Surface Pro 8。別売の「スリム ペン 2 付き Surface Pro Signature キーボード」とセットで試用。
撮影:西田宗千佳
マイクロソフトは11月1日から、フルモデルチェンジした新型Surface「Surface Pro 8」を日本でも発売する。
キックスタンドで本体を立てる「Surface Pro」シリーズはSurfaceを象徴する人気シリーズだが、外観は6年近く変わっていない。基本デザインは、実に2015年発売の「Surface Pro 4」から共通だ。
今回の「Pro 8」は、ペンの変更・ディスプレイサイズの変更など、6年ぶりの刷新となる。発売前の実機レビューでは、外見だけでなく性能も大幅に進化していることがわかった。
変更点は大きく分けて以下の3つだ。
- ディスプレイの変更に伴うデザインの変更
- 最新の第11世代Core iシリーズにプロセッサーを変えたことによる性能の向上
- ペンの改良
Surface Pro 7に加え、サイズ・ペンなどの存在から比較されることの多いアップルの「iPad Pro」も合わせて、違いを確認してみよう。
ディスプレイは大型でより高画質に
Pro 8(左)とPro 7。本体サイズの変更以上に、画面の大型化が目立つ。
撮影:西田宗千佳
Surface Pro 8(以下、Pro 8)を語る上で、もっともわかりやすいのはディスプレイの大型化だ。
Surface Pro 7(以下、Pro 7)までは12.3インチ・2736×1824ドットだったディスプレイは、Pro 8では13インチ・2880×1920ドットに大型化した。
ポイントは、本体サイズはわずかに縦方向に大きくなった程度ということだ。ディスプレイの縁が細くなった分、大きな画面を搭載できるようになった。見た目には、解像度が上がっただけでなく、画質も向上しているように感じる。
Pro 8(左)と12.9インチiPad Pro(右)。数字上は13インチと12.9インチだが、縦横比が違うため、iPad Proの方が大きい。
撮影:西田宗千佳
13インチというサイズは、iPad Proの最上位モデルが採用する「12.9インチ」に近いが、縦横比の関係から、画面サイズ自体はiPad Proの方が大きい。が、そこはさほど重要ではない。
2020年1月発売の「Surface Pro X」。Pro 8とデザインなどが似ている。
撮影:西田宗千佳
本体の面積を変えずにディスプレイを大型化するというアプローチは、日本では2020年初めに発売された「Surface Pro X」(以下、Pro X)と同じだ。
Pro XはARM系のプロセッサーを採用し、薄型化・軽量化・動作時間延長を目指した「次世代型Surface Pro」だ。
実機を触ってみると、今回登場するPro 8は、「Pro Xのスタイルで作ったインテルCPU版Surface」と説明すると非常にしっくりくる。
Pro 8はARM系を使ったPro XやPro 7に比べ、110g重くなっている。厚さについては、iPad Proも含めほぼ同等だ。
Pro 8(左)とPro 7。わずかにPro 8の方が厚くなったが、持った感覚ではわからない程度だ。
撮影:西田宗千佳
Pro 8(左)とiPad Pro。実はiPad Proの方が全体は薄いのだが、カメラ部が飛び出している分、並べると同じような厚さになる。
撮影:西田宗千佳
インターフェイス面にも、最新版らしい変化がある。
