レキシー・チェリゾール(Lexi Cherizol)は採血専門スタッフとして病院に勤めていたが、昨年失業した。
これをチャンスと捉えたチェリゾールは、独立して新しいキャリアを切り開くことに決め、マーケティングとブランディングの会社「プロラックスマーケティング(Pro Luxe Marketing)」を立ち上げた。クライアントの獲得にはTikTokを活用している。
チェリゾールのように新しく事業を始めた人は実に数百万人規模と、記録的な数にのぼる。アメリカ合衆国国勢調査局(US Census Bureau)によれば、2020年の新規起業件数は430万件。今年はすでに380万件だ。
この増加傾向は一過性のものではなく、時代を反映したものだと見る専門家もいる。コロナ禍の中、解雇された人ややりがいを見出せず辞めた人が、キャリアチェンジを図っているのだ。2021年7月には自営業者の数がこの8年で最多となったことが、セントルイス連邦準備銀行(Federal Reserve Bank of St. Louis)のデータで明らかになった。
これは、ソロプレナー(訳注:単独で事業を起こす人)、フリーランサー、パラレルワーカーのような、新しい働き方の到来を告げる動きだ。
起業熱は一過性ではない
ニューヨーク大学W. R. バークレーイノベーションラボ(W.R. Berkley Innovation Labs at New York University)でディレクターを務めるシンシア・フランクリン(Cynthia Franklin)は、この新規開業件数の上昇を分類するには時期尚早だという。
「ここ数年、起業の動きが鈍かったので前向きな兆候ではありますが、現在の動向を十分に理解するには早すぎます」という。
とは言うものの、開業件数が落ち込みそうな気配はない。「起業には波があります」と言うのは、ペンシルベニア大学ウォートン校(the Wharton School, the University of Pennsylvania)で経営論を教えるジャクリーン・カートリー助教授(Jacqueline Kirtley)だ。「2000年以降最初の10年は、開業件数が減っているのではという懸念がありましたが、実際は減少ではなく横ばいでした」
自営業者が増加
テクノロジーにより働き方が変化し、どこにいても事業を始められるようになった。フリーランサーやギグワーカーがオンラインで使えるリソースやサービスも充実している。
「今はフリーランスになるのもずいぶん敷居が下がりました。クライアントも獲得しやすくなったと言えます」と前述のカートリー助教授は言う。
2020年に起業件数を押し上げた主因はおそらく、退職して独立する道を選んだ人々が増えたことによるものだろう。「この傾向がいずれ止まるとは限りません。ビジネスのあり方が変わっているということです」と助教授は述べる。
実際、国勢調査局が把握している新規事業の35%は、人を雇う可能性が高い。2019年に雇用を創出したのは、新規に開業した事業全体の38%だった。「コロナ禍前から増えていたということです」と助教授は指摘する。
自営業者が再び組織に就職する道を選んだ場合は、公式に廃業手続きをしない限りデータに反映されない。「今後バブルになるというより、調整が入るということだと思います」と助教授は見ている。
起業意向は強含み
コロナ禍により、それまで十分には満たされていなかったニーズが浮き彫りになった。例えば、メンタルヘルスを改善するためのテクノロジーや、マイノリティ起業家への資本支援等だ。フランクリンは次のように指摘する。
「いくつかの産業で、あるいは社会のさまざまな側面で、構造的な調整を必要としてきた事柄はたくさんあります。それらが新たな機会を生み出したということです。中には恒常的な変化もあるでしょう」
確かに労働統計局(Bureau of Labor Statistics)のデータによると、新規事業が5年間後に生き残っている可能性は50%だ。起業に関するデータを見るだけでは全体像はつかめない。会社勤めに戻る人は必ずいるが、情熱を持てる仕事に従事し続ける人もいるはずだ。
「それは動機によると思います」とフランクリンは言う。究極的には、事業が長期にわたって成功するには、市場との相性が大事なのだという。「いいアイデア、いいマーケット、そして人とは違う特別な商品やサービスを提供する能力が必要です」
そしてこう付け加えた。「今は、起業するには素晴らしいタイミングと言えると思いますよ」
(翻訳・カイザー真紀子、編集・常盤亜由子)