NTTドコモは10月25日、NTTグループのNTTコミュニケーションズとNTTコムウェアを子会社化すると発表した。
法人事業に強く、固定通信中心のNTTコミニュケーションズ、システム・ソフトウェアの開発・運用などを主軸とするNTTコムウェアを子会社とすることで、法人事業や携帯・固定融合のサービスを拡大していく。
これによって、本業である携帯事業に関して「(収益の)主力から転換していきたい」と井伊基之NTTドコモ社長は話し、法人事業など、通信以外の分野での収益を全体の半分以上に拡大していきたい考えだ。
新生ドコモグループの誕生をアピールするNTTドコモの井伊基之社長(中央)とNTTコミュニケーションズの丸岡亨社長(左)、NTTコムウェアの黒岩真人社長。
撮影:小山安博
NTTドコモをめぐっては、2020年9月にNTT(持株)がNTTドコモを完全子会社化すると発表。その後、政府の値下げ圧力に対して、オンライン専用の低価格プラン「ahamo」を投入するなど値下げに取り組んできた。
こうした値下げによって、2021年度第1四半期の営業利益は対前年同期比361億円減となり、利益率は悪化してきている。
3社統一の法人事業ブランドとして「ドコモビジネス」を展開する。
出典:NTTドコモ
5Gによる高速・大容量通信によって、ユーザーの大容量プランへの移行を促すことは利益拡大につながるが、井伊社長は、今後も通信料金は継続的に低減していく方向性を示している。
大幅な利益拡大は難しいと判断し、「通信事業は基盤事業だが、これをベースにしながら、その上で提供するサービスを収益の柱にしなければならない」と強調する。
今後の事業戦略。6GやIOWNといった次世代通信技術の研究開発では必須特許の獲得などで世界をリードし、国内の高品質で経済的なネットワークを世界にも展開。法人事業やスマートライフ事業をさらに拡大していくことを目指す。
出典:NTTドコモ
新生ドコモG誕生、新たな収益源は「法人事業」
新たな収益源として期待するのが法人事業だ。
ドコモ全体の売上高は約4兆7000億円(2020年度)で、通信事業以外の売り上げは1兆円程度。そのうちの約20%程度が法人ソリューションとされているため、収益源としてはまだ小さい。
一方、NTTコミュニケーションズはソリューション事業での約2500億円を始め、全体の売上高は1兆円を超える。同社を子会社化することで、法人事業が大幅に強化される。
一方、NTTコムウェアは直近2021年3月期の売上高が1700億円に満たないが、ソフトウェア、システムの開発や保守、運用など、法人ソリューションを構築していく上で重要な機能を持っている。
こうした2社を子会社化することで、「新生ドコモグループ」として法人事業をワンストップで提供する。
これまで、特にドコモとNTTコミュニケーションズでは固定、携帯といった通信方式の違いはあっても、ネットワーク面では重複していた。そのため、子会社化でこうした状況を解消してコスト効率化も図れる。
それでも、コスト削減も含めた構造改革だけでは、通信事業のジリ貧は免れない。
そのため、5Gエリアでは他社を上回る速度で展開し、12月からは5Gの真価が発揮される「SA(スタンドアローン)」のサービスを開始。「高品質で経済的なネットワーク」を実現することで、「できれば成長軌道に乗っていきたい」(井伊社長)とする。
ベースとなる通信事業は高品質かつ経済的なネットワークを構築して効率化を図る。
出典:NTTドコモ
OCN事業はNTTレゾナントへ「切り分け」
NTTドコモは、低料金プラン「エコノミー」でMVNO(いわゆる格安SIM業者)と連携する方針を進めている。
その第1号の1社として、NTTコミュニケーションズの「OCN モバイル ONE」が参加することを発表しているが、こうしたコンシューマ事業はポータルサイトの「goo」などを提供するNTTレゾナントへ移管される。レゾナントもドコモが完全子会社化し、別会社としてエコノミーのサービスを提供する。
競争が激しく収益拡大が難しい低料金プランは別会社として切り離し、NTTコミュニケーションズを法人事業に注力させた形だ。
国内約2300店舗を抱えるドコモショップは、端末・サービスの販売拠点から、近隣のDX支援などの価値提供へとシフトする。
出典:NTTドコモ
これに加えて、通信以外のもう1つの収益の柱である「スマートライフ事業」も拡大させる。
金融・決済分野では今後、融資事業を提供するなどサービスを拡充。また、映像・エンターテインメント分野でも、すでに発表済みのNTTぷららの子会社化によって、コンテンツを拡充する。
電気事業の「ドコモでんき」、メディカル・ヘルスケア分野のサービス提供、xR分野ではコンテンツから端末までサービスを展開するなど、矢継ぎ早に事業を拡大している。
金融・決済、映像・エンターテインメントに加え、新規領域でも拡大を図る。
出典:NTTドコモ
こうした取り組みによって、スマートライフ事業の売上高は「2025年度には2倍に拡大する」(井伊社長)目標で、2社の子会社化で拡大する法人事業と合わせて、「全体の収益の過半を創出」(同)する。
会見でNTTドコモが公表した新たな中期経営目標。
出典:NTTドコモ
具体的には、法人事業の売上高を現在の3社合わせて1兆6000億円から、2025年度には2兆円以上に拡大。1兆円規模のスマートライフ事業と法人事業の合算が占める比率を、売上高6兆円のうち50%以上にするという野心的な中期目標を掲げる。
3社の統合スケジュールは、第1弾として2社の子会社化を、2022年1月をめどに実施。第2四半期にはそれぞれの事業を統合し、ぷららやレゾナントの統合も図る。
出典:NTTドコモ
3社の統合による相乗効果は、NTTグループ全体では2023年度に1000億円規模、2025年度には2000億円規模を見込む、とNTT(持株)の澤田純社長も期待を寄せる。
新生ドコモグループの誕生に伴い、NTTの中期経営戦略も見直しが入った。2023年度で1000億円、2025年度で2000億円以上の増益を見込む。
出典:NTTドコモ
事業統合によってさらなる拡大を図るNTTグループに、ライバルとなるKDDIやソフトバンクといった通信事業者はどのような対策を打ち出すか。携帯事業にとどまらない通信事業者の競争がさらに激化しそうだ。
(文・小山安博)
小山安博:ネットニュース編集部で編集者兼記者、デスクを経て2005年6月から独立して現在に至る。専門はセキュリティ、デジカメ、携帯電話など。発表会取材、インタビュー取材、海外取材、製品レビューまで幅広く手がける。