新型コロナウイルスによって経済に変化が生じた。世界経済フォーラムは2020年、こうした急速な変化を「グレート・リセット」と名付け、年次総会を開催した。
焦点のひとつは、第4次産業革命だ。第4次産業革命とは、人工知能(AI)、量子コンピューティング、IoTといったテクノロジーの影響をとらえた広範な概念だ。
では、一般の人にとってこうした変化は何を意味するのだろうか? 「コーチJV」のハンドルネームで知られる暗号資産起業家にとって、それは高度にデジタル化・分散化された世界、暗号資産とブロックチェーンを中心とした世界への移行を意味する。
暗号資産投資家であり、「3T ウォリアー・アカデミー」創設者のコーチJV
Coach JV
コーチJVは、コーチングプログラム「3Tウォリアー・アカデミー」とSNSを通した資産形成教育を自身の使命と定めている。TikTokアカウントだけでも80万人のフォロワー(「ウォリアー(戦士)」と呼ぶ)がおり、自身の動画の最後にはいつも「立ち上がれ」と呼びかける。
コーチJV、本名ジョン・ヴァスキーズ(John Vasquez)はかつて、高級スーツを着て髪をジェルで固めた、ウォール街でよく見かける出で立ちだった。金融界で12年の経験を持ち、最後のポジションはウェルズ・ファーゴのヴァイス・プレジデント兼地区マネジャーだった。
「古いパラダイムから新しいパラダイムへ、人々が未来の金融システムに移行するお手伝いをしています。つまり、私たち自身が私たちの銀行となり、そのシステムの中で主体性を持つということですね」
とヴァスキーズは言い、次のように続ける。
「いまや多くの人が、自分の金融資産は自分でコントロールできると理解し始めている。このことは、従来の金融システムが重大な課題に直面していることを意味します」
2024年までに起こる資産の世代間移行
個人や個人投資家は暗号資産の活用を増やしつつある。こうした変化に従来の金融システムは対応しなければならなくなる、とヴァスキーズは言う。
理由は次のとおりだ。リサーチ会社セラリー・アソシエイツ(Cerulli Associates)によると、記録的な収益によって生み出されたベビーブーム世代(1940年代〜1960年代生まれ)の推定70兆ドル(約7700兆円)もの資産が、世帯の高齢化により、2024年までに主に相続人に移行されるという。
しかし、その資産は従来の金融業界には向かわず、デジタル資産とブロックチェーンに向かうだろう、とヴァスキーズは予想する。
もちろん、他のアセットクラスもこの変化の恩恵を受けるだろう。しかし、投資サービス企業ロビンフッドの2021年第2四半期決算発表資料によれば、同社の新規ユーザーの投資先の内訳で、初めて暗号資産が株式を上回ったという。
さらに、億万長者を対象としたCNBCの調査によると、ミレニアル世代の回答者の半数近くが少なくとも資産の25%を暗号資産に投資しているという。一方、上の世代では、暗号資産に資産を10%以上投資している回答者は皆無だった。
この新たなパラダイムによって、シェアリングを中心としたプラットフォームがさらに浸透し、ユーザー同士が直接やりとりできるようになる、とヴァスキーズは言う。
既にその端緒は見られる。ホテルからAirbnbへ、タクシーから配車サービスへ、そして最近では銀行から分散型金融や暗号資産へ、という具合だ。
人々がこのシフトを理解すれば、今の時代における最大のチャンスを活かして何世代にもわたる資産を築くことができる、とヴァスキーズは言う。
一方、熱心な暗号資産投資家に対して警鐘を鳴らす向きもある。JPモルガンのグローバル・マーケット・ストラテジスト、ニコラス・パニジョーツグロー(Nikolaos Panigirtzoglou)によると、アルトコイン(ビットコイン以外の暗号通貨)の高騰が続くことはなく、2021年5月に起きた暴落の繰り返しになる可能性があるという。
暗号資産投資の4つのポイント
