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「オールバーズ」はなぜZ世代に支持されるのか?世界のSDGs動向

MUsummit2021セッション「SDGsと世界。北米、ヨーロッパ、アジア、アフリカ」

撮影:中山実華

なぜ日本のSDGsは進まないのかと、常々言われている。日本が抱える課題と解決策を考えるためには、欧米先進国のSDGs動向と比較してみたらどうだろうか。

2021年3月18日・19日のMASHING UP SUMMIT 2021 で行われた「SDGsと世界。北米、ヨーロッパ、アジア、アフリカ」のセッション。OECD(経済協力開発機構)東京センター所長 (2021年2月当時)村上由美子さんをゲストに迎え、モデレーターのHenge Inc.ディレクター廣田周作さんも自身の経験を交えながら、マクロとミクロの視点から世界のSDGs動向について分析を行った。

ESG投資は4~5年で拡大、コロナ禍でさらに加速

OECD(経済協力開発機構)東京センター所長(2021年2月当時)村上由美子さん

OECD(経済協力開発機構)東京センター所長(2021年2月当時)村上由美子さん

撮影:中山実華

今、世界では何が起こっているのか。各国におけるSDGsの進捗や課題について、まず村上さんがマクロの視点から解説した。SDGsの項目は多岐にわたるが、金融業界出身の村上さんはESG(環境・社会・ガバナンス)投資に焦点を当てながら日本と諸外国を比較するという。

「私が20年間いた金融業界では、ESGの情報は『非財務情報』と呼ばれています。通常会計報告に入ってこない財務以外の情報という意味。非財務情報であるESGが投資に大きく影響を及ぼすという認識が、ここ4~5年でモメンタムをもって世界の投資家の間に浸透してきました。ESG評価企業の市場カバレッジ(網羅率)は物凄い勢いで増加し、とくに米国では顕著です」(村上さん)

村上さんによると過去4~5年間の中でも、特に過去1年間の勢いが最も強かったという。2015年以降に米国が他をリードする形で急上昇した要因としては、年金などの大規模な機関投資家がいち早くESG投資を始めたことがある。従来よりキャピタル・マーケットのリーダー的役割を担ってきた米国は、ESG投資に関してもリーダーシップを発揮した。

「日本は元々ESG投資の割合が低かったのですが、この1年で急激に伸びて追いつこうとしています。最初は遅れをとっていましたが、日本の機関投資家間でのESG投資に対する注目度は急に高まっているので、非常に期待しています」(村上さん)

ESG投資はここ数年間で急速に浸透しつつある新しい手法であり、“本当に儲かるのか”は未知数だ。現時点では長期的な視点から有効性を証明するのが難しいものの、村上さんはコロナ禍で起こったポジティブな異変に着目した。

「世界の株式市場が暴落した2020年2~3月。この時期のESG企業と非ESG企業のパフォーマンスを比較したところ、大きく差が生じていました。5年、10年のパフォーマンスはこれから見ないといけないところではありますが、足元だけ見ても、ESGを重視している企業の方が経済的メリットが高いと株式市場は評価している」(村上さん)

廣田さんが「コロナ禍だからこそ、企業のガバナンスや環境への取り組みがすごく期待された?」と疑問を投げかけると、村上さんは大きく頷いた。

「まさにそういうことだと思います。新型コロナウイルス感染拡大の元々の原因の中には、生物の多様性が破壊されていることがある。環境というとカーボンニュートラルなどの議論がとても多いですが、実は生物多様性というのもESGのE(環境)の大きな要素。生物の多様性が崩壊すると、今回のようにウイルスが急激に人類の生活に影響を及ぼすことを、私たちは今回初めて認識しました。

そうすると、そういったマインドを持っている投資家の企業に対する疑問が高まる。そして今回のコロナ禍は、健康だけではなく、社会問題・経済問題も非常に大きかった。コロナ禍の経済問題が起こってから貧富の差が広がった。

社会問題をどのように解決していくか考えたとき、企業が果たすべき役割は非常に大きい。ここにESGのS(社会)が入ってくる。それらを、G(ガバナンス)するストラクチャーがあるか。今回の危機では、この部分がハイライトされました」(村上さん)

村上さんの解説を受けて、廣田さんも「社会の変革期というか。未曾有の危機にこそ、本質的なことが問われている。目先の財務上の利益だけではない部分への期待値が高まっている」と納得した様子だった。

エコ&エシカルでないブランドは、持っているのも恥ずかしい?

