中小企業庁によると、日本の中小企業は約420万社、そのうち約366万社は、より規模が小さな小規模企業だという。全企業の実に99.7%は中小・小規模企業。その躍進こそ日本の成長を左右することに異論はないだろう。その中小・小規模企業では、DX(デジタルトランスフォーメーション)の推進やテレワークの浸透において、いまだ模索中なところが多いようだ。
そういった現状に「本来、中小・小規模企業こそ柔軟な働き方を取り入れ、イノベーションを生み出しやすい」と声を上げるのは、シスコシステムズでコラボレーションアーキテクチャ事業を担当している石黒圭祐氏だ。中小・小規模企業で働き方を進化させるには何が必要なのか。石黒氏に話を伺った。
リモートワークに企業規模の垣根はない
石黒圭祐(いしぐろ・けいすけ)氏/シスコシステムズ 執行役員 コラボレーション アーキテクチャ事業担当
多くの企業がその必要性を認識しているDX。なかでも、コロナ禍によってリモートワークに関わるDXは喫緊の課題となった。石黒氏は「従来の働き方を見直してイノベーションを創出するには、トップの判断、組織の体制構築、ITの導入のしやすさが必要。本来、トップによる迅速な判断が可能で組織の小回りが利く中小・小規模企業にこそチャンスがあります」と語る。
しかし、リモートワークの実施率は2021年5月の東京23区の中小企業で38.4%(東京商工会議所調べ)と、現実には中小・小規模企業ではリモートワークについて足踏み状態なところもあるようだ。
リモートワークを導入しないデメリットは多い。
「会社の代表電話を取るためだけ、書類を処理するためだけに出社するといった話もありますが、それでは特定の社員に負担がかかります」(石黒氏)
また、リモートワークを導入していても、コミュニケーションツールがバラバラだったり、ありものの社内ツールを寄せ集めただけだったりすることで、生産性の低下やセキュリティリスクの増大といった課題も生まれているという。
「『中小・小規模企業だから、この程度の無料ツールでいいだろう』もしそういった考えがあるとしたら、それは大きな間違い。リモートワークには、コミュニケーションツール、セキュリティ対策、ネットワーク機器などが必要ですが、これは、大企業であっても中小・小規模企業であっても、差を付けてはいけない分野です。今後、中小・小規模企業と大企業、採用するツールに垣根がなくなるでしょう」(石黒氏)
Webexユーザーの満足度が高い理由
出典:Cisco公式ホームページ
例えば、日本を代表する組織系建築設計事務所である梓設計は、WebexとCisco Merakiを、クラウドファンディング事業で急成長を続けるCAMPFIREは、Cisco Secure Access by Duoを導入している。
Webexは、いわゆるオンライン会議プラットフォームだが「オンラインコミュニケーション全般を充実させるコラボレーションプラットフォーム」と表現したほうが正しい。PCやスマホ、タブレットなどマルチデバイスに対応したビデオ会議ソフトに加え、より柔軟なチーム連携を可能にする会議端末、ビジネスチャット、電話機能を包括的に提供し、企業のハイブリッドワークを支える。
Cisco Merakiはクラウドベースのネットワーク管理ツールだ。無線、有線LANからセキュリティまで、ビジネスのライフラインであるITインフラを包括的に提供。直感的に操作できるダッシュボードと、現地に行かなくてもリモートでの導入、運用が可能なので、管理の負担を抑えつつ、安定したネットワークの提供が可能になる。
Cisco Secure Access by Duoはクラウドベースのセキュリティソリューション。多要素認証を採用しており、スマートフォンや生体認証、電話といった2つ以上の要素を組み合わせてログインすることで、パスワードだけに依存しない強固なセキュリティ機能を提供する。また、使用するデバイスのOSやブラウザのバージョンを検証し、安全性を確認できない場合はアクセスのブロックやアップデートの通知を促すなど、対策への適切な行動を促す。
これらのクラウドソリューションを駆使することで、シスコはオフィスワークとリモートワーク、それぞれの良さを認めて柔軟に選択しながら業務を行うハイブリッドワークの推進を目指している。石黒氏によると「この3つのツールは、中小・小規模企業がハイブリッドワークを導入する最初の一歩に向いている」とのことだ。