では、一般投資家が暗号資産投資で失敗しないよう、知るべきことは何か? ヴァスキーズは次のように述べている。
第1に、インフレーションをヘッジする資産形成だ。そのためには、ビットコイン、イーサリアム(ethereum)、アルトコインが果たす役割を理解することが不可欠だ。特にビットコインとイーサリアムはインフレヘッジとして人気が高い。米ドルなど従来の通貨と異なり、その供給には限りがあるからだ。
第2に、市場が「鯨」と呼ばれる多額の暗号資産を保有する投資家に大きく影響される事実を理解することだ。大手機関投資家が続々と参入し、暗号資産市場は放物線状の動きになるだろう。投資初心者は、取り残されることへの怖れからピーク時に投資しがちだが、それはタイミングの悪い投資だ。
第3に、一般投資家が暗号資産投資を始めるにあたっては、取引開始が容易ではないことを理解すべきだ。暗号資産の取引はすべてブロックチェーン上で行われるからだ。
第4に、政策の動向や政府が暗号資産規制に注力する理由を理解することだ。政策立案者は、暗号資産を認める方向で準備を進める可能性が高く、規制枠組みは必ずしも悪いものではない。
一方、暗号資産は引き続き投機的であり、投資家はその点に留意する必要がある。
規制強化によってこれまで明らかになっていない暗号資産の多くの欠点が浮き彫りになる、とヴァスキーズは強く警告し、次のように述べる。
「最終的に規制は、暗号資産取引所と暗号資産にとって厳しいものとなるでしょう。今市場にある暗号資産の99%は、その使い勝手の悪さから消滅する可能性もあるのです」
ヴァスキーズが選ぶトップ暗号資産と今後の上昇局面への対応
今度の上昇局面はこれまでの上昇局面を超えるものとなるかもしれない、とヴァスキーズは言う。機関投資家の参入が始まるからだ。ヴァスキーズ自身が保有する暗号資産も、出口戦略を準備している。
ヴァスキーズは現在、21種類の暗号資産を保有している。そのポートフォリオの中心は、イーサリアム、ヴィチェーン(VeChain)、XRP、カルダノ(Cardano)だ。ビットコインは既に高値となっているため、多くは保有していない。
ヴァスキーズは短期投資家であり、アルトコインに比べてビットコインはアップサイドがあまり期待できないからだ。しかし、短期取引ではなく長期的な価格上昇を目指して保有する一般投資家には、ビットコインも推奨できるという。
放物線状上昇局面は、2021年10〜12月の間に起きるだろうとヴァスキーズは予想する。上昇局面開始の兆候となるのは、ビットコイン価格の急上昇だという(編注:ビットコイン価格は10月初頭より急上昇し始めた)。
ピークに達すると、ビットコインの主要指標は下落に転じる。そのとき、投資資金はビットコインからアルトコインへと移る。それがアルトコイン相場、つまり放物線状上昇局面の開始となる。
投資家はこの局面における出口戦略を持つべき、とヴァスキーズは言う。つまり、ピークと思われるタイミングを待たずに利益を確定するべきということだ。ヴァスキーズはこれを「はしご式出口戦略」と呼び、次のように解説する。
「戦士たちとこの戦略を用いる理由は、相場の天井をつかむことは不可能だからです。同様に相場の底を把握することもできません。
暗号資産投資を新たに始める投資家は、人生でこれまで経験したことのないような価格上昇を経験します。そうすると得てして、“欲望指数”が相場の天井を超えてしまうのです」
さらにヴァスキーズは、暗号資産取引が増えると暗号資産取引所が不安定になり得る、としてこう警告する。
「取引所が操業を停止するかもしれません。そのように設計されているのか、あるいは想定外に多くの投資家が取引所取引を始めたからなのかは分かりませんが、投資家は相場の天井で資産を抱えたまま、相場が下降局面に入ってしまうかもしれません。
そして、暗号資産取引で最もエキサイティングな瞬間が、人生最悪の悪夢になってしまうかもしれないのです」
(翻訳・住本時久、編集・野田翔)