モデレーターを務めたHenge Inc.ディレクター廣田周作さん

モデレーターを務めた株式会社Henge Inc.ディレクター廣田周作さん

撮影:中山実華

後半はミクロ視点でSDGsトレンドを解説。ブランド開発・戦略に詳しい廣田さんが中心となり、トークセッションが展開された。

欧米先進国では、エコ・エシカルなブランドであることを客観的に証明する認証を導入する動きがトレンドだと廣田さん。

ポジティブな現状を伝える一方で、廣田さんはいわゆるグリーン・ウォッシュにも言及した。SDGsによって生じる利益を重視するあまり、本質的な取り組みがされないままPR合戦が過熱するリスクがあると指摘。明確な評価の基準を設けることが今度の課題だと述べた。

世界全体で統一化されたSDGs評価基準がないことは、村上さんも懸念していた問題だ。村上さんによると、現在ESG投資の指標を世界全体で統一化する動きが進んでおり、おそらく2021年後半には大きな指標ができるはずだという。

B Corp認証取得の条件は、エコ・エシカルなど複数の審査基準について200点満点中80点以上獲得すること。たとえば、2020年日本初上陸したサンフランシスコ発のシューズブランド「オールバーズ」もその一つ。リサイクル可能な素材だけを使用し、洗濯機で洗えるのが特徴だ。

2021年からは、商品を製造する際に生じたカーボンフットプリント(あらゆる温室効果ガスの排出量をCO2の排出量に換算したもの)を公開した上で商品販売する、画期的な取り組みを開始した。

「これは既存のマーケティングのブランド論では、なかなか考えつかなかった手法です。これまではブランドというと機能性・情緒性という分け方がありましたが、オールバーズの取り組みは情緒でも機能でもない、まったく違う視点に立脚したコミュニケーション。今の若い世代、とくにZ世代がブランドを選ぶ際のかっこよさの基準は、“きちんと未来のことを約束してくれているのか”。この動きが、消費の現場では既に起こり始めています。

消費者の方が(認証よりも)見る目が厳しいので、グリーンウォッシュなどの問題はSNSで告発されることもある。ブランド側が“なんとなくSDGsやっている感”を出すだけのマーケティングを行っていると、どこかで発覚してブランド価値を落とすという事例も出ています。ブランド側としても、広告で解決できる問題ではなくなってきているかなと」(廣田さん)

本質を理解できない企業の淘汰は確実に起こる

トークセッションで語り合う廣田さんと村上さん

撮影:中山実華

ここで廣田さんが指摘したのは、経営者の価値観が未だアップデートされていないという問題点。企業トップがSDGsの本質を理解していないと、どれだけ表面的には優れた先進的な取り組みを行っていても、何気ない発言で瞬時にブランドを傷つけ、売上を落としてしまうことがある。

「日本はその辺が苦手科目。環境に関しては比較的進んでいる方だと思いますが、ガバナンスを見ていたときに、経営者の発言が……。五輪関係のニュースの時もそうですが、責任者の口から悪気なくあのような発言が出てしまう。そもそもの価値観、考え方がズレているのが大きな課題です」(廣田さん)

では、SDGsを企業に実装する際の具体的な問題点とは何なのか。村上さんは、中間管理職以下の意識改革が今強く求められていると指摘する。

「例えば、ダイバーシティや成果主義を実践しましょうとなったときに、会社の人事制度を根本的にひっくり返さないといけない。実は会社だけでなく、日本全体の労働市場の構造から変えなければならない。かなり痛みを伴う変革です。

つまり、成果主義や年功序列の廃止などを新しく導入するにあたって、一時的に今の立場を追われる人も出てくる。それに会社としてどのように対処するのかというのは、とても大きな悩みではないでしょうか」(村上さん)

表面をなぞるだけでなく、本質的な理解が問われる段階に移行しつつある日本のSDGs。市場から淘汰されるのか、それともSDGsに本格的に取り組むのかの二者択一を迫られていると言っても過言でない。

そして新しい消費者ニーズと優秀な人材を獲得し続けるためには、避けては通れない“いばらの道”がある。

セッションを終えた廣田さんと村上さん

撮影:中山実華

MASHING UP SUMMIT 2021

「SDGsと世界。北米、ヨーロッパ、アジア、アフリカ」
村上由美子(OECD[経済協力開発機構]東京センター所長)、廣田周作(Henge Inc.ディレクター)

MASHING UPより転載(2021年9月16日公開


(文・吉野潤子)

吉野潤子:ライター・英語翻訳者。社内資料やニュースなどの翻訳者を経て、最近はWebライターとしても活動中。歴史、読書が好きです。

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