現在の現役大学3年生以降は、イチからオンラインで就活を乗り切らなければならない。
撮影:今村拓馬
2年におよぶコロナ禍で「就活のルール」自体が大きく変わりました。
現在の大学1・2年生はコロナ禍での入学した世代ですが、就活が早期化する中で、大学1年生の時からすでに就活を始めることも珍しくありません。
オンライン就活が主流になり、「リアル」な社風が伝わりにくい環境で、Z世代はどのように信用できる就活情報をかき集めているのでしょうか。
商品・サービスのアイデア着想に活かせる若者研究を提供するプランニング組織「Zs」に所属するZ世代のメンバーに話を聞きました。
「本音で語る」就活イベントに疑念
「学生に見せる情報っていい情報だけ。企業側が学生に向けて発信する情報だけで判断することはできない。(22歳・大学4年生・男性)」
「就活は企業がいいとこしか見せてくれないという疑念はある。(20歳・大学2年生・男性)」
就活説明会やOB/OG訪問もオンラインになってしまったため、就活生たちは会社の雰囲気がどうしても分かりづらいという不満も抱えています。
NPO法人エンカレッジが実施した「オンライン就職活動に対する意識調査」によると、オンライン就活で足りないと思うものの1位は「裏話など、企業説明会で聞けないことを聞く機会」だそうです。
画像:NPO法人エンカレッジ「オンライン就職活動における学生の意識」
現役就活生からはこんな不満の声も聞こえてきます。
「最近就活団体や企業が開催するイベントに対して思うのは、イベント名の全てに『本音で語る』『裏まで話します』とかの冠がつきすぎている。正直、とりあえずつけてるくらいだよなと思っている。(21歳・大学3年生・女性)」
就活生との距離の近さをアピールした就活イベントはかつてから人気でした。しかし今、そこで見せる本音に対しても、100%信用できるものではない、と学生は考えているようです。
チャット欄の“名前呼び”で社風を読む
では、Z世代にとって「信用できる」企業の情報とは一体なんなのでしょうか。ある就活生は、オンライン説明会での社員同士のチャット欄のやり取りを見て、社風を読み取ろうとしているといいます。
「オンライン説明会で、チャット欄が社員同士で盛り上がっている企業は風通しがいいんだなと思う。登壇者に対して『出た誰々』とか社員が盛り上がっている企業はいいなと思う。(22歳・大学3年生・女性)」
チャットの様子。「プレゼンファイティン!」など社員同士で声を掛け合う(写真はイメージです)。
画像:「Zs」作成
たかがチャットの様子だけで分かるものなのか?と思う方もいるかもしれません。けれど普段の様子に近い、リアルな状態の社員を垣間見られることがZ世代が注目するポイントとなっているようです。
名前やニックネームなど、どう呼び合っているかも確認している学生もいました。
「社風が分からないため、企業側で参加していた人たちがどのように呼び合っているのかに集中して聞いている。(23歳・大学4年生・女性)」
逆にチャット欄も盛り上がらず、かしこまって静まり返っているようなオンライン企業説明会は、企業が見栄えを重視し、本当の社風を隠していると捉えられてしまうかもしれません。
企業の「Twitterフォロー先」で業界分析
志望する企業が採用専門のアカウントを持っていないかを探すのは当たり前のようだ(写真はイメージです)。
画像:「Zs」作成
本質的な情報が欲しいZ世代の情報収集テクニックは、それだけでは終わりません。
企業の人事部が就活生向けに自社のTwitterアカウントを運営している取り組みも見受けられます。そうした人事部のTwitterアカウントを見つけ、その企業がどこの企業と関わりや交流を持っているのか、どういう「界隈」なのかを見ているというのです。
「ある企業のTwitterのアカウントを見つけて、その企業が誰をフォローしているかを見る。その中でどこかの企業をフォローしていたらそれはその企業にとって利益をもたらす企業か交流のある企業だと判断している。(22歳・大学4年生・男性)」
企業の採用アカウントがどこの会社をフォローしているかを確認。ここから企業同士の関係性を見ているそうだ(写真はイメージです)。
画像:「Zs」作成
コロナで就活を自分一人でしなければならない状況になっている今の就活世代。「この企業と仲がいいです」といった情報は企業側から公式には発信されないからこそ、表向きに流れてはこない情報をSNSを通じてかき集めているのです。
IR情報で「コロナを乗り切れてるか」確認
IR情報も、学生にとっては企業を知る大切なツールの一つだ。
撮影:今村拓馬
なぜ、現役大学生たちは企業が発信するメッセージに疑いを持つようになっているのでしょうか。背景としては、Z世代の日頃の広告への接し方が考えられます。