従来はUSB Standard-A(いわゆる普通のUSB端子)とType-Cが1つずつに加え、電源と周辺機器接続を兼ねる「Surface Connector」となっていた。だが、Pro 8ではUSB Type-C(正確にはThunderbolt 4端子)が2つとSurface Connectorが1つに変わっている。
本体背面。キックスタンドで立てられるという構造はこれまでのまま。
撮影:西田宗千佳
本体左側面(写真左)には、ヘッドホン端子のみがある。本体右側面(写真右)には上から、電源ボタン・USB Type-Cが2つ、Surface Connector。
撮影:西田宗千佳
本体裏面からは専用のストレージ・モジュールにアクセスできる。取り外しにはドライバーが必要。
撮影:西田宗千佳
また、ストレージは背面から取り外せるようになっている。これも、Pro Xと同様だ。
ただし現状、Pro 8はPro Xと違い、4Gや5Gでのネット接続機能を内蔵したモデルは用意されていない。
CPU以上にグラフィック性能が進化
前述のように、Pro 8は性能も大きく強化されている。
コンシューマ市場向けのPro 7は、2019年モデル以降性能アップしていない。一方、2021年前半に法人市場向けとして、最新の第11世代Core iシリーズにプロセッサーを変えた「Pro 7+」が登場した。
搭載するプロセッサーの世代としては、Pro 7+とPro 8は同等だが、Pro 8が搭載しているものの方が、クロック周波数が若干高い。
では、どのくらい性能が違うのか? 筆者がWindows 11などのテスト用に使っているPro 7(CPUは第10世代Core i5、メモリーは8GB)と比較してみた。
マルチプラットフォームのベンチマークソフト「Geekbench 5」のテスト結果は以下のとおりだ。マルチコア性能で25%、シングルコア性能で18%の性能アップ、というところだ。
Geekbench 5でのCPUテストの結果。Pro 8は順当な性能向上を見せている。
画像:筆者によるスクリーンショット
「このくらいなら、そんなに大きな進化ではないのでは?」と思うかもしれない。しかし、これがグラフィックを絡めた性能になると大きく変わる。
ネットワークRPG「ファイナル・ファンタジーXIV(FF14)」のベンチマークソフトで計測してみた。
FF14はゲーミングPCでないと動かない、というほど重くはないが、ビジネス向けの一般的なPCには荷が重い。
事実、ゲームを志向した高性能ノートPCを想定している「高品質(ノートPC)設定」では、Pro 7では処理が重すぎて、カクカクとしか動かない。「設定変更を推奨」とされる値しか出なかった。
Pro 7を使い、FF14ベンチマークを「高品質(ノートPC)設定」でテスト。ゲームに適さない値しか出なかった。
画像:筆者によるスクリーンショット。 (C)2010 - 2021 SQUARE ENIX CO., LTD. All Rights Reserved.
だが、Pro 8では同じ設定でベンチマークをしても、ほぼ3倍のスコアとなる6154という値が出て、「やや快適」となった。
見た目上の動作も滑らかで問題を感じない。画質設定を少し下げれば、ビジネス向けノートであるPro 8でもFF14が十分に動く。
Pro 8では、同じ設定で3倍のスコアが出て、「やや快適」にゲームができることがわかった。
画像:筆者によるスクリーンショット。 (C)2010 - 2021 SQUARE ENIX CO., LTD. All Rights Reserved.
