テストした14インチMacBook Pro。カラーはスペースグレイ。
撮影:西田宗千佳
アップルが発売した新しい「MacBook Pro」は、心臓部のプロセッサーからデザインまで、久々のフルモデルチェンジで「プロ向けのMac」を目指したものだ。
とりわけ、Proに合わせて作られた独自半導体「M1 Pro」と「M1 Max」の性能に業界の注目が集まっている。先行して2020年に登場したM1チップの性能が非常に高かったためだ。
新MacBook Proは14インチと16インチの2サイズがあり、採用するプロセッサーには「M1 Pro」と「M1 Max」があるだけでなく、GPUコア数などで細かいバリエーションがある。
今回の評価機は、コンパクトな14インチモデルのうち、カスタマイズなしで販売される上位モデルに当たるもの(詳しいスペックは後述、価格は29万9800円)だ。
このモデルの価値を、筆者が日常的に使っているMacBook Pro 13インチモデル(M1搭載)と比較しつつ、解説してみたい。
なお、編集部側で別途、「M1 Max」を搭載した16インチモデルも入手しており、そちらの速度も合わせてお伝えする。
デザインが大幅変更、多数のインターフェースが「復活」
スペック的な話や性能のベンチマークは後ほどとして、まず外観の話から。
14インチの試用機は、想像以上にこれまでのMacBook Proとデザインの印象が違う。以前よりさらに凝縮感があるソリッドな印象だ。ロゴは底面に「彫り込み処理」という新しい手法がとられている。
全体が「四角い」印象に変わった。
撮影:西田宗千佳
本体裏面には「MacBook Pro」の彫り込みロゴがある。これまでのMacBook Proシリーズにはなかったデザインだ。
撮影:西田宗千佳
13インチモデルと比較した場合、ディスプレイサイズが変わったので多少大きくなっている。厚みも1mm程度だが増えた。
本体が1mm厚くなった。それ以上に差があるように見えるのは、底面につながる曲面のデザインが変わっているからだ。
撮影:西田宗千佳
本体が大きくなり、その分背も高くなったが、ディスプレイ周辺の額縁部分が細くなったため、より画面は大きくなったように感じる。
撮影:西田宗千佳
14インチモデルのキーボード。最上段は、登場当初から賛否両論が続いたソフトウェアキーボード「Touch Bar」がなくなり、一般的なファンクションキーに。
撮影:西田宗千佳
接続するインターフェイスも、従来から大幅に増えた。HDMIとSDカードスロットが「復活」し、USB Type-C/Thunderbolt 4端子も左に2つ、右に1つと増えた。
本体右側(上)。手前から、HDMI端子・USB Type-C端子・SDカードスロット。本体左側(下)は手前から、充電に使うMagSafe端子・USB Type-Cが2つに、ヘッドホン端子。
撮影:西田宗千佳
そして、充電用の「MagSafe」も復活している。MagSafe端子は、マグネットによって「外れる」のが利点。ケーブルをなにかに引っ掛けた時でも、本体ごと落ちることはなく、ケーブルだけが外れやすくなっている。
なお、従来通りUSB Type-C端子からの充電も可能なので、MagSafe対応ケーブルを常に持ち歩かないといけない……というわけではない。MagSafe対応ケーブルと付属の大型充電器(このモデルには出力96Wのものがついてくる)は、主に急速充電のために使われるものだ。
本体の他に簡易ドキュメントと96Wの充電器、MagSafeからUSB Type-Cへのケーブルが付属する。
撮影:西田宗千佳
液晶とスピーカーの品質は本当に素晴らしい
性能を見る前に、ぜひ言及しておきたいのが「絵と音の進化」が劇的であることだ。
ディスプレイは、いわゆる「額縁」部分が細くなった効果もあって、13インチから14インチに変わった以上の大型化を感じる。さらに、専門的になるがバックライトがミニLED方式になり、輝度とコントラスト感が大幅に増している。画質が段違いに上がった。
14インチモデル(左)と13インチモデル。ディスプレイサイズもかなり違うが、同時に輝度や発色も大きく変わっている。
撮影:西田宗千佳
ミニLED:バックライトとして非常の小型のLEDを大量に敷き詰める手法のことで、前述のように、輝度とコントラストを大きく改善できるのが利点。
ミニLED方式は、2020年5月に発売された「12.9インチiPad Pro」で初採用された。ほぼ同じものが新しいMacBook Proでも使われていると見て良さそうだ。スペックだけでなく、発色の傾向も似ている。
1点気になるのは、ディスプレイ上部にできた、iPhoneシリーズのようなカメラの切り欠き(通称「ノッチ」)だ。壁紙が明るい色だとやはり目立つが、ダークモードにして暗い壁紙だと、意外と目立たない。ノッチが増えた分画面が広くなってもいるので、トレードオフではある。
カメラの飛び出しによって画面に切り欠きができる「ノッチ」。ダークモード(上)ではさほど目立たないが、明るい壁紙にすると目立つ。
撮影:西田宗千佳
一方、テレワークやリモート会議が増えた昨今で重要装備となった「カメラ」も、劇的に進化した。2020年モデルのM1版MacBook Proでも大きな改善はあったはずだが、正直レベルが違う。
同様に、劇的に変わったのが「音質」。スピーカーから出る音が素晴らしく良い。 13インチMacBook Proも「PCとしてはいい音」だと思っていたのだが、新MacBook Proの音を聴くと、14インチモデルとはいえ、霞(かす)むレベルだ。低音の出方が特に違う。少々強調しすぎかな、とも思うが、好ましい音だ。
