ハッブル宇宙望遠鏡が2019年6月27日に撮影した木星。
NASA, ESA, A. Simon (Goddard Space Flight Center) and M.H. Wong (University of California, Berkeley)
- 木星の大赤斑は、科学者が考えていたよりもはるかに深く、木星の雲の下に広がっている可能性がある。
- NASAの木星探査機「ジュノー」は2019年にこの大赤斑の渦に接近した。その際に測定したデータから、大赤斑の深さは最大500kmだと考えられる。
- 一方、大赤斑を取り巻くジェット気流は、3000kmもの深さがある。
木星の象徴である大赤斑は、科学者たちが考えていたよりもさらに深く広がっている可能性がある。
NASAの木星探査機「ジュノー(Juno)」は2019年、地球を飲み込むほどの巨大な高気圧の渦である大赤斑に、2回にわたって接近した。その際に得られたデータは、望遠鏡の画像では分からない大赤斑の構造を明らかにした。それによると、渦はおそらく、木星の雲のはるか下、深さ300kmから500kmのところまで広がっていると考えられる。
「我々の頭上から国際宇宙ステーション(ISS)までの距離と同じくらい、大赤斑は木星の奥深くに潜り込んでいる」と、NASAジェット推進研究所でジュノーのミッションを担当する研究員のマルツィア・パリシ(Marzia Parisi)は、2021年10月28日の記者会見で述べている。
「もし大赤斑がサイクロンの渦のようなものだとすると、その渦は海面からISSの軌道を超えるほどの深さになるだろう」
ジュノー探査機は過去5年間、木星を周回し、木星の極やいくつかの衛星のそばを通過してきた。大赤斑への接近は、2017年7月以来のことだ。前回の接近でジュノーが得た測定結果によると、大赤斑は木星の大気の約320kmの深さに及んでいることが示されていた。
これは地球の海の50倍から100倍の深さであり、科学者を驚愕させた。しかし、今回の接近飛行で得た最新データによると、大赤斑はそれよりもはるか下まで広がっている可能性があることが分かった。
「科学者の多くは、大赤斑は非常に浅いと考えていたと思う」とパリシは言う。
「もちろん、別の考え方をする科学者もいた。大赤斑の深さは大気の最初の層で止まると考えるグループと、木星の中心部