アメリカ・シリコンバレーで生まれた、移動手段と距離に応じてポイントがたまるマイレージアプリ「Miles(マイルズ)」が日本でローンチした。
特徴は、飛行機より車、車より電車、電車より徒歩など、よりCO2排出量が少ない「エコ」な移動に多くのマイルが付与されること。
出資しているのはアプリの仕組み上、最も「割りを食う」はずの航空会社JALだ。一体なぜか。
徒歩は10倍、飛行機は0.1倍のボーナスマイル
エコな移動をすればするほどマイルが貯まるアプリが日本上陸。Miles JapanのCEO髙橋正巳さんがその狙いを語った。
撮影:竹下郁子
「Miles(マイルズ)」の正式ローンチに伴い、運営会社のMiles Japanは2021年10月20日、記者会見を開いた。
アプリの使い方は簡単だ。スマートフォンにインストールして位置情報の取得を「常に許可」に設定するだけで、AIが移動手段を自動で判定、マイルが溜まっていく。移動のたびにアプリを起動する必要はない。
1マイル(約1.6キロメートル)の移動につき1マイルのポイントが付与され、さらに健康的で、CO2排出量が少ないなど環境に配慮した移動手段にはボーナスマイルがつくのが特徴だ。マイルの倍率は以下のようになっている。
10倍:徒歩、ランニング
5倍:自転車
3倍:バス、電車、船、スキー
2倍:車の相乗り
1倍:車
0.1倍:飛行機
記者も通勤時の電車移動に使ってみたが、貯まったマイル数と「◯◯kgのCO2排出量を削減しました」という通知がくるため、「だるい」移動が「なんだかいいこと」をした気分に。CO2量は車との比較で割り出しているという。
高まる健康意識、「1駅歩く」背中を押したい
撮影:竹下郁子
貯まったマイルは百貨店のマルイ、スポーツ用品メーカーのUNDER ARMOUR(アンダーアーマー)、定額動画配信サービスのHulu、靴修理のMISTER MINIT(ミスターミニット)など、ローンチパートナー企業が用意した108の特典で活用できる。
ローンチパートナーの1社であるファミリーマートの特典は、アイスコーヒーS・ブレンドSの無料引き換えクーポンだ。コーヒー1杯のために必要となる500マイルを貯めるには、車だと約274キロメートル、徒歩だと約80キロメートルの移動が必要になる計算だ。
Milesはアメリカのシリコンバレー発のアプリ。2019年の正式ローンチ後、現在のユーザー数は140万人を超える。ユーザーの男女比は女性6割、男性4割で、年齢は20〜40代前半までが大半を占めているという。
コロナによりテレワークが定着し、出社を見直す企業も多い。移動の減少に加え、人々の気候変動など環境問題への意識も薄い中、日本ではどのような層をターゲットに考えているのだろうか。Miles JapanのCEOを務める髙橋正巳さんは言う。
「コロナの影響で飛行機や公共交通機関の移動が減っている一方で、徒歩や自転車の利用が増えるなど、健康意識が高まっていると感じます。毎日ワークアウトをするような『ガチ』な層でなくとも、このアプリを入れることで『じゃあ1駅歩いてみようか』というインセンティブが働くといいなと。
環境問題についての意識も徐々に変わってきていると思うので、日頃の習慣をカジュアルに変えるきっかけになれば嬉しいですし、そういう方々に喜んでいただけるのではないでしょうか」(髙橋さん)
なぜ航空会社JALが出資したのか
提供:Miles Japan
Milesには日本航空(JAL)のCVCであるJapan Airlines Innovation Fundや、あいおいニッセイ同和損害保険が出資している。
JALはマイルの特典を提供するパートナー企業でもあるが、最もボーナスポイントが低く、移動距離に対してマイナスになる航空会社がMilesに出資する理由について、髙橋さんは以下のように話した。
「航空会社は乗客がA空港からB空港に移動したということは分かりますが、その後、どこに行って何をしたかは分かりません。でも乗客にMilesのアプリを使ってもらうことで、接点を持ち続けられるんです」(髙橋さん)
JALはすでにハワイの空港でMilesのアプリを活用した特典を提供しており、加えてMilesからソフトウェア開発の技術提供も受けているという。
航空券とホテルを組み合わせたお得なパッケージプランを組む「旅前(たびまえ)」、空港でのWiFi利用や荷物移動などを快適にする「旅中(たびなか)」、貯まったマイルを特典に変える「旅後(たびあと)」など、空の移動に伴う全ての流れでサービスを提供したい航空会社にとって、Milesのサービスや所持する情報は貴重だろう。
ビジネスモデルは手数料とデータ販売
日本航空・常務執行役員の西畑智博さん(左)髙橋さん(中)ファミリーマートCMOの足立光 さん(右)、記者会見にて。
撮影:竹下郁子
Milesは「個人が特定される形での情報提供は一切行っていない」(髙橋さん)。一方で、個人が特定されない方法で移動のトレンドや傾向、人流の変化などのデータを販売することはあるそうだ。
Milesはユーザーが貯めたマイルを特典と交換した際にパートナー企業に発生した売り上げの一部を手数料とすること、またパートナー企業に送客したユーザー1人あたりの手数料を取ることの2つを主な収益源としている。
日本でもパートナー企業であるスマートウォッチのGARMINは、アメリカではMilesを通じてすでに数億円の売り上げを記録しているという。ちなみにアメリカでブランドパートナーがMIles経由で獲得した売上は約2.7億ドル(約300億円)だ。
移動に「エコ」と「健康」の視点で付加価値を与えるサービスは、アフターコロナの日本でどう受けいれられるだろうか。
(文・竹下郁子)