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「ジェンダーレンズ投資」という言葉を聞いたことはあるだろうか?
その名から何となくイメージできるかもしれないが、ジェンダー平等の観点を投資基準に組み入れて、より良い意思決定を図る投資活動全般を指す。
毎年、世界経済フォーラムによるジェンダーギャップ指数が公表されるたびに、日本の順位が低いことが報道され(2021年は156か国中120位)、我々はジェンダー後進国に生きているのだなと思わされるニュースも後を絶たない。
ジェンダーレンズ投資は欧米先行で進んでいるが、むしろ特に経済分野でのジェンダー平等達成が遅れに遅れている日本の課題解決にぴったりなのではないか? という仮説のもと、米国やその他の国々のジェンダーレンズ投資の事例を見ていき、その実態を紐解いていきたいと思う。
第1回は、米国西海岸のサンタバーバラを拠点に投資活動をしているアランテキャピタル(Alante Capital)を紹介したい。
アパレル業界に特化したVC、アランテキャピタル
アランテキャピタルはいわゆるベンチャーキャピタル(VC)で、アパレル業界のサステナブルなサプライチェーン実現をテーマに投資をしている。具体的には、ポリエステル代替の生分解性プラスチックを開発している会社や、ブランド各社が生産・流通過程の在庫を削減できるプラットフォームを提供する会社にすでに投資をしていて、コンシューマーテック、クリーンテック、ディープテック、SaaS系のスタートアップが投資対象になる。
アパレル業界に特化し、かつ環境問題に真っ向から取り組む企業にのみ投資するという点でかなりユニークなので、老舗ブランドから「環境に良い新素材開発でタッグを組めるスタートアップはないか?」と問い合わせが入ることも多く、大企業とスタートアップのハブ的な存在にもなっている。現在は約3000万ドルの1号ファンドを11月にクローズする調整をしつつ、5000万ドル~1億ドル規模の2号ファンドの立ち上げの準備中だ。
女性やマイノリティが創業した会社への投資はプラスに
ここまで読んで、「あれ?どこがジェンダーレンズ投資なんだ?」とお思いだろうか。そう、彼らはあくまでサステナブルなサプライチェーン実現と、そこから自然に生まれる短期/長期の経済的リターンを得ることを目標にしていて、ジェンダー平等を前面に押し出しているわけではない。
ただし、パイプライン(投資候補先、現在250社程度)の50%以上を、マネジメントチームに女性かマイノリティがいる会社にするとの投資方針を定めており、その結果、実際に現在の投資先6社中6社全てのマネジメントに女性が入っている。さらに、うち5社は創業者が女性かマイノリティ。なお、どの会社も期待以上の成長をしており、経済的リターンも目標を超えている。
アランテキャピタルの創業者兼マネージングパートナーのカーラ・モラ(Karla Mora)さん曰く、パイプラインの50%を女性かマイノリティにすることは、その視点さえ持っていれば難しい話ではなく、決して無理やりイマイチな会社に下駄をはかせている訳ではないそう。
むしろ投資家としての経験上、女性の経営者は自分のビジネスを実力以上に大きく見せようとしないため、より早く信頼関係を築きやすい傾向にあるとのこと。自身がVCを立ち上げた際に苦労したことも踏まえて、女性経営者は資金調達をする段階にたどり着くまでに大変なステップを踏んでいるからこそ、投資家に対しても真摯に向き合うのだろうと感じているそうだ。
アランテキャピタルの創業者兼マネージングパートナーのカーラ・モラさん。
提供:アランテキャピタル
モラさんが強調していたのは、「サステナブルなサプライチェーン実現と、経済的リターンを目指すにあたり、女性やマイノリティが創業した会社に投資することがプラスに働いている」ということ。
アメリカでは、決定権を持つベンチャーキャピタリストの約90%が男性。人は自分に似た属性に投資する傾向があることから、結果として、VCの投資額の97%以上が男性の起業家に投資されていることが問題提起されている。しかし捉え方を変えれば、これまでVCが見過ごしていた女性起業家が沢山いるということは、モラさんのように投資方針を定めることでそうした起業家に気づき、掘り出しものの投資先を引き当てることができるとも言える。
ジェンダーレンズ投資3つのアプローチ
GIIN(インパクト投資に関するグローバルネットワーク)が規定する、ジェンダーレンズ投資のアプローチは主に3つだ。
- 女性起業家への投資
- 職場のジェンダー平等を促進する企業への投資(従業員、役員、株主、サプライチェーン)
- 女性達の生活を飛躍的に向上させるサービスを提供する企業への投資
Alante Capitalは女性起業家への投資をすることで、ファンドの掲げる目標であるサステナブルなサプライチェーン実現と、経済的リターンを達成している。
ジェンダーレンズ投資は、必ずしもジェンダー平等を前面に出した投資でなくても良いし、企業の目標達成のためにジェンダーレンズ投資をレバレッジする考えもあるということだろう。こう捉えると、日本企業でもジェンダーレンズ投資を取り入れることで成長につながることがあるのではないだろうか。
MASHING UPより転載(2021年8月17日公開)
(文・小口絢子)
小口絢子:総合商社にて鉄鋼ビジネスに従事。東京本社、ベトナムの鉄板加工工場での勤務等を経て、現在ハーバードビジネススクール在学中。米国のジェンダーギャップ解消に向けた取組みをリサーチしながら、日本に持ち帰れること、課題に対する自分の関わり方について日々考えを巡らせている。