タイムズスクエアの電光掲示板に表示されたNFTデジタルアートのCryptoPunksの前を通る人々。
Alexi Rosenfeld/Getty Images
世界最大規模のNFT(Non-Fungible Tokens)マーケットプレイス、オープンシー(OpenSea)のデビン・フィンザー(Devin Finzer)CEOは、暗号資産の流行を「文化的なムーブメント」だとみている。
フィンザーは、2021年10月7日に放送されたポッドキャスト『Founder's Field Guide(創業者によるフィールドガイド)』で、ホストを務めるパトリック・オショーネシー(Patrick O'Shaughnessy)にこう語った。「今では誰もが暗号資産に夢中です。周りの人もみんな持っているし、ゆっくりと、しかし着実に暗号資産コミュニティは拡大しています」
2017年にフィンザーが共同で創業したマーケットプレイス、オープンシーの業績を見れば、その発言が裏付けられていると分かる。
2021年8月の月間取引高は34億ドル(約3890億円)にのぼり、わずか12カ月前の約100万ドル(約1億1400万円)から急伸した。現在、同プラットフォームには約2200万点のアイテムが出品されている。
マーケットプレイスをいち早く築き、老舗へと成長したオープンシーは、2021年初めにNFTへの関心が高まった際、完璧な立ち位置にいた。NFTは非代替性トークンとも呼ばれ、唯一性があり、そのほとんどが他とは代替できない独自の価値を持つデジタルアイテムであり、オンラインで売買できる。
NFTは暗号資産と同様に、ブロックチェーン技術を用いてデジタル所有権を記録できる。暗号資産イーサを取り扱う、イーサリアムというプラットフォームのブロックチェーン上でNFTは取引され始めたが、現在にいたっても、NFTの大半の売買はイーサに限定されている。
暗号資産やブロックチェーンビジネスには市場サイクルがあるため、価格が熱狂的な買いで高騰した後、いきなり下落することも珍しくはないとフィンザーは言う。
「会社としてキャッシュフローと暗号資産管理を徹底して、そのような事態に備えておかなくてはいけません」と話した。
ムーブメントとしてのNFTアート
フィンザーによると、最近注目されているNFTのジャンルにジェネレーティブ・アートがある。これは、人の手を使って描かれるのではなく、コンピューターのアルゴリズムによって生成されるため、1人のアーティストがユニークで独特な作品を大量に生み出すことができる。
ジェネレーティブ・アートのFidenzaコレクションのひとつ「Fidenza #313」は、2021年8月23日にオープンシーにて1000イーサ(当時330万ドル)で転売された。クリエイターのタイラー・ホッブス(Tyler Hobbs)はソフトウェアエンジニアの仕事を辞め、フルタイムの専業アーティストに転身し、推定総額8500万ドル(約97億円)の転売額から、すでに400万ドル(約4億5700万円)以上のロイヤルティ報酬を得ている。
また、プロフィール画像風のNFTが見られるようになったのも、暗号資産ムーブメントの特徴だとフィンザーは指摘する。
「世界中で話題の『Bored Ape Yacht Club(ボアード・エイプ・ヨット・クラブ)』や『CryptoPunks(クリプト・パンクス)』といった特定のNFTアートは、文化的ムーブメントになりつつあり、周囲に自己アピールしたり、お互いを理解したりするツールにもなっていると思います」とフィンザーは言う。そして、この2つの人気デジタル画像コレクションは、Twitterやアメリカのチャットサービス、Discordなどでたくさんのユーザーが自分のアバターとして使用していると話す。
NFTを所有すると、会員限定の特典があるコミュニティに参加できたり、独自のデジタル・アイデンティティを得ることができる。
誰もが数分でNFTを所有できるように
今は一人ひとりが独自性にこだわる傾向が強まっており、それが今後のNFTマーケットプレイスの特色に大きく反映されるだろうとフィンザーは強調する。
フィンザーはこうも語った。「もっとカスタマイズされた、自分に合った体験ができるようになると思います。できれば5年以内に実現したいですね。そして一般のユーザーが簡単にアクセスできるようにもしたい。誰でも数分でNFTを所有できるようになるのが、とても大事だと思います」
現在、NFTは主にデジタルのコレクターズアイテムを指すが、フィンザーは将来的にはこれも変わる可能性があると考えており、いつの日かオープンシーに物理的なアイテム専用のスペースを設けることもありうるとしている。とりわけ不動産やイベントチケットなどではNFT化で利便性が高まると考えている。
NFTの購入に際し、主にイーサしか使えない現状に関してフィンザーは、イーサリアムの恵まれたエコシステムを考えると他の通貨に替えるのは難しいと認めつつも、今後の変更の可能性をほのめかしている。
「異なるプログラミング言語をサポートしたり、基本部分を見直したりして、新しく何か始めるのもいいなと思っています。サポートすべきブロックチェーンがあれば、それを新たに追加できるようにオープンシーは構築されています。近いうちに面白い展開が見られるでしょう」
詐欺行為という負の側面
フィンザーは、オープンシーの「誰でもアクセスできる」という基本原則が大きなリスク要因にもなっているという。
オープンシーでは、ユーザーなら誰でもNFTを作成、販売することができるが、プラットフォームのオープン性が問題を招くこともある。CryptoPunksの画像のスクリーンショットを撮り、オリジナル作品として転売していた詐欺行為が実際にあったとフィンザーは明かした。
オープンシーは詐欺行為に対処するためのインフラを整えているが、詐欺師はさらに巧妙な手口でセキュリティシステムの網をかいくぐり、フィンザーいわく「いたちごっこ」が続く。オープンシーが主要なマーケットプレイスである役割を果たし、今後、確固たる地位を築くためにも、詐欺行為は取り組むべき課題の一つだとフィンザーは捉えている。
NFTのエコシステムはまだ歴史が浅いために法整備が整っておらず、フィッシング詐欺が横行し、ハッキングの温床にもなっている。
「このような新しい市場では、ユーザーは何がどう機能するのか理解していないために狙われるのです」とフィンザーは言う。
さらには、インサイダー取引の問題も明るみになった。オープンシーの従業員が2021年9月、マーケットプレイスのフロントページに公開される前にNFTを購入し、その転売から大きな利益を得たというスキャンダルが勃発した。その社員はその後、辞職している。
フィンザーはNFT市場の負の側面を認めつつも、今のややニッチな市場から、今後、何十億もの人々が利用する巨大な市場に成長すると確信している。
「NFTはますます主流になり、世界にすさまじく大きな影響をもたらすでしょう」と話す。
「今後5年間で市場規模は桁違いに大きくなると思います」
(翻訳:西村敦子、編集:大門小百合)