飲食店の人手不足は“後遺症”、コロナ禍で痛めつけられた非正規社員は戻らない

居酒屋の店員

コロナ禍で自粛を求められてきた飲食店やカラオケ店。活気を取り戻し始めたものの人手不足が課題だ。

REUTERS/Kim Kyung-Hoon

コロナ禍で長く続いた酒類提供禁止や営業時間の制限がようやく緩和され、居酒屋やカラオケ店などが活気を取り戻しつつある。しかしその一方で働き手のパートやアルバイトを募集しても集まらないという“悲劇”がメディアで報じられている。

テレビでは人手が足りずに営業を再開できない店舗が発生したことに苦悩の表情を浮かべる飲食店チェーンのオーナーも映し出された。

一般的に飲食店は8割近くのアルバイトと2割程度の正社員とで構成されており、主力のバイトが集まらなければ運営できないビジネスモデルだ。

2021年9月末のリクルートのジョブズリサーチセンターのアルバイト・パートの採用計画調査によると飲食業で「採用を増やす予定」は35.1%、「今後の状況によって増やすことを検討する」が27.7%。合わせると62.8%の企業が採用に意欲的だった。

にもかかわらず蓋を開けると深刻な人手不足に直面している

大量の非正規切りの“後遺症”

かつて働いていたはずのパート・アルバイトがなぜ戻って来ないのか。

もちろん休業中に他店や他の業態に転じた人もいるだろう。しかし最大の原因は、コロナ禍で吹き荒れた大量の非正規切りの“後遺症”の影響が大きいことだろう。

本来、休業した場合は非正規のパートやアルバイトにも休業手当が支給される。労働基準法26条は、雇主側の事情で休業する場合、平均賃金の6割以上の休業補償義務を使用者に課している。

しかも休業手当を国が肩代わりする雇用調整助成金(雇調金)もあり、コロナ禍で助成額が大幅に引き上げられた。雇調金は事業者が申請するが、働き手自ら申請し、給与の8割を受け取れる「休業支援金制度」もコロナ禍で新たに設けられた。

だが、それでも休業手当や支援金を受け取れないまま「非正規切り」が続出した。なぜか。

パート・アルバイトは基本的にシフト制だ。シフト制であることを理由に休業手当の支払いを拒む事業者が相次いだのだ。休業手当は労働契約書や就業規則に定めた「労働時間・労働日(所定労働時間・所定労働日)」より「実際の労働時間・労働日」が少ない場合に発生する。

ところがシフト制労働者の労働時間や労働日は週または月ごとにシフト表に書き込まれる。そのため労働契約書に「労働時間・労働日」を記載していない企業もあれば、記載していたとしても「シフトによる」とされていたり、「シフトによって変動する可能性がある」とされていたりするケースもある。

つまり翌週ないし翌月のシフトが組まれていないことを理由に「予定されている労働がない」として休業手当の支払いを拒否する企業が多かったのだ。

「実質的失業者」は90万人推計の衝撃

夜のオフィス街

シフトが5割以上減少、かつ休業手当を受け取っていない「実質的失業者」は全国で90万人にものぼる。

撮影:今村拓馬

首都圏青年ユニオンの「シフト制労働黒書」(2021年5月)では、外食店で働く50代男性の事例を紹介している。コロナ前に週5〜6日、1日10時間半程度働いていたが、2020年3月から1日当たりの労働時間を減らされた。

4月の緊急事態宣言後は完全休業になったが、会社には「正社員には休業手当が出るが、アルバイトには出ない」と休業手当の支払いを拒否された。

労働契約書には労働時間や労働日が「シフトによる」としか記載されておらず、会社は「シフトが組まれなくなっただけで休業ではない」と主張したという。

この点について、厚生労働省は「シフトが組まれていない日については労基法26条の休業手当の支払い義務があると評価するのは困難」という見解をとっており、会社の理屈は一応通っている。

ただし厚労省はシフト制労働者であっても雇調金は出るので休業手当を支払ってほしいと呼びかけていた。それでも「シフトが組まれていないだけで休業ではない」の理屈を盾に、アルバイトに支払いたくないという「非正規軽視」の姿勢を露わにする経営者が横行した

シフト制のパート・アルバイトの休業手当の不支給と生活の困窮ぶりは野村総合研究所の調査でも裏付けられている。

2020年12月の調査で、「シフトが5割以上減少」かつ「休業手当を受け取っていない」人を「実質的失業者」と定義。総務省「労働力調査」を用いた全国の「実質的失業者」は90.0万人との推計を発表し、大きな話題になった

2021年3月発表の調査でも女性103.1万人、男性43.4万人と推計し、実質的失業者がさらに増加している。シフト減のパート・アルバイトのうち休業手当を受け取っていない人は女性で74.7%、男性だと79%に上る。

しかも「休業手当を受け取ることができること」を知らなかった人が女性の53.1%、男性で51.8%と半数を超えている。休業手当を支給しないだけではなく、休業手当の存在すらも周知していない事業者が多いことが分かる。

「休業させましたか?」に「いいえ」で妨害?

アンケート用紙に記入する人

今度シフトを減らしたくなった時に休業手当を支払いたくないと雇用主は考え、休業支援金制度を妨害するという。

Shutterstock/mapo_japan

それだけではない。首都圏青年ユニオンへの取材によると、労働者自ら申請する新設の「休業支援金制度」でも事業者の妨害が相次いだ。

休業手当を支給されない人が個人で申請手続を行うが、申請書類には「事業主記入欄」があり、「休業させましたか」の設問に「はい」・「いいえ」のいずれかをチェックすることになっている。シフトを減らしていたのだから「はい」にチェックを入れるのが当然だが、「いいえ」にチェックして妨害する。

なぜこんな卑劣な仕打ちをするのか。

首都圏青年ユニオンの原田仁希執行委員長はその理由についてこう指摘する。

「シフト減に同意していたためシフト減は休業にあたらないという理屈だ。シフト減を休業だと認めてしまうと、今後シフトを減らしたくなったときに休業手当の支払い義務が発生することを(雇用主は)恐れているのだろう

これについて厚労省が休業手当の支払い義務と(コロナ禍で新設の)休業支援金とは関係ないと発信。その後、申請に協力する企業も出てきた。それでも経営者の反応を気にして支援金の申請をためらう人たちも少なくない」

休業支援金制度は2020年7月から受付を開始。そのための予算を5700億円確保していたが、2021年10月7日までの支出は1940億円、わずか3割強にとどまる

本当に必要とする人に届いていない実態が浮き彫りになっている。

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