PC/Macで映像や音の話をすると、「それはPCとしての範囲でしょう」と思われそうだ。だが、今回の製品は明確に違う。AV機器として1つの領域に達しており、満足感が高い。
14インチモデル・16インチモデルには6つのスピーカーがあり、低音は底面のスリットから、下側にも出る。そのため音質がかなり変わった。
撮影:西田宗千佳
M1 Proの性能は「M1の倍」。MaxはProから「ある程度高速化」
新MacBook Proで最注目は「性能」だ。新型プロセッサーである「M1 Pro」「M1 Max」の実力はどこまでなのか。冒頭で述べたように、今回試用しているのは14インチモデルの上位版。具体的には以下のスペックだ。
- M1 Pro/CPU 10コア/GPU 16コア
- メモリー16GB
- ストレージ1TB
これで約30万円というのはなかなか高価な製品だが、上には上がある。今回編集部側で用意した16インチモデルは以下のスペック。価格は41万9800円になる。
- M1 Max/CPU 10コア/GPU 32コア
- メモリー32GB
- ストレージ1TB
比較対象となる筆者私物のM1版MacBook Pro13インチモデル(2020年発売)は、
- M1/CPU 8コア/GPU 8コア
- メモリー16GB
- ストレージ1TB
で、現在の販売価格は21万4280円。同じM1だと「MacBook Air」の場合、ストレージやメモリー量は減るが11万5280円で購入できる。
どのくらいの性能差が出るのか? まずはベンチマークソフトで見てみよう。
テスト1:Geekbench 5 非常にわかりやすい結果
CPUについては、M1 ProもMaxも同じコア数なので、性能の差は誤差程度。M1との比較では、M1 Pro/Maxの方がコア数の違い以上に速くなっている。
上から14インチ(M1 Pro)、16インチ(M1 Max)、13インチ(M1)。マルチコアだと性能が大きく変わっている。
画像:筆者によるスクリーンショット
GPUも同様だ。コア数が2倍多い分、「M1 Max」はわかりやすく速い。面白いのは、M1とM1 Proで、処理性能の数値がほぼ「倍」であること。一方、ProからMaxの差は、コア数が16から32で倍に増えたにも関わらず、倍にはならない(下図)。
GPUは性能差が顕著。特にM1(一番下)からM1 Pro(一番上)でのジャンプアップが大きい。
画像:筆者によるスクリーンショット
テスト2:CPUの性能の違いを別の角度で見る
CPU依存度の高いCinebenchの値を見ると、他のPCとの相対的な位置もわかる。M1 Pro・Maxともに、マルチコアのテストでは一般的なPC向けCPUはすべて抜き去り、上に残るのはサーバーやワークステーション向けの高価なCPUのみ。シングルコアではインテルの最新CPUをかろうじてかわし、トップになっている。
CinebenchはCPU依存度が高いので、ProとMaxの値はあまり変わらない。だが、M1からの性能向上は著しい。
画像:筆者によるスクリーンショット
これらの差はちょっとわかりにくいので、もう少し一般的な処理でテストしてみよう。アドビの写真現像アプリ「Lightroom」最新版を使い、31枚のRAW撮影データに加工を加えて書き出すまでの時間だ。
M1搭載のMacBook Proでは12.64秒だったものが、M1 Proでは6.61秒、M1 Maxではさらに5.71秒になった。M1からM1 Proで倍くらい短縮され、そこからMaxではさらにちょっと速くなった。
「ハイパワーモード」とは何か?バッテリー動作にも美点
もう1つの美点は、これらの処理を「バッテリーでやっても速度が変わらない」ことだ。
消費電力が問題で、一般的なPCでは「CPUとGPUをフルに回すような仕事」をさせる時は、電源につないで使うのが基本。そうでないと性能に制限がかかる。
だが、M1 Pro/Maxには、バッテリー駆動ならではの制限はほぼない(2020年発売のM1は同様だ)。
これは、いろいろな場所で作業をしたいクリエイターにはありがたいことだ。
一方、M1 Proの場合、処理負荷が上がったからか、M1に比べるとバッテリーの減りは速くなったように思える。もし気になるなら、あえて「低電力モード」で使う、という手もある。こちらの場合、性能は2割から3割下がる。
逆に16インチのM1 Maxの場合には「ハイパワーモード」がある。特にグラフィック処理などでパフォーマンスが欲しい時には、そちらを使うこともできる。当然消費電力は上がり、発熱も上がる。
ただ、編集部側で試した限りでは、Lightroomでの書き出し作業程度だと、さほど差は出ないようだ。おそらくは、本当に負荷が大きい、動画のエンコードや3Dのレンダリングといった作業をする人向けといっていい。
実は費用対効果が良いのは「M1 Pro」だ
結論として、新しいMacBook Proはシンプルに完成度の高い「良いノートPC」だ。圧倒的な性能がある。一方、価格の高さも圧倒的なのが悩ましい。 そういう意味では、「時間をお金で買う」「作業効率を予算に換算できる」プロが買うべき製品だ。
特にM1 Maxについては、お金に糸目をつけず「暴力的な性能」を求めている人向けであり、少しの差が仕事の質を分けるような人向けと言える。 実用的な範囲ではM1 Proの方がコストパフォーマンスで優れているし、M1でも満足する人がほとんどだろう。
過去、13インチMacBook Proは「コスパがいいMac」だった。それが、M1世代へと本格的に移行したことで、相対的にちょっと魅力が薄れたかな、という印象だ。
(文、撮影・西田宗千佳)