会社を一度退職したが、ブーメランのように戻ってくる社員が増えている。
Samantha Lee/Insider
アメリカ経済に「大退職時代(Great Resignation)」が到来し、あなたの周りでもコロナ禍をきっかけに会社を辞めた人が少なくとも数人はいるだろう。2021年10月12日のアメリカの労働統計局の発表によると、8月だけでアメリカの退職者数は430万人にのぼり、わずか1カ月前の過去最高を更新した。しかし、次に会社を辞める同僚の送別会を開く前に、考えてほしい。退職した人の中には、「ブーメラン社員」として戻ってくる人もいるかもしれないことを。
テキサスA&M大学で退職について研究しているアンソニー・クロッツ(Anthony Klotz)経営学教授はそのように語る。クロッツ教授は、マクロ経済のデータに現れる以前の2021年5月の段階ですでに退職者の急増を予測しており、「大退職時代(Great Resignation)」という言葉を生み出していた。
このため筆者は、クロッツ教授は次に何が起こると予想しているのかと、取材を楽しみにしていた。しかし、10月12日に新しい雇用統計が発表された後で電話をしてみたところ、教授が去年の春に立てていた別の予測の話題になった。
その予測とは、仕事を辞めた人の多くが元の職場に戻ってくるというものだった。当時ブルームバーグ(Bloomberg)に対して語っていた通り、「これからたくさんの『ブーメラン社員』が元の職場に戻ってくるでしょう。1年前に職を失ったものの、その後のストーリーは思っていたほどうまく行かなかったことに気づいた人たちです」という。
クロッツ教授はブーメラン効果がすでに出始めていると見ている。教授が語ってくれたのは、会社からは休暇を取るか休職扱いにしてはどうかと言われていたのに、2021年の春に会社を辞めることにしたある社員の話だ。
それから数カ月して、結局彼女はチームの皆が恋しくなり、元の職場に戻る決意をしたという。現在のような労働者不足の状況にあって、彼女の元の職場の雇用主は、復帰は大歓迎だと言って彼女を迎え入れた。
以前は雇用主が辞めた従業員を再雇用することはまれだった。アメリカ企業では、退職は会社に対して不誠実な行為だと見なされることが多い。「ほとんどの企業はまだ、会社を辞めることは、一種の裏切りと考えています。特に同じ業界内で転職する場合や、競合他社に移った場合はなおさらです」とクロッツ教授は言う。
しかし今は、企業も、辞めた社員を未来の従業員予備軍として大切に考えておいた方がよいと促している。「従業員の採用は本当にとても大変な作業です。しかも、仕事ぶりを見るまではその人が優秀かどうか分かりませんから、採用時に見分けるのが得意な人なんていません。でもブーメラン社員ならば、以前一緒に働いたことがある人ですから、選考プロセスでのリスクは低減されます」と語る。
元の職場に再雇用された人の正確な数について政府は統計を取っていないため、「ブーメラン現象」がこの数カ月でどのくらい広がっているのかを判断するのは難しい。しかし、クロッツ教授の仮説には興味を掻き立てられるいくつかの理由がある。
一つは、燃え尽き症候群が現在の退職者数増加の大きな要因だという点だ。従業員体験プラットフォームのライムエード(Limeade)が2021年に転職した1000人を対象に行った調査によると、退職理由のトップは燃え尽き症候群だった。
しかし、燃え尽き症候群を治すのに必要なのは、新しい仕事とは限らない。ただ休むことが必要なときもある。長時間労働による疲労感やコロナ禍でのストレスを感じていた従業員の中には、しばらく休んでリフレッシュしたら、元の職場に何の問題もなく喜んで戻りたいと思う人もいるかもしれない。クロッツ教授によると、このような理由から長期有給休暇を導入する企業が増えているという。優秀な人材を永遠に失うよりも、数カ月間手放す方がいい。
クロッツ教授が正しかったのではないかと考えられるもう1つの理由は、コロナ禍の間、本当は雇用主に関係なく皆が大変だったのに、自分の大変さを仕事のせいにする人もいたのではないかという疑念だ。
