複合施設などが密集する東京駅西側の様子。11月からこのエリアのオフィスビルや駅が空調の燃料を一斉に切り替えるという。
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新丸ビル、丸の内オアゾ……東京駅西側のいわゆる大丸有地区に集中するオフィスビルや駅など79カ所が11月から一斉に、空調のエネルギー源(電気を除く)を「二酸化炭素(CO2)排出量実質ゼロ」の燃料に切り替える。
同地区の冷暖房・給湯を集中管理する丸の内熱供給(三菱地所グループ)が、長年燃料を供給してきた東京ガスと協力し、従来使っていた都市ガスを「カーボンニュートラル都市ガス」に切り替えることで、排出量実質ゼロを実現するという。
新たな燃料となるカーボンニュートラル都市ガスは、東京ガスが石油開発大手ロイヤル・ダッチ・シェルのグループ会社(以下シェル)から購入する「カーボンニュートラル液化天然ガス(LNG)」を活用する。
カーボンニュートラルLNGは、天然ガスの採掘から冷暖房のエネルギー源として燃焼させるまでの全プロセスで発生するCO2が、シェル保有の環境保全プロジェクトを通じて創出されたCO2クレジット(=削減効果)によって相殺されている。それを購入して都市ガスとして供給する限り、排出量は実質ゼロのままで済む。
東京ガスは今回の切り替えに先立ち、2020年3月から、大丸有地区にある三菱地所所有の丸の内ビルディング(丸ビル)と大手町パークビルに対し、日本初となるカーボンニュートラル都市ガスの供給を始めていた。
脱炭素の担い手として高まる期待
丸の内熱供給(三菱地所グループ)が冷暖房・給湯を集中管理しているエリア。後述するように、東京駅西側エリア以外に同社が管理する他のエリアでもカーボンニュートラル都市ガスを導入する。
提供:東京ガス
三菱地所と東京ガスがこれほど大規模なカーボンニュートラル都市ガスへの切り替えを進めた背景にあるのはもちろん、「CO2排出量を2030年度までに46%削減(2013年度比)する」というきわめて厳しい国の目標だ。
日本のエネルギー消費量(民生・産業部門)の内訳をみると、冷暖房・給湯をはじめとする熱としての消費量が全体の約6割を占める。
そのため、熱エネルギー分野のカーボンニュートラルは喫緊の課題とされ、2021年6月に閣議決定された「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」にもその必要性が明記されている。
そして、熱エネルギー分野のカーボンニュートラル実現をけん引する存在として期待されているのが、丸の内熱供給などの行っている「地域熱供給(地域冷暖房)」事業だ。
経済産業省による「地城熱供給」事業の解説動画。
経済産業省(METI)YouTube公式チャンネル
地域熱供給では、複数のビルで使う冷暖房・給湯設備を集中管理する。ビルごとに設備を設置・運用する方法に比べて経済性・環境性ともに優れていることから、1970年代以降、全国の都市部に広がっていった。
これまではおもに省エネ・コスト削減策として導入が進んできたが、前出の「2050年カーボンニュートラル宣言」以降、CO2削減の観点からも注目を集めている。
今回、丸の内熱供給がカーボンニュートラル都市ガスへの切り替えに踏み切った理由としては、ビルのオーナーや入居する企業の間にも、国の定めた目標達成に貢献する必要があるとの意識、危機感が浸透してきたことがあげられる。
また、丸の内熱供給を傘下に置く三菱地所のようなデベロッパーの立場からすれば、カーボンニュートラル時代に対応した物件として、保有するビルなど不動産の価値を向上させる実益もある。
なお、丸の内熱供給が今回カーボンニュートラル都市ガスを導入するのは、冒頭で触れた大丸有地区だけでなく、内幸町地区、青山地区など同社が管理するすべてのエリアが対象。
都市ガスの合計消費量は一般家庭約9万世帯分に相当し、切り替えによるCO2削減効果(年間9万7000トン)は膨大だ。
「カーボンニュートラル都市ガス」の可能性
東京ガスは2019年、日本で初めてカーボンニュートラル都市ガスの輸入を開始。2021年3月には、いすゞ自動車やオリンパス、東芝など大手企業14社と「カーボンニュートラルLNGバイヤーズアライアンス」を設立している。
導入企業は広がりを見せており、東京ガス常務執行役員の比護隆氏によると、2021年の契約件数は「すでに昨年実績の2倍を超えている」という。
今回カーボンニュートラル都市ガスに切り替えた丸の内熱供給以外に、地域熱供給を手がける他社もこの取り組みに関心を寄せており、比護氏は、詳細は明かせないとしながらも「引き合いはある」と語る。
東京ガスによると、熱供給会社は全国に75社存在し、燃料として使われている都市ガスは年間3億1043万8000立方メートルにのぼる(いずれも2019年度実績)。
仮にすべてをカーボンニュートラル都市ガスに切り替えた場合、CO2削減量は年間約88万5610トンで、丸の内熱供給による今回の切り替え(先述の内幸町地区、青山地区含む)効果の10倍近くに達する計算だ。
(取材・文:湯田陽子)