中国の経済成長の減速は警戒レベルに達している。その影響はまもなく世界経済に波及するかもしれない。中国で起きることは、もはや中国国内に止まらない。特に投資家にとっては重大事だ。
バンク・オブ・アメリカ(BofA)のストラテジストは最近のレポートの中で、中国株について、割安株狙いの投資家でさえ「底値拾いを避けるべき」と警鐘を鳴らしている。
香港を拠点とするBofAメリルリンチの株式アナリスト、アジェイ・シング・カプール(Ajay Singh Kapur)は2021年10月18日付レポートの中で、「投資家は、中国や中国と連動する市場へのリスク投資を増やす前に、中国で起こり得る需要ショックに留意すべき」と述べている。
パンデミックによる世界的不況を経て多くの国が経済再開を加速させる中、中国の成長は減速している、とカプールは指摘する。エコノミック・サプライズ指数は記録的な低さとなり、マネーサプライの伸び率は10ポイント以上低下し、企業収益は減少している。
バークレイズとUBSは、中国の2022年GDP成長率予想をそれぞれ8%、7.6%へと引き下げたが、中国に対して最も悲観的な見方をしているのはやはりBofAだ。
BofAのエコノミストは、中国の2022年GDP成長率を1.3ポイント引き下げ、4%と予想している。この成長率は1990年以来、最低となる(ただし、パンデミックで各国の経済成長がマイナスになった2020年を除く。この年の中国のGDPは2.3%成長だった)。
中国政府の介入と無関心で市場混乱
中国株について警戒すべき理由は、成長率予想の下方修正だけではない。中国で事業を展開している企業にとっては、すでに混迷は深まっている。権威主義的な中国政府による市場への介入は、最悪のものだったと批判する向きもある。
Bank of America
2021年に入ってからのS&P500と、上海A株指数の株価値動きを比較したグラフが上図だ。中国株は民間企業締め付けや、「共同富裕」によって大きな影響を受けた。主要な出来事は以下の通りだ。
- 3月4日 – 全国人民代表大会:GDPの低下と資産バブルを警戒
- 7月23日 – ITと教育産業を締め付け。幅広い銘柄が売られた
- 8月17日 – 習近平が「共同富裕」を強調
- 8月30日 – ビデオゲームを禁止
- 9月14日 – マカオ締め付け
一方、中国政府は、動かなければならないときに動かない。不動産開発大手の恒大集団が破綻の危機に瀕し、住宅市場が冷え込む中、中国政府は金融緩和政策導入を見送った。それにより金融情勢は逼迫し、中国経済は活気を失い、企業収益は低下した、とカプールは言う。金融緩和政策がすぐに導入される「兆候はない」として、次のように続けた。
「さらに懸念すべきは、株式・不動産市場の低調に対する政策立案者の無関心な姿勢だ。多数の債務不履行発生を放置する一方、タカ派(物価安定重視・金融引締派)的スタンスは緩めていない。住宅市場に干渉しない姿勢を中国政府が続けると、20年に1度の大きな経済変化を招くことになるだろう」
影響を受ける欧州と持ち堪える米国株
世界経済は相互につながっている。金融危機時代の表現をもじるなら、「中国がくしゃみをすると世界が風邪をひく」。少なくとも地域によっては、まさにそのとおりだ。
BofAの株式・計量戦略責任者サビータ・サブラマニアン(Savita Subramanian)は、2021年10月18日付レポートの中で、中国に対するエクスポージャーの大きい欧州銘柄のパフォーマンスは、2020年7月以来、市場平均を下回っている、と述べている。バリュエーションは記録的低水準に迫り、投資家センチメントは悪化している。
危機的な市場の下落以降、中国の影響を受ける欧州の業種に関する株価値動きを示したグラフ。自動車、資本財、建設資材、消費耐久財、鉱業などの業種のほとんどは市場を大きく下回っている。
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しかし、米国株については、売り上げの多くを中国から上げている企業についても、「驚くべき強靭さ」を示している、とサブラマニアンは言う。欧州株が市場を下回っている期間も、米国株は市場を上回っている。米国株のバリュエーション低下は他の市場より小さく、相対的に20%高い株価で取引されているという。
中国に対するエクスポージャーが大きいにもかかわらず、米国株が市場を上回る動きを見せている理由としては、アメリカの巨大IT企業の強さ、活発な設備投資への期待、政府による強力な景気刺激策、そしてサプライチェーンの「国内回帰」等が挙げられる、とサブラマニアンは記している。
しかし、中国へのエクスポージャーを持つ米国銘柄に不安がない訳ではない。リスク・プレミアムが低すぎるからだ、とサブラマニアンは述べる。中国のGDPがBofAの予想どおりに減速した場合、S&P500企業の収益は4.4%低下し、中国に大きなエクスポージャーを持つアメリカのIT企業と小売企業はダメージを被ることになる。
中国の減速にどう対処すべきか
中国の成長が減速する中、投資家はポートフォリオをどう調整すべきか。カプールとサブラマニアンは、それぞれのレポートの中で考えを示している。
カプールは、中国以外の株式について「強気のスタンス」を継続すると述べている。世界経済は力強い成長を続けており、各市場は豊かな流動性を享受しているからだ。ただし、資源、消費財、資本財といった循環株をはじめ、中国の緩和政策と連動する銘柄の保有は避けるべきとしている。
一方、投資家は防御的なスタンスをとり、家庭用品、医療、飲食品といった中国の政策による影響を受けにくい業種の銘柄を投資対象とすべき、とカプールは述べている。
カプールは、こうした業種のうち具体的にどの銘柄・ETFに投資すべきかを示していないが、この投資スタンスに則って検討するなら、例えば次のような銘柄が考えられるだろう。
- プロシェアーズ・ウルトラ・コンシューマー・グッズ・ファンド(UGE)は、年初来20.7%上昇している。
- ヘルス・ケア・セレクト・セクターSPDRファンド(XLV)は、同16.3%上昇。
- ファースト・トラスト・ナスダック・フード・アンド・ビバレッジ ETF(FTXG)は、同7.3%上昇している。
サブラマニアンは、中国の成長減速とサプライチェーン・リスクの嵐が吹き荒れる中では、価格決定力を持つ企業が最も健闘すると述べている。
( 翻訳:住本時久 、編集:野田翔)