第11世代Core iシリーズは、特にGPUの強化が目覚ましい。それがこの結果に表れている。
ゲームでは遊ばない人だとしても、外部ディスプレイをつないで使う場合などは、GPUの性能の余裕が快適さにつながる。
ただその代償か、発熱は大きめだ。
一般的な処理では熱が気になるほどではないが、GPUまで全力で回すと、本体の裏は全面が熱くなる。熱は約43度まで上がった。ファンもかなりしっかりと回る。
参考までに、Geekbench 5をiPad Proで動かした時の値。M1の性能が際立つ。
画像:筆者によるスクリーンショット
参考までに、同じGeekbench 5をiPad Proで動かした時の値も掲載しておこう。Pro 8よりもさらに高い値が出ていて、M1の性能の高さを感じさせる。
発熱もより小さいし、そもそもiPad Proにはファンもない。絵を描く際などに「発熱が気になるので機器を使い分けたい」人は、こうした点も考慮すべきかもしれない。
収納も「描いた感じ」も改善したSlim Pen 2
Surface Slim Pen 2は「スリム ペン 2 付き Surface Pro Signature キーボード」に付属する。
撮影:西田宗千佳
最後の変化点は「ペン」だ。
Surface Proは別売のペンで手書きして使うことを想定している。今回より新しく開発された「Surface Slim Pen 2」が基本になる。
写真でわかる通り、Slim Pen 2は横に平たい板状になっている。こうした形になったのは、ペンの収納を考えてのことだ。
前世代の「Surface Pen」は本体の左横にマグネットでくっつく形になっていた。
また、Surface Penの電源は「AAAA乾電池(いわゆる単6電池)」というちょっと特殊なもの。筆者の経験上、1年近くは動作するので簡単に切れないのだが、それでも交換が面倒であることに変わりはない。
Pro 7にSurface Penをつけた時の状態。左側にマグネットでくっつく。
撮影:西田宗千佳
一方、iPad ProのApple Pencilは充電式なので電池交換の心配はない。ただし、第1世代は本体にくっつけて持ち運ぶことができなかった。
現行のApple Pencil(第2世代)は、本体の上にマグネットでくっつく。ここで充電も行うので、ずいぶん楽にはなった。だが、マグネットはそこまで強いものではないので、カバンの中などで外れることもある。
iPad Proは上にペンがマグネットでくっつく。
撮影:西田宗千佳
それに対してSlim Penは、本体のキーボードに収納場所があり、普段はここに入れておく。充電機能もあるので、ペンを入れておくだけでいい。
このスペースは、キーボードに傾斜をつけるために折り畳む場所でもあるので、ペンを使っていない時にも邪魔にならないし、なにより、カバンの中でペンが外れることもない。
Slim Pen 2はキーボード上部の溝にペンが入る。ここは折り畳んで隠れる領域だ。
撮影:西田宗千佳
とてもよくできた仕組みなのだが、Pro 8と同時に登場する「Slim Pen 2」ではさらに改良が加えられた。実は中に振動を伝える機構があるのだ。
といってもスマホの振動よりもさらに小さなもので、軽い手触りがある、くらいだと思っていい。
例えば、ペンを取り出して「書ける」状態になった時に軽く震える。
また、ペンをゆっくり動かして描線を描く時にも震える。こちらは震えるというより、「ペン先に軽い摩擦があるような印象を受ける」といった方が正しい。
紙にペンで線を引くと、微妙な引っ掛かりを感じるものだ。その摩擦感を振動で再現することを目指した機能である。確かに、紙の「引っかかり」っぽい感じもする。
Surface Slim Pen 2で触覚フィードバックを利用するには、Surface Pro 8もしくはSurface Laptop Studioが必要になる。
撮影:西田宗千佳
とはいえ、完全に紙と同じ書き心地になった、と考えるべきではない。
例えば、素早いまっすぐな描線では振動を感じない。ガラスをひっかく感触そのままだ。あくまでゆっくりした線や、細かくペンを動かしたときにだけ、振動による摩擦が再現されるようだ。
これは想像だが、素早い線ではあまり摩擦は重視しておらず、ゆっくり描く時などにはひっかかりという「描いている手応え」を描線のコントロールに活かす、人間の生理を考えた上での機能なのではないか。
実際、引っかかりが変わらないApple Pencilなどと比較すると、「描いている」という感じはより強くなっている。
「デジタルペンでは描いている感じが薄い」という人は多い。そういう不満があるなら、Slim Pen 2を採用したPro 8を試していただきたいと思う。
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西田宗千佳:1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。取材・解説記事を中心に、主要新聞・ウェブ媒体などに寄稿する他、年数冊のペースで書籍も執筆。テレビ番組の監修なども手がける。主な著書に「ポケモンGOは終わらない」(朝日新聞出版)、「ソニー復興の劇薬」(KADOKAWA)、「ネットフリックスの時代」(講談社現代新書)、「iPad VS. キンドル 日本を巻き込む電子書籍戦争の舞台裏」(エンターブレイン)がある。