大手人材紹介会社のロバート・ハーフ(Robert Half)の役員、ドーン・フェイ(Dawn Fay)は6月に、会社を急いで辞めようとしている人があまりにも多く心配だと語っていた。人々が新しい仕事を探していた大きな理由は、コロナ禍の間に自分の専門的キャリアの能力開発が停滞していると感じていたからだという。
「しかし、物事が行き詰まっていたのは、世界が行き詰まっていたからなのです。今の会社にいても、どこか別の会社にいても、それほど大きな差はないかもしれません。違うことに飛びつく前に、一歩引いて『自分は何を探しているのか』を考える必要があります」と彼女は指摘する。
自分の決断を後悔している退職者にとって、元の職場に戻るのは気まずいことかもしれない。元恋人にもう一度付き合って欲しいと頼むようなものだ。少なくとも自尊心に傷がつくし、悪くすれば屈辱的ですらある。だからこそ、怒りに任せて辞めたい誘惑が頭をかすめても、円満に退職することが非常に重要なのだ。
クロッツ教授に対して、退職予定の従業員に対する助言を求めたところ、出てきた言葉の多くが恋愛関係の上手な解消の仕方のハンドブックを思い起こさせた。
辞める意志を上司に伝える時は、できれば携帯メールやEメールでなく、直接会って話すか電話で話すこと。一緒に過ごした素晴らしい時間に感謝の気持ちを表すこと。何よりも、目の前にいる「もうすぐ元上司になる人」に対して捨て台詞を吐いてやりたいという気持ちを抑えることだ。そしてなぜ辞めるのかと聞かれたら、別れの際の常套句、「あなたのせいではなく、私のせいなんです(会社が悪いのではなく、個人的な理由です)」を使うことだ。
しかしクロッツ教授は、現在の労働力不足を考えると、辞めていく従業員と良好な関係を維持することは雇用主の責任でもあると強調する。手始めとして、退職者に向けた面談などのプログラムを、入社時と同じくらい気分よく実施することを提案している。教授はまた、退職する従業員に親切に接する企業文化を持つ経営コンサルティング会社を手本とすることを勧めている。いつの日か退職者が自分たちの顧客になるかもしれないことを彼らは理解しているからだ。
同窓会を開いて人脈を培おうとする退職者も多い。そこまでしている企業はほとんどないだろうが、クロッツ教授は雇用主らに対し、退職者の動向を時々チェックして、新しい仕事がどうなっているかを確認するとよいとアドバイスしている。
「転職して数カ月は新しい会社と蜜月が続きます。しかしその後にまるで酔いから覚めた二日酔いの朝のように、憂鬱な気分で沈む時期がやってきます。そんな時期に前の職場から電話がかかってきて戻ってこないかと言われたら、私ならOKと言うと思います」
ひと昔前まで、社員は1つの会社で定年まで勤め上げるのが一般的だった。しかし現在では、平均的な労働者は50代半ばまでに12回転職するという。この数字はもっと若い世代になるとさらに上昇すると見られる。
私たち皆が経験から分かっているように、別れの後に過去を悔やむのは最悪のこだだ。現時点で雇用主と従業員にできる最善のことは、未来に適応することだとクロッツ教授は指摘する。誰もが過去の不平不満を解消できれば、たくさんの再会が実現するだろうと。
「従業員はこう言います。『会社からはずいぶん前に契約を切られました。予告もなく急に辞めさせられたんです。それなのになぜこちらから予告して戻らなければいけないのですか?』と。一方、会社はこう言います。『最近の社員には忠誠心がない。何かあると待ってましたと言わんばかりにいなくなってしまう』と。しかし実際には、双方がもう少しだけ歩み寄ることができれば、労働環境はもっと良くなるでしょう」
[原文:'Boomerang employees' who quit during the pandemic are starting to ask for their old jobs back]
(翻訳:渡邉ユカリ、編集:大門小百合)