加えて中小・小規模企業にとって最も重要なポイントが、無料トライアルがあるということだ。
「これらのサービスやツールは、サブスクリプションで使用することができます。とりあえず使ってみて、良かったら続ける、そうでなければ続けないという判断ができるわけです。ムダな出費を避けたい中小・小規模企業にとってはリーズナブル。もちろん、ハイブリッドワークが浸透してより高度なツールが必要になれば、その都度、アップグレードできますので、スモールステップで徐々に環境を整えることが可能です」(石黒氏)
この最適な提案のなかには、ハードウェアも含まれる。オンライン会議やセキュリティのシステムは数多くあるが、監視カメラや無線LAN、スイッチなども手掛け、一貫性をもってで提供するのは珍しい。それゆえ、シスコ独自の強みともなっている。
『Webex Desk Camera』は、リアルな4K Ultra HD高画質と超広視野角で複数人でも活用できるハイエンドなWebカメラだ。
「例えばWebexには、4K UHDの画質で明るさも自動調整し、画角も広くマルチフォーカスで話し手にピントが合うWebカメラ・Webex Desk Cameraをラインナップ。リモートでも高画質、高音質でコミュニケーションが可能になりました。これはWebexだけでなく他社の会議アプリケーションでも使えます」(石黒氏)
高画質、高音質が実現すると、ユーザーの満足感が向上する。シスコが重要視するのは、ここだ。
「クラウドやソフトウェアで提供できる満足度のレベルは限られています。ハードウエアがあるからこそ、それを超えた体験や価値を提供できる。ハイブリッドワークにメリットがあるのは理解しているのに最初の一歩を踏み切れないのは、そこにいい体験、満足感がないからです。私たちは、その満足感まで提供していきたい。シスコはこうしたポリシーでサービスを提供しています」(石黒氏)
ユーザーの満足度が上がり、ハイブリッドワークが企業文化として定着すれば、自ずとオフィスの縮小にもつながる。また、生産性が上がりコストも下がるだろう。
「ツールの導入にはコストがかかります。しかし、それを上回る利益へとつながるはず。その分を給与として還元するほうが、社員にとっては嬉しいですよ」(石黒氏)
DXはスモールスタートで成功体験を掴め
ハイブリッドワークを実現するDXへの投資。その必要性を感じながらも、最初の一歩を踏み出せない中小・小規模企業の経営者にはなにが必要なのか。石黒氏が考えるのは「成功体験の重要性」だ。
「ITを使うことで社員が働きやすくなり、ビジネスが成長したと実感できれば、それが成功体験になります。だからこそ、ハイブリッドワークのように導入しやすいものからスモールスタートで始めて欲しい。すべてを“DX”と難しく考える必要はないんです。コストが下がります。社員の働き方の満足度が上がります。そういった分かりやすい言葉で、最初の成功体験を掴む。それが次のDXへとつながります」(石黒氏)
ただし、最初の一歩を踏み出すときに、意識しなくてはならないことがある。それは、現状の仕組みを補完するだけでなく、さらに先を見据えることだ。
「シスコにお問い合わせいただくお客様には、2つのタイプがいらっしゃいます。ひとつは、コロナ禍でリモートワークが必要になったから、現状で足りない仕組みを補完するためにシステムやツールの導入を検討するお客様。もうひとつは、ここが大きなチャンスだから、システムやツールで、新しい取り組みに打って出るべきだと考えるお客様です。
後者のお客様は、社員間のコミュニケーションだけでなく、ウェビナーやオンラインイベントなどを活用したり、オンライン販売に力を入れたりしています。これまでかかっていた会場費用や宣伝費、店舗費用などを削減しつつ、新しい市場を開拓していますね。この両者には、大きなギャップがあると感じます」(石黒氏)
シスコは、グローバルスタンダードを知る企業だ。石黒氏は「だからこそ、日本の住環境や働き方に合わせたハイブリッドワークをお客様と共創していける」と力を込める。
「コロナ禍は災厄です。しかし、外的要因があったからこそ、新しい働き方を目指せる土壌が生まれたとも言えます。これまでの働き方の常識が崩れ、大企業も中小・小規模企業も一から働き方改革に取り組むきっかけになりました。これからどういった未来をつくるのかは、日本の企業の大部分を占める中小・小規模企業の経営者にかかっています。私たちもその一助となり、一緒に新しいハイブリッドワークを創り出していきたいと思います」(石黒氏)