例えば、TikTok Adsの調査によると、「広告の嘘や誇大表現に気づく」と回答する割合が62%に上りました。(スマートフォンネイティブ広告意識調査:全国15〜34歳の男女)
このように、情報そのものに対して常に疑いの目を持って接しているZ世代だからこそ、「就活情報」に対しても同じような向き合い方をするようになっているのではないでしょうか。
こうした背景もあり、彼らにとってはIR情報も企業を知る大切なツールになっています。
「コロナ禍で雰囲気で企業を見るのが難しくなったからこそ、客観的にその企業を把握するためにはIR情報の優先度が高くなっている。これは自分の周りの学生たちからも話が出る。ゆるがないデータだから、恣意的ではない情報だと思える。(20歳・大学2年生・男性)」
写真はイメージです。
画像:Shutterstock
コロナ禍により、あらゆる企業が業績への影響を受けている中、志望企業がどれだけうまく乗り切れているのか、変化に対応できているのか、といった点を見抜く上で、IR情報は役立つと言います。
興味深いのは、彼らが特に着目しているデータは足元の売り上げや利益率だという点です。中長期戦略に描かれているビジョンや5カ年計画などの指標は、またコロナのようなことが起こるかもしれないのであまり当てにしていないと語っていました。
また、ビジョンについては、どの企業も同じような「環境保護」や「豊かな社会の実現」などといった趣旨のメッセージを発信しているので響かないという声も聞こえました。
つまり、コロナ禍の就活生だからこそ、企業の将来性よりも、今この現実社会で対応できているかどうか、企業の適応力の方が気になるというのです。
IR情報の読み解き方については、投資ファンドにインターンに行った友人からIR情報の専門用語を教えてもらったり、株式投資を始めている先輩に聞いたりと、工夫して情報を集めているようです。
仮に分からない言葉があったとしても、今は簡単にググったりYouTubeで解説動画を見たりもできます。デジタルネイティブなZ世代の学生にとって、IR情報はそれほどハードルの高いものではなくなっていくのかもしれません。
スカウトサービスは「知らない企業を知れる」
オンライン就活が追い風となって、企業から学生に直接オファーが送れる「スカウトサービス」にも脚光が当たっています。
就活サービス「career ticket」が実施したスカウトサービスに関する意識調査によると、2022年4月に大学卒業予定の男女303人のうち6割以上がスカウトサービスを利用したことがあったそうです。
出典:career ticket
Z世代はこうしたサービスを利用し、自分から探すことができなかった企業の存在を知れる情報収集ツールとして活用していることが分かりました。
「サポーターズ、iroots、OfferBoxなど3種類くらいのスカウトツールを利用している。コロナ禍の就活は一人でやらないといけない状況が多いからスカウトツールも使って知らない企業の情報を収集している。(22歳・大学4年生・男性)」
さらに情報感度の高い学生からは、このスカウトサービスを利用して企業の対応がちゃんとしているかどうかをチェックする機会になっていることもわかりました。
「以前私が23卒なのに22卒としてオファーされ、間違っていませんかとお問い合わせしたら『間違いでした、辞退してください。』と返されたのでそれ以来適当に送っているんだろうなあと思ってしまった。(23歳・大学4年生・女性)」
このように、一度間違った対応を企業側がすると信用が下がってしまう危険もはらんでいますが、学生としては真摯に対応してくれる企業を求めているので、就活に対する企業の本気度を暴きやすい機会にもなっているのかもしれません。
“演出っぽくない”コミュニケーションを
今までの就活では、社員インタビューを掲載したり、OB/OG訪問に力を入れたりすることが、企業のリアルな社風を伝える機会でした。しかしオンラインという環境では、「リアル」な社風はより伝わりづらくなっています。
今回は、オンラインで企業のリアルな姿を見抜くためにあらゆる手を使う、Z世代の行動にフォーカスしてきました。
調査を通じて感じたのは、今学生が企業に求めているのは、活発な社員同士のコミュニケーションを学生に見せることなのではないか、ということです。
疑い深いZ世代には付け焼き刃での対応力は簡単に見破られてしまいます。時間はかかるかもしれませんが、社員同士のインナーコミュニケーションを丁寧に育てていくことが、これからの採用活動にはより重要になっていくと考えられます。
牧島夢加:株式会社博報堂ミライの事業室(ビジネスデザイナー)/ 現役大学生らと共に、Z世代を中心とした若者の思考回路や消費行動を分析し、その知見をもとにクライアントの次世代攻略プロジェクトに活用。ゼロイチから立ち上げるZ世代向けのブランド開発や商品・サービス開発などに従事している。