「おかえりモネ」で注目の“食えない資格”「気象予報士」が、気候変動時代に企業の強みになる理由

晴天

(写真はイメージです)。

Shutterstock/ESB Professional

2021年の5月から放送されていたNHKの朝の連続テレビ小説「おかえりモネ」が最終回を迎えた。

主役の「モネ」こと永浦百音(清原果耶)が「気象予報士」という設定であることから、ドラマでは天気予報を真正面から捉え、林業や水産業、気象災害、スポーツと気象の関係など、生活のあらゆる場面で天気予報が役立っていることが一貫して描かれてきた。

気象予報士資格は合格率が約5%の難関国家資格として知られているが、せっかく資格を取っても仕事に活かせない「食えない難関資格」と言われることも多い。

難関なのに活躍の場がない気象予報士

気象予報士の仕事といえば、民間気象会社に勤務して気象キャスターをしたり、天気予報を作ったりするのが王道だ。

作中でも、主役のモネは気象予報士資格を取得後に上京すると、まさに王道の仕事を経験していくことになる。

その後、モネは紆余曲折を経て活躍の場を故郷の東北に移す。地域に密着した気象情報の発信という新たな取り組みを始める中で、さまざまな困難にぶつかりながら、物語は最終回を迎えた。

気象予報士の可能性を広げるべくチャレンジしていたモネに対して、現実ではまだまだ気象予報士の活躍の場は少ない。

気象予報などの「現象の予想」に直接従事したことのある人の割合。

気象予報などの「現象の予想」に直接従事したことのある人の割合。

出典:令和2年度 気象予報士の現況に関する調査

気象庁の「令和2年度 気象予報士の現況に関する調査」の調査結果を見ると、気象等の「現象の予想」に直接従事した経験のある気象予報士資格を持つ人は2割程度。

気象予報士資格に不満を感じている人は全体の20.5%を占め、そのうちの約8割は「気象予報士資格を活用できる場が少なかった」と回答している。

逆に、気象予報士資格に満足している人の73%は、その理由を「気象に関する知識を得られたから」と回答。「気象予報士資格を取ったこと自体に満足しているから」との回答も53%と約半数だった。

合格率は約5%と難関資格であるにもかかわらず、調査結果からは仕事と直結しにくいことがうかがえる。

気象予報士試験の受験動機。

気象予報士試験の受験動機。

出典:令和2年度 気象予報士の現況に関する調査

保険業界で活躍する「予報をしない」気象予報士

使いにくい資格という見方が強い一方で、近年では気候変動問題への注目度の高まりなどから、気象に注目する企業が増えつつある。

損害保険大手の三井住友海上保険では、2025年までに社内の気象予報士を現在の5人から50人規模に増やす方針だと報じられた。保険業界で、なぜ気象予報士が必要なのか。

同じく損害保険大手のSOMPOホールディングスにも、グループ内に気象予報士が数名在籍している。

SOMPO

撮影:三ツ村崇志

損害保険会社が取り扱う火災保険では、一般的に地震や火事のほか、台風や洪水などの災害への補償もなされている。火災は年間の発生件数から保険金の支払額が予想しやすい一方で、台風や水害などの自然災害はいつ発生し、どの程度の被害額になるのかが予想しにくい。加えて、台風などの水害は一度起きれば被害が広範囲におよぶため、支払う保険金の額も膨大だ。

災害発生時に支払う金額の見積もりや、保険料の設定金額を算出するために、SOMPOリスクマネジメントでは独自の「自然災害リスク評価モデル」を構築している。

モデルの構築に携わる長野智絵上級研究員は、気象予報士資格を持つ人材の1人だ。

「自然災害リスクを評価するためには、過去の統計データだけでは足りません。甚大な被害を及ぼす災害は、観測データの存在する過去数十年の間だけに発生しているとは限らないからです」(長野さん)

保険料を考える上では、これまでに経験したことがないような規模(例えば数百年~数千年に1回起きるかどうかの規模)の自然災害の影響を含めて評価する必要がある。

「工学的・統計的な手法を用いて台風や洪水による損害額をシミュレーションしています」(長野さん)

モデルにはIPCC(気候変動に関する政府間パネル)の報告書の根拠になった研究で使われているデータも参考にしており、将来の台風の発生数や雨の強さなどを独自で分析しているという。

この先、気候変動の影響で、気象災害の激甚化が示唆されている。

長野さんは、「気象の知識があるからこそ、膨大なデータの海から“意味のあるデータ”を見つけることができるのだと思います」と話す。

2020年9月2日の銀座三越前のゲリラ豪雨の様子。

ゲリラ豪雨の様子(写真はイメージです)。

Shutterstock/Ned Snowman

SOMPOリスクマネジメントの齊藤龍上級研究員は、保険の新商品の開発のアイデア出しの際にも気象予報士としての知識が役に立ったという。

「たとえば災害が起こったときや起こりそうなときに、警報が出されて解除されるまでの一連の流れ、すなわち警報の発表基準や、気象庁、消防庁、自治体などの役割を理解をしておりますと、自治体に発生する費用を想定することができ、その費用を補償するといった保険のアイデアにつながっていきます。

もともと気象現象が好きで気象予報士の資格を取ったのですが、試験に合格するために苦手な法令の勉強したことで、ぐっと視野が広がったことを実感しました」(齊藤さん)

気象予報士試験で問われる、気象業務法や災害対策基本法などの専門知もまた、災害時のリスクを考える上で活用できるという。

長野さん、齊藤さんらの業務は、本来であれば気象予報士資格を保有していなくても担えるものだ。実際、長野さんの部署には気象予報士資格を保有してはいないものの、大学院で気象学を学んでいた専門人材も在籍している。データ分析の場面などでは、そういった人材の方が実力を発揮できる場面もあるという。

ただし、長野さんは「お客さまにリスクのコンサルティングを行う際には、気象予報士という資格を持つスタッフが説明すれば説得力があり、お客様も納得して契約してくれるのではないでしょうか」と業務における資格を持つことの利点を語る。

実際、SOMPOリスクマネジメントの広報担当も、気象予報士資格を持った人材を採用する価値について、「お客さまにコンサルティングを行うにあたり、専門知識を有する人材は必要であると考えています」としている。

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