ムスサウルス・パタゴニカスの成体と、孵化したばかりの幼体の想像図。
Jorge Gonzalez
- アルゼンチンで、ムスサウルスという恐竜の営巣地だったとされる場所から100個以上の卵と80体の骨格の化石が発見された。
- これらの化石は成体と幼体が含まれ、ムスサウルスが群れで暮らしていたことを示している。
- この営巣地は1億9300万年前のもので、恐竜が群れを形成していたことを示す最古の証拠だ。
1億9300万年前の恐竜の営巣地から100個以上の卵などが見つかり、初期の恐竜に関するこれまでの通説が覆された。
アルゼンチンのパタゴニアでムスサウルス・パタゴニカ(Mussaurus patagonicus)という恐竜の卵や幼体と成体の骨格の化石が発見され、それに関する研究論文が2021年10月21日付けで発表された。この恐竜は、ブラキオサウルスなどの竜脚下目と呼ばれる首の長い草食恐竜の祖先にあたる。
鶏卵サイズの卵の多くは、8個から30個のまとまりで発見されたことから、共同の繁殖地に作った巣に産み落とされたものだと考えられている。また、サイズや年齢が似通ったムスサウルスの骨格化石が一緒に埋もれていたのも発見された。これらをあわせて考えると、これはムスサウルスが群れを形成して暮らしていたことの証拠になる。
パタゴニアにあるエジディオ・フェルグリオ古生物学博物館の研究者で、今回の論文の筆頭著者であるディエゴ・ポル(Diego Pol)は、Insiderに「私はこの発掘現場で、すばらしい恐竜の骨格を1つは見つけようと思っていた。最終的に、80個の骨格と100個以上の卵(内部に胎児が保存されているものもある!)を手に入れた」とメールで語った。
彼はこの遺跡を「唯一無二のもの」と呼んでいる。
今回の発見以前は、群れを作るのはもっと時代を下ったジュラ紀後期から白亜紀初期に登場した恐竜に限られると考えられていた。というのも、竜脚下目が群れを作っていたことを示す最古の化石は、1億5000万年前のものだったからだ。しかし、この営巣地から発掘された化石は、その年代を4000万年以上も遡ることになる。これは、恐竜が社会的集団を形成していたことを示す、最も古い証拠であると論文の著者らは述べている。
X線で化石化した恐竜の卵をのぞいてみた
アルゼンチンのパタゴニア南部で発見された1億9000万年以上前のムスサウルスの卵の化石。
Roger Smith
この発掘現場で最初のムスサウルスの骨格化石が発見されたのは、1970年代後半のことだった。体長15センチにも満たない小さなムスサウルスの化石で、生まれたての恐竜を発見したとは思わなかった研究者は、その骨格の小ささから「マウスリザード(ネズミのようなトカゲ)」と名付けた。
ポルは2002年からこの地域の再調査を始め、2013年に、この発掘現場でムスサウルスの成体の骨格化石を初めて発見した。それによって「マウスリザード」の成体は現代のカバに近いサイズで、体重は約1.5トン、鼻から尾の先までの長さは約8メートルに達することが分かった。しかし、生まれたての幼体は人間の手のひらに収まるサイズだった。
ポルらは高エネルギーX線を用いて、ムスサウルスの卵を壊すことなく観察した。それを撮影したビデオからのスクリーンショット。
Vincent Fernandez/Diego Pol/European Synchrotron
その後もポルの研究チームは、約1.3平方キロメートルにわたって広がる営巣地で発掘と研究を続けてきた。2017年には30個の卵をフランスの研究室に持ち込み、X線技術を使って殻を壊さずに中を観察し、胎児の化石が含まれていることを確認した。
発掘した骨の大きさや種類を分析した結果、同じような年齢の個体が集まって埋もれていたと研究チームは結論付けた。生後1年未満の幼体の集団もあれば、まだ成体ではない若い集団もあった。さらにはわずかながら成体の化石も見つかり、それらは単独あるいはペアで死んだものだった。
このように年代によって集団が分かれていることが、群れであることを示す印だと研究チームは考えている。つまり、若い個体は同年代の仲間と一緒に行動し、成体は食べ物を探したり、コミュニティを守ったりしていたのだ。
「彼らは一緒に休息を取っていて、おそらくは干ばつの影響で死んだのだと思う」とポルは言う。
「これは、何年も一緒に過ごし、互いにくっつきあって休息を取ったり、ともに食料を探したり、その他の日常的な活動を行ったりする、動物の群れの習性とよく似ている」
群れを作っていたことを強く指し示すもう1つの印は、営巣地そのものだ。もしムスサウルスがコミュニティを形成して暮らしていたとしたら、そこに卵を産むのは理にかなっている。
群れでの暮らしが、ムスサウルスを生き延びさせた
1億9000万年以上前に産み落とされたムスサウルスの卵がパタゴニアで発見された。
Diego Pol
化石の年代を知るために、卵や骨格の周りに散らばっていた火山灰に含まれる鉱物を調べたところ、約1億9300万年前のものであることが分かった。
これまで、この種の恐竜は約2億2100万年前から2億500万年前の三畳紀後期に生息していたと考えられてきた。しかし今回の発見により、ムスサウルスはジュラ紀初期に繁栄していたと考えられる。そうすると、ムスサウルスが約2億年前の三畳紀末の大量絶滅を生き延びたことになる。
今回の研究は、ムスサウルスが生き延びた鍵は群れを作る行動にあるかもしれないことを示唆している。
「ムスサウルスは社会的な動物であり、それが彼らの繁栄を説明する重要な要素であると考えている」とポルは述べている。
現在のアルゼンチンにあたる地域で繁栄していたムスサウルスの群れが、巣作りをする様子を描いた想像図。
Jorge Gonzalez
ムスサウルスは、共同生活をすることでより広い範囲で餌を探すことができるようになり、それが十分な食料の確保につながったのだろう。
大きな成体と小さな幼体では動くスピードが違うため、同じサイズのムスサウルスが「集団を形成して一緒に活動した」可能性が高いとポルは言う。
生まれたばかりの幼体と成体のサイズの違いを考えると、ムスサウルスが成体のサイズまで成長するには何年もかかっただろうとも彼は付け加えた。若い個体は捕食されやすかったと考えられ、成体が群れにとどまることで幼体を守ることができたのだろう。
(翻訳:仲田文子、編集:Toshihiko Inoue)