見に参加した、東京海上日動、デジタルイノベーション部長の中西光氏は、
「電動キックボードは、自賠責保険、自動車保険で対応するのが現状です。しかし、現状のルールはあまり知られていません。まずはその周知徹底を進めていきたい。
(リスク評価などを得意とする)東京海上DRの知見を活かして、Luupを含む電動キックボード全般に対する交通面・製品面についての考えられるリスクについて洗い出し、安全な乗り物としての社会受容の向上に寄与しよう考えています」
と話す。
次世代モビリティに関する貴重な「データ」
筆者も何度か電動キックボードに乗ったことがあるが、慣れないうちは自転車とも自動車とも少し違う乗車ルールに戸惑うこともあった。
撮影:吉川慧
また、今回の資本業務提携で重要と言えるもう1つの取り組みは、Luupが蓄積した走行データなどを元に、電動キックボードをはじめとしたマイクロモビリティ向けの新しい保険商品・サービスの研究も進めていこうとしている点だろう。
「Luupと提携をさせていただく大きな理由の一つが『データ』なんです。過去の統計データ、どれだけ走行されてどれだけの事故があり、その結果何が起きたのかが分からなければ、どの程度の保険料をいただいてどのくらいお支払いしなければならないのか判断できません」(中西氏)
自然災害のように、これまで起きたことないような未知のリスクに備える保険商品を作ろうとした場合、さまざまなデータをもとにモデルを立て、リスクの大きさや保険料を推定しているという。
電動キックボード用の保険の開発はもちろん、将来、新たな電動モビリティが登場することが想定される中で、果たしてどのような保険が必要になってくるのか。その貴重な先行事例として、Luupのデータを活用する、ということだろう。
そう考えると、今回の提携は電動キックボードだけに留まらない、未来のモビリティのあり方を決めるための一歩目だとも言えるのかもしれない。
(文・三ツ村崇志)