デイブ・シャペルの番組「クローザー」を巡る従業員のクレームへのネットフリックスの対応が、本格的な議論を巻き起こしている。
Mathieu Bitton
- ネットフリックスの数十人の社員が、デイブ・シャペルの特別番組への同社の対応に抗議するため、ストライキを行った。
- ネットフリックスのCEOは、トランスフォビアに対するクレームの対応を誤ったと述べている。
- リーダーシップと多様性の専門家によると、この騒動には学ぶべきものがあるという。
ネットフリックス(Netflix)は、社会的弱者の経験に注目した作品を豊富に取り揃え、自社を表現のパイオニアでハリウッド(Hollywood)のライバルと位置づけている。
だが、多様性を支持する同社の評判は今、疑問視されている。デイブ・シャペル(Dave Chappelle)のコメディー番組「クローザー(原題:The Closer)」1時間スペシャルについての議論への対応のせいだ。
2021年10月5日(現地時間)に公開されたこの番組で、シャペルが主張した意見を、多くの視聴者が扇動的と見なした。特に、LGBTQ+のコミュニティーをジョークのターゲットとした点だ。シャペルは、トランスジェンダーの人々の生殖器をビヨンド・ミート(Beyond Meat)やインポッシブル・バーガー(Impossible Burger)に例えながら、後に自分はLGBTQ+コミュニティの友人であると述べた。この特番はすぐに多くの反発を招いた。
議論に反応する内部メールで、ネットフリックスの共同CEOのテッド・サランドス(Ted Sarandos)は、同社がこだわる、創造の自由について言及して「クローザー」を擁護、「我々は、このコンテンツがトランスジェンダーのコミュニティーに害を及ぼすとは思わない」と記した。これを受け、数十人のネットフリックス社員と、「クィア・アイ(Queer Eye's)」のジョナサン・バン・ネス(Jonathan Van Ness)など数人のタレントは10月20日にストライキを実施した。
フォーチュン500(Fortune 500)のリーダーシップおよびダイバーシティ(多様性)コンサルタントによると、ネットフリックス経営陣はLBGTQ+のコミュニティと対立するのではなく、彼らと協力することで、この危機を緩和するか、完全に回避することができたはずだという。そして、この危機から他の企業が得られる教訓が大きく2点あるとコンサルタントは指摘する。共感を持って対処することと、前向きな変化をもたらすチャンスをつかむことだ。
ネットフリックスの対応には、今日のアメリカでトランスジェンダーとして生きることが何を意味するのかについての理解の欠如が見られたと多様性・平等・包括性(インクルージョン)(DEI)のストラテジスト、ショーン・コールマン(Sean Coleman)は述べた。彼自身、トランスジェンダーの黒人男性だ。
「CEOの反応からこの問題で何が重要なのかが分かる。彼の周囲にはLGBTQやトランスジェンダーの関する多様性が欠けているのだ」とコールマンは述べた。
「この話題で彼とつながっている人々が危険な状態でないのは当然だ。彼らは阻害されている人々ではないのだから」
デリケートな問題を従業員と議論する
コールマンによると、ネットフリックス従業員の怒りとストライキは、同社のリーダーが社会から阻害されたコミュニティーに属する従業員や消費者と十分な議論をしていないこと表れだという。
「そのような人々と対話すべきだ」とコールマンは述べた。
「ネットフリックスだけではない。他のリーダーたちも、自分の回りにどんな人たちがいるのか把握して、その声を議題にするようにすべきだと思う」
コールマンは、もし自分がネットフリックスのコンサルタントをするとすれば、全員がトランスジェンダーとジェンダー・ノンコンフォーミングの諮問委員会を設立し、協力していくことを勧めると述べた。
リーダーシップのコンサルタント会社、Cストリート(C Street)のCEO、ジョン・ヘネス(Jon Henes)によると、ネットフリックスは事前に従業員やコミュニティーのメンバーと話をしておくことで衝突を回避するチャンスを逃したというだけでなく、トランスジェンダー・コミュニティーでリーダーとなるチャンスも逃したという。
「もしネットフリックスが、LGBTQ+コミュニティーと協力する機会を受け入れていたら、どうなったかを想像してみるといい」とヘネスは述べた。
「人々が集まり、ブランド力は高まるだろう」
ストライキを行ったネットフリックスの社員。
JP Mangalindan/Insider
思いやりと理解を持って
USCマーシャル・ビジネススクールの教授で、DEIコンサルティング会社Equitas Advisory Groupの創業者、スーザン・ハーメリング(Susan Harmeling)によると、ネットフリックスの経営陣は、トランスジェンダーのコミュニティや従業員に対し、思いやりと理解を持って対応すべきだったという。
「こうした人々は傷ついている。そして彼らの生活は日常的に脅かされている」とハーメリングは述べた。非営利組織、ヒューマン・ライツ・キャンペーン(Human Rights Campaign)の調査によると、2021年はこのままのペースで行くと、アメリカのトランスジェンダーとジェンダー・ノンコンフォーミングにとって最も過酷な年となるという。
「ネットフリックスには幅広い視聴者がいる。解決策を考えよう」とコールマンは言う。
「解決策となり得るのは、トランスジェンダーおよびジェンダー・ノンコンフォーミングの問題解決に直接的に取り組んでいる組織に労力とお金を寄付すること。そして、トランスジェンダーの子どもたちやトランスジェンダーのアスリートに影響を与えるような法律に対するために活動している人々と協力することだ」
失敗から学ぶことがある
反発を受け、サランドス共同CEOはウォール・ストリート・ジャーナルに対し、特番がトランスフォビア的だった(トランスジェンダーを蔑視していた)という従業員のクレームの扱いを「しくじった」と語った。
ヘネスとハーメリングは、謝罪は変化する意思を示し、前に進む機会を作るという意味で正しい行動だったとしている。
「だが、はっきり言って少し遅すぎただろう」とハーメリングは述べた。そして、ネットフリックスは従業員が自分のことを見てくれている、話を聞いてくれていると評価してくれるよう「徹底的に」文化を見直すべきだと思うと付け加えた。
ネットフリックスの広報は次のコメントをInsiderに寄せた。
「我々は、トランスジェンダーの同僚や協力者を大切に思っており、彼らが負った深い傷を理解している。また、ストライキを選択した従業員の決断を尊重し、我々には社内とコンテンツの両方で、まだやるべきことがたくさんあるのだと認識している」
※Insiderの親会社であるアクセル・シュプリンガーのCEOであるマティアス・デップナー(Mathias Döpfner)は、ネットフリックスの取締役を務めている。
[原文:Netflix is in the middle of a diversity crisis. Here's how experts say it could've avoided it.]
(翻訳:Ito Yasuko、編集:Toshihiko Inoue)