Zホールディングスの設置した特別委員会の最終報告書を受けて、LINEは10月18日にガバナンス体制およびリスク管理体制の強化についてのリリースを公表した。
撮影:小林優多郎
「この取り組みが成果を上げるかどうかはZホールディングスの取り組みはもとより、事業会社ならびにZホールディングスを強くするものであることについて、広い理解が得られるかにかかってくる」
10月18日、LINEのさまざまなユーザーデータの取り扱いに関する問題のためにZホールディングスが設置したグローバルなデータガバナンスに関する特別委員会」(以下、特別委員会)の宍戸常寿座長は、LINEにまつわる諸問題への対応策についてこう語る。
「グローバルなデータガバナンスに関する特別委員会」の最終報告書に関するオンラインでの説明会に登壇した座長の宍戸氏。
画像:筆者によるスクリーンショット
2021年3月、「LINE」の一部データが中国の委託会社から閲覧できる状態や、画像や動画などが韓国で管理されていることを明確に説明していなかった点など、大きな社会問題となった。
そこでLINEの親会社となるZホールディングスは特別委員会を設置し、LINEのデータの取り扱いに関するセキュリティーやガバナンスの検証、評価を進めてきた。
特別委員会での議論は3月23日に第1回会合が実施されて以降、技術的知見から検証を進める「技術検証部会」も含め25回にわたって実施。
10月18日には最終報告書が公表され、同日には前述の宍戸氏より、その最終報告書に関する記者説明会も開かれた。
問題は中国のグループ企業への委託、韓国サーバー利用の説明不足
宍戸氏によると、特別委員会での検証で判明した主な事実の1つは、LINE社が中国のグループ企業に業務を委託していた問題に関するものであるという。
この委託により不適切なデータのアクセスや外部への情報漏えいなどは認められなかったとする一方、業務委託を決める過程でガバナンスリスクに関する検討や、事後の見直しなどが実施されていなかったことが指摘されている。
説明会資料より。最終報告書では中国企業への委託に対する経営陣の認識不足や、韓国でのデータ管理に関する不適切なコミュニケーション、企業風土の問題などについて指摘がなされている。
出典:グローバルなデータガバナンスに関する特別委員会
2つ目は日本のユーザーの画像や動画などを、韓国のデータセンターに保管していたことを正しく説明していなかった問題。
特別委員会ではユーザーなどにはLINEの個人情報を扱う主なサーバーが日本国内にあると説明していたことや、中央省庁に対してLINEのユーザーに関するデータが日本に閉じているという、客観的事実に反する説明を一部で実施していたことを確認。
「このようなコミュニケーションは不適切なものであった」と特別委員会では判断したとしている。
ただし、中央省庁に事実と異なる説明をした役員などの処分や責任の追及をすることが、特別委員会のミッションではないと宍戸氏は説明。一連の問題は個人に起因するよりむしろ、LINEの企業風土や構造に問題があると特別委員会では評価しているとのことだ。
そのLINEの企業風土や心理的安全性に関しても検証がなされている。
特別委員会では、経営陣と従業員とのコミュニケーションなどで一定の適切な対応が実施されていたほか、技術検証部会らがLINE従業員に実施したアンケートの定量分析でもポジティブな傾向が見られたという。
ただし、アンケートの回収率が30%とかなり低い水準にとどまったことなどから、その傾向だけで企業風土をとらえるのは適切ではないと特別委員会では判断しているようだ。技術検証部会の座長である川口洋氏は
「30%という回答率にとどまったのは残念だと思っている。経営に関わる問題なので多くの社員から意見を集めたかったが、特別委員会の活動が認知されていなかったことを懸念している」
と話している。
ZHD・LINE・ヤフーなどで縦と横で連携する「3ライン・モデル」
特別委員会の技術検証部会で座長を務めた川口氏。
画像:筆者によるスクリーンショット
