【Luup社長・岡井大輝1】電動キックボードは通過点に過ぎない。「目指すは21世紀のJR」

LUUP岡井大輝

撮影:今村拓馬

「誰のためとかターゲットを絞って考えたことはないです。あえて言うなら“みんなのため”。僕たちは21世紀のJRになりたいから、対象を絞る発想もないんですよ」

移動中の隙間時間を使ってのオンライン取材の中で、あまりにもさらりと彼は壮大な思いを語っていた。

忙しいのにはワケがある。Luup社長の岡井大輝(28)の日常は加速的に過密になっている。

エメラルドグリーンが目印のマイクロモビリティ

Luupポート

東京都心では、デッドスペースを活用したLuupのポートも見慣れた存在になってきた。

提供:Luup

Luupは2018年に岡井が学生時代の仲間たちと5人で創業した会社だ。手がけるのは、電動キックボードや電動アシスト自転車といった短距離移動を目的としたマイクロモビリティのシェアリングサービス。

当初は電動アシスト自転車のシェアリングサービスから始めたが、2021年4月からは電動キックボードシェアリングの実証実験もスタート。

渋滞を気にすることなく、短い距離を気軽に移動できる電動キックボードは「密を避けられる」という点で、新しい生活様式にもフィットし、災害時の都市の移動手段としても注目されている。

特に東京都心部では、このどこか未来的で小さな乗り物が駆け抜ける風景が、この半年で急速に馴染んできた。Luupが提供するのはエメラルドグリーンが目印のマイクロモビリティだ。

その良さは、なんといっても交通手段としての身軽さだ。

一人乗りで小回りが効き、いつでも好きな場所から乗って、空きのあるポートに返却できる。ポートはアプリ上で検索して探せ、コンビニの店先などデッドスペースを活用したポートは日々設置が進んでおり、2021年10月現在500カ所以上にまで増えている。

「フツウの起業の3倍か4倍くらいの任務」

マイクロモビリティ推進協議会

岡井(写真左から2番目)が同業者らと組成した「マイクロモビリティ推進協議会」。自身は会長を務め、行政との調整に奔走する。

提供:Luup

ミッションは、「街じゅうを『駅前化』するインフラをつくる」。

現在、渋谷区、新宿区など東京都心と大阪の5エリアでシェアサイクル事業を提供し、2021年4月からは「新事業特例制度」の認可を受けた電動キックボードの実証実験も開始。

道路交通法上の扱いが「小型特殊自動車」になったことで、速度制限が最高15km/h、ヘルメット着用は任意に。より気軽に、街中を走れる“市民の足”になった。対象エリアも順次拡大され、10月には横浜みなとみらい地区での実証実験もスタートした。

一事業者として自社のサービスを拡大成長させるだけでない。岡井は起業した翌年の2019年に同業者を取りまとめる団体「マイクロモビリティ推進協議会」を設立して会長に就任。政府や行政との調整役にもなっている。

従来の公共交通機関がカバーできなかった「ラストワンマイル」(物や人が到達する交通・物流の最後の区間)を補う“新しい交通インフラ”。その普及に向け、日々奔走する仕掛け人が岡井なのだ。

「機体の自社開発やメンテナンス、オペレーションだけでもやることは目一杯あります。ただ、それだけじゃ全然足りない。

ソフトウェアの基盤を作り、利用者に使いやすいアプリへ改良を加え、車体を改良し、ポートを増やし、使えるエリアを広げて、業界としての足並みも揃えていく。既存のモビリティ産業との調整や、自治体や警察との会話も手を抜けない。

多分、フツウの起業の3倍か4倍くらいの任務を抱えているんじゃないですかね。正直、大変です(笑)。でも、新しい交通インフラをつくるってそういうことなんだと腹を括ってやっています」

人口減少社会こそ「電動・小型・一人乗り」

countryside in japan

少子高齢化・過疎化が進む日本の地方。公営バスが廃止になるなど、「地域住民の足」はどんどん減ってきている(写真はイメージです)。

yoshimi maeda / Shutterstock.com

そこまでハードな挑戦を、なぜ岡井は引き受けたいと思ったのか。そもそも、Luupという会社の事業を通じて何を成し遂げたいと思っているのか。

岡井に聞くと、「人類の前進に貢献するため」という答えが返ってきた。

「これから日本では人口が急激に減少して高齢化も進む中で、従来型の公共インフラは維持できなくなることはほぼ確実です。例えば、山間に住む人たちのために公営バスを毎日走らせるとかなりの赤字を生んでしまうし、運行を支える若者の確保も厳しい。

同時に、医療や介護の施設は経営効率を求めて都市に集中していく。鉄道やバスといった大規模な交通インフラだけで全ての人の生活を維持するという社会は成り立たなくなる。人口減少社会を支える新時代のIoTインフラをつくることが、僕たちの使命です」

岡井が、「電動・小型・一人乗り」という条件を満たすマイクロモビリティにこだわるのも、この使命達成のためだ。

一人を運ぶために、もう一人が必要になるのでは、人口減少社会に適さない。自力でいつでも好きなときに移動できる手段を、全ての人に提供できて初めて、これからの時代に対応できるインフラになる。

Luup4輪

将来的な4輪マイクロモビリティのイメージはLuupの公式サイトにも掲載されている。

Luup公式サイトよりキャプチャ

現在提供するのは、二輪の電動アシスト自転車と電動キックボードだが、将来的にはより高齢者の走行にも適した三輪・四輪のマイクロモビリティも開発予定で、すでに国内の大手自動車メーカーとも話が進んでいるという。

つまり、今、街なかで見かける「颯爽と走るキックボード」はあくまで通過点でしかない。ファッショナブルな風景の先には、深刻な社会課題を解決する未来像がある。

GAFAにできないこと追い求めて

LUUP岡井大輝_経歴

撮影:今村拓馬

ここまで話を聞くと、いかにも課題解決志向のソーシャルビジネスのような印象を受けるかもしれないが、岡井の頭の中には世界に対する“勝算”もある。

「競合はGAFAであり、世界の新興モビリティ最大手企業たちです。彼らにできなくて、僕たちにしかできないことはなんだっけ?と常に突き詰めて考えています。

特にソフトウェアで完結する分野は、圧倒的な規模をとった企業の優位性が高いし、戦える隙はない。それに彼らがすでに優れたプロダクトを作っているのなら、わざわざ競う必要もないと思っていて。誰かの股を抜くことに興味はないです。人類の前進を数値化できるとしたら、その数値が最大化できることを選びたい」

たまたま自分が生まれた今の時代の日本という国で、世界に先駆けて直面している課題とは何か。そう考え抜いた答えが、人口減少であり高齢化であったというわけだ。

鉄道に代表される巨大交通網による「駅前集中型」の都市設計も、日本独自のもの。国土が狭く、駅前に生活インフラが密集し、路上での駐停車がほぼできない。日本ならではのローカル課題を解決できるノウハウはGAFAにはない。

かつ、自動車や鉄道といった既存の巨大モビリティ産業が解決しようとしてもできなかった手法で挑めるのは、スタートアップならではの強みだ。

世界の中で、日本の中で、“自分たちにしかできない理由”を岡井は求めてLuupを創業した。

「交通インフラは、日本の地図を丸ごと変えるくらいの力がある。たくさんの人を巻き込む挑戦になる。だからこそ、後から振り返ったときに、『人生をかけてまでやるべきことだったのかな』と少しでも疑問に感じそうなことはしたくない。社会にとって必要不可欠なものに集中しようぜと、共同創業した仲間たちとも決めたんです」

世界に先駆けて、日本が解決できる課題に挑む。岡井が起業した、その始まりの物語もまたユニークだった。

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