アマゾン自社開発の「ジャスト・ウォーク・アウト(Just Walk Out)」テクノロジーを導入した、英ロンドン市内にある食品スーパー「アマゾン・フレッシュ(Amazon Fresh)」の入店ゲート。
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アマゾンは自社開発のテクノロジーを活用したレジなし店舗「アマゾンゴー(Amazon Go)」を組み込んだ新たなカフェの展開を目指し、スターバックスと複数回の協議を続けてきたことがわかった。
Insiderが独自入手したアマゾンの内部資料によると、このプロジェクトは社内で「ヴェルデ(Verde)」のコードネームで呼ばれている。
想定されている新たなカフェは、スターバックスのクラフトドリンクとアマゾンのベーカリーやホットスナックを両方提供するラウンジスタイル(=低めのテーブルとチェアを使ったくつろぎ重視の空間)で、会計のために長い行列に並ぶ必要がない。
(内部資料に含まれた)初期の店舗レイアウトを見ると、ラウンジシートの並ぶカフェ内にアマゾンゴーの売り場が組み込まれている。
ドリンクはスターバックス、フードはアマゾンと、商品決済時に両方のアプリを使い分ける設定となっているが、最終的には統合されたソリューションを利用者に提供したいと考えている模様だ。
カフェは新たな共同ブランドのもとで展開・運営される計画だが、このプロジェクトを現在進行形のものとみていいのか最新の状況は不明だ。
冒頭の内部資料によれば、アマゾンとスターバックスの協議は少なくとも2020年7月までは活発に行われていたが、2020年第4四半期(10〜12月)に最初の店舗実証に着手し、2021年中には最大6店舗をオープンさせるという当初の計画は実現に至らなかったという。
2020年6月時点のコードネーム「ヴェルデ」は、ピックアップオーダー(=アプリ経由の事前注文、店舗での受け取り)を強化し、行列による待ち時間を解消しようというスターバックスの重点方針と合致する「10の優先的取り組み」のひとつとされていた。
内部文書には次のように記されている。
「お客さまがスターバックスのカフェでクラフトドリンクを楽しみ、同時にレジなし決済『アマゾンゴー』で長い行列に並ぶことなく美味しいフードを購入できる共同店舗を立ち上げるのが、プロジェクト『ヴェルデ』の狙いです。
アマゾンとスターバックスの両方の要素を併せ持つ新たなブランドでの展開を想定しています」
この計画からは、レジなし店舗「アマゾンゴー」を支える「ジャスト・ウォーク・アウト(Just Walk Out)」テクノロジーの実用例を拡大しようとするアマゾンの野心が読みとれる。
同テクノロジーを活用する店舗では、利用者は入店時にスマホのバーコードをゲートで読みとらせ、ほしいものを手にとり、店内からの退出時に自動で決済が行われる。
アマゾンは2021年に食品スーパー「アマゾン・フレッシュ(Amazon Fresh)」と傘下の自然食品マーケット「ホールフーズ(Whole Foods)」の一部店舗にこのテクノロジーを導入。空港や鉄道駅を中心に展開するコンビニ「ハドソン(Hudson)」などでも導入が予定されている。
内情に詳しい複数の匿名関係者によれば、レジなし店舗「アマゾンゴー」はまだほとんどの店舗で利益を出すに至っておらず、アマゾンとしてはスターバックスとの共同展開を通じてレジなし決済テクノロジーを収益化する新たな道筋を生み出したい考えという。
共同店舗がいつオープンするかは不明。前出の関係者によれば、両社がプロジェクトの推進を断念する可能性も否定できないという。
アマゾンとスターバックスにそれぞれコメントを求めたが得られなかった。
サービスとしての「アマゾンゴー」
なお、アマゾンゴーとスターバックスの連携は今回のプロジェクトが初めてではない。アマゾンは2019年、ニューヨークにオープンさせたアマゾンゴー店舗にセルフサービス型のスターバックスコーヒーバーを設置している。
ただし、現在計画中の共同店舗は、スターバックス型のカフェのなかにアマゾンゴーの商品セクションを組み込む設計なので、コンセプトはまったく異なる。
アマゾンとスターバックスが共同運営を協議している新たな店舗の初期レイアウト。
Insider
前出の内部資料は、プロジェクト『ヴェルデ』の利用者ターゲットを「人口密度の高い都市部」に住む25〜45歳の「時間に追われるプロフェッショナル層」としている。
想定される主なユースケースとして、スターバックスアプリを使った「プレオーダー(事前注文)」、アマゾンゴーセクションでの「グラブ・アンド・ゴー(レジなし決済)」、さらに店内でドリンクやフードを楽しむ「シット・アンド・ステイ」の3種類があげられている。
また、スターバックスは新型コロナウイルス感染拡大の終息後も自宅や職場とは異なる「第3の居場所」が重要な役割を果たすとの考えから、共同店舗にはラウンジスタイルが適切とする。
さらに、アマゾンが共同店舗で提供するフード商品のサプライチェーンを担当することで、客足の積み増しが期待できるとともに、より収益性の高いフード提供方法を持ち込むことができるという。
スターバックスの店舗を利用することで、アマゾンには「より巨大な不動産確保ルート」へのアクセスがもたらされ、アマゾンゴーを単独で新設するよりスピーディかつローコストでオープンできるメリットがある。
内部文書はこう強調する。
「プロジェクト『ヴェルデ』は、いわば『サービスとしてのアマゾンゴー(AGaaS)』なのです。
小売り事業者はアマゾンゴー(利用者の同定・認証、カタログ、商品化計画、サプライチェーン、棚割り、什器、損益管理をアマゾンが担当)を自社店舗に組み込むことで、自前の商品やサービスを補う形で、新たな品揃えやショッピング体験を提供することが可能になります」
アマゾンとスターバックスは店舗運営をめぐる一部の問題について合意に至っておらず、それがプロジェクト遅延の原因になっている模様だ。
内部文書には、共同店舗に勤務する従業員を両社のいずれが監督するか、ドリンクとフードが混在する店舗で両社異なる決済体験をどうハンドリングするか、といった解決すべきテーマも記載されている。
スターバックス側はアマゾンゴーのセクションでフードを購入した際も利用者がロイヤルティポイント(スターバックス・アワード)を獲得できるようにしたいと考えている。
一方、アマゾン側は、事前注文を店舗で受け取る形の利用者が多くを占める想定であることから、スターバックス側が希望するラウンジスタイルの効用を完全には理解していない。
そうした相違がありつつも、両社はロイヤルティプログラムや決済方法の両方でより緊密な統合を想定していて、最終的にはスターバックスのドリンクをアマゾンアプリで決済したり、その逆もできるよう検討していると、前出の内情に詳しい複数の関係者は語っている。
(翻訳・編集:川村力)