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日本経済の悪化ぶりは別次元。最新のIMF「世界経済見通し」が示すアフターコロナの“国際格差”

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国際通貨基金(IMF)が「世界経済見通し」の秋季改定を発表した。日本には世界各国とは別格の厳しい評価記述が見受けられた。

REUTERS/Kim Kyung-Hoon

国際通貨基金(IMF)が10月12日に秋季の「世界経済見通し」を発表した。世界各国の成長率予想が引き下げられた。

サブタイトルは「パンデミック中の回復~公衆衛生の懸念、供給混乱、物価圧力」で、足もとのリスクを示す3つの論点が並んだ。

これらの論点は相互に絡み合っていて、「デルタ変異株の感染拡大により、世界の供給網が寸断され、需要超過の状況が極まって物価が上昇している」というのが実情だ。

世界経済のどの地域もこうしたリスクから逃れることはできていない。

破竹の勢いで回復と成長を続けてきたアメリカもイギリスも今回、2021年通年の成長率見通しが下方修正された【図表1】。

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【図表1】2021~22年にかけてのG7の成長率軌道(前年比%)。接種率は1回でもワクチンを打った人の人口比率(10月13日時点)。

出所:IMF「世界経済見通し(World Economic Outlook)」2021年10月版より筆者作成

とはいえ、両国は下方修正後の数字でもなお、潜在成長率(=資本・労働力・生産性から計算される中長期的に持続可能な経済成長率)に比べ倍の勢いを維持している。

インフレ圧力の高まりが懸念される現在の状況を踏まえれば、この程度の減速は「朗報」にも感じられる。

世界経済全体を見ても、プラス6.0%から5.9%へとわずか0.1%の下方修正で、現行の統計をさかのぼれる1980年以降で最高の成長率だ。過度に悲観視する必要はない。

日本経済の悪化が際立つ

なお、先進国全体の成長率もプラス5.6%から5.2%への下方修正となったが、それはアメリカの下方修正(マイナス1.0ポイント)の影響が非常に大きい。ドイツ(マイナス0.5ポイント)および日本(マイナス0.4ポイント)の影響もある。

アメリカの下方修正の理由としては、第2四半期(4~6月)は大幅な在庫とり崩しが、第3四半期(7~9月)は消費減速がそれぞれ指摘されている。在庫取り崩しは供給制約の影響も当然あるだろうが、需要が力強いゆえの結果という側面もある。

また、ドイツの下方修正については、生産活動全般にわたって部品不足が響いており、国内製造業の力強さが裏目に出た形だ。

かたや日本に関しては、「7月から9月までに発せられた4回目の緊急事態宣言の影響」が指摘されており、世界経済が直面するリスクとは別の次元で悪化していることがわかる。

そうした日本の特異性は下方修正の経緯を見ても明らかだ。

下の【図表2】は2021年、2022年の世界経済見通しについて、先進7カ国首脳会議(G7)諸国の修正幅(4月見通しと10月見通しの差)を比較したもの。

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【図表2】IMF「世界経済見通し」の修正幅(2021年4月版と2021年10月版の比較)。

出所:IMF「世界経済見通し(World Economic Outlook)」より筆者作成

2021年と22年の合計(図表内の赤丸)がマイナスになっているのは日本だけだ。

言い換えれば、日本以外の先進国は春先以降、紆余曲折ありながらも「思っていたより調子が良い」ペースで走れているが、日本だけはそうではない

過剰な貯蓄があるのに、消費も投資も盛り上がらない

さらなる感染拡大が見込まれないとした場合、今後の世界経済の焦点は「供給網の回復はどれくらいのペースで進むのか」にかかってくる。それはインフレ圧力の抑制にも効いてくるはずだ。

今回の世界経済見通しでは、2022年半ばにはインフレ率がパンデミック以前のレンジに収束することが予想されている。

IMFのベースシナリオは保守的になりがちであることを差し引いても、あと半年ほどは現状が続く想定ということになる。

ちなみに、こうしたインフレ圧力の「燃料」のひとつが、パンデミック下で蓄積した民間部門の「過剰貯蓄」だ。

供給制約はもちろん根本的な問題だが、より不運なのは、貯蓄に支えられた需要の爆発が重なっていること。インフレ圧力を一段と押し上げる結果となっている。

下の【図表3】からわかるように、先進国の多くはいまだにそうした過剰貯蓄を抱えており、その分だけ需要が吐き出される余地があるという理解になる。

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【図表3】世界各国の過剰貯蓄の状況(=想定される貯蓄額を超えた割合)。右端のカナダがトップ、その左(赤い点線枠)が日本で第2位。

出所:IMF資料より筆者作成

日本はカナダに次いで世界で2番目に大きく、過去の傾向から推計される貯蓄額の倍額の水準(約200%)まで高まっている。

ただし、世界各国と日本の違いは「貯蓄を開放する」段階に至っていないことだ。

これほどの貯蓄があっても消費・投資が盛り上がる兆候はなく、逆に成長率の切り下げが続く、その背景には何があるのか。

さまざまな要因が考えられるが、やはり日本には成長がまったく期待できないということに尽きるのではないか。

IMFが世界経済に対して「供給網の寸断」「インフレ高進」をリスクとして指摘する傍らで、日本だけは「緊急事態宣言の影響」と整理しているのが象徴的だ。

世界が需要や供給、物価といったアフター・コロナの悩みを抱えているのに対し、日本だけはまだコロナ禍に苦しんでいる。にもかかわらず、ワクチン接種率はイギリスを抜いて世界トップ集団入りし、死者数などもきわめて低水準に抑えられている。何とも皮肉な話だ。

端的に言えば、拙(つたな)い防疫対策によって自滅した結果がこの惨憺(さんたん)たる状況ということになるだろう。

※寄稿は個人的見解であり、所属組織とは無関係です。

(文:唐鎌大輔

唐鎌大輔(からかま・だいすけ):慶應義塾大学卒業後、日本貿易振興機構、日本経済研究センターを経て欧州委員会経済金融総局に出向。2008年10月からみずほコーポレート銀行(現・みずほ銀行)でチーフマーケット・エコノミストを務める。

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