これら一連の事実認識を受け、LINEは特別委員会に対して、全社的なリスク管理個人情報保護、経済安全保障などに関するデータガバナンスの改善策を示した。
そして、その進捗とユーザーや中央省庁などへの説明責任を強化するための情報収集、管理、発信体制に関するモニタリングを求めているとのこと。
それを受けて特別委員会は、LINEが自らの課題改善を進めていると評価しつつ、一連の改善策を継続的に実施するための体制強化を提言している。
また、Zホールディングスからは、一連の問題を受けてZホールディングス内に設置された「データガバナンス分科会」で事業会社が守るべきポリシーやルールを定め、それを尊厳しているかを評価することが示された。
Zホールディングスが設置する有識者会議などで、特別委員会の提言に関する対応状況を継続的に報告、実現していくことの報告を受けたとのこと。
一方で、特別委員会からは事業会社への「3ライン・モデル」の導入による「ユーザー目線での縦と横のガバナンス」の構築を提言している。
説明会資料より。特別委員会ではLINEに対し対外コミュニケーションの体制改善とガバナンス強化、Zホールディングスにはより高度なガバナンスの実現を求めている。
出典:グローバルなデータガバナンスに関する特別委員会
3ライン・モデルとは、製品やサービスなどを提供する「第1線」と、財務や法務などのリスクマネジメントを担う「第2線」、内部監査を担う独立した「第3線」という3つのラインで組織のガバナンスを高める仕組みだ。
LINEであればデータの利活用や研究・開発部門が第1線、プライバシー保護や政府渉外、セキュリティなどのリスク対応を担う部門が第2線、内部監査が第3線となり、第2線による第1線、第3線による第2線のモニタリングがしっかり機能することでLINE社内のガバナンスを高められるとしている。
ただし、これはあくまで「横」、つまり事業会社内でのガバナンスに限定される。
「縦」、つまりZホールディングス全体での高度なガバナンスの実現には、さらに各事業会社の第2線同士が連携してガバナンスを強化していく必要がある。宍戸氏は、
「Zホールディングスは日本社会のインフラを提供する機関的なプラットフォーマーであり、なおかつグローバルにビジネス展開しようとしている、
国際社会を担う想いのある企業。なのであれば通信の秘密を取り扱うことを含め、高いガバナンスを提言したと理解している」
と話し、今回提示したガバナンスは非常に高い水準にあるものと説明している。
説明会資料より。特別委員会は「3ライン・モデル」による事業会社のガバナンス強化と、「横と縦のガバナンス」による複眼的監督体制を求めている。
出典:グローバルなデータガバナンスに関する特別委員会
ただし、ガバナンス向上に結びつけるハードルはかなり高い
特別委員会では他にも、ユーザーの代表を含む第三者の意見を求めるための有識者会議の設置や、地政学リスクに対応できるよう外国の法令、日本と外国との関係状況に関して一元的に情報収集・分析できる体制の整備など、Zホールディングに対していくつか個別の提言も実施したという。
その上で宍戸氏は、グループ全体で従業員の心理や安全性を認識し、最大限能力を発揮できる企業文化作りを共有することが大切という方針を示す。
だが、先に触れたアンケートの回答結果の少なさがが示すように、個々の従業員にセキュリティやガバナンスに対する意識が浸透し、グループ全体でのガバナンス向上に結びつけるハードルはかなり高いのも確かだ。
それだけにLINE、そしてZホールディングスには今後、ガバナンス改善の取り組みを社内外に向けて積極的に発信し、経営層から意識の変化をアピールしていくことが必要になってくるだろう。
一連の問題でLINEが日本政府からの信頼を大きく失ったことは、行政サービスを経営統合後の成長領域としていたZホールディングスにとって大きなマイナス要素となっている。
それだけに、ガバナンス改善に向けた方向性が示された今後は、それを確実に実践して意識改革の姿勢を示していくことが求められることになる。
佐野正弘:デジタルコンテンツ・エンジニアを経て、現在では携帯電話・モバイルに関する執筆を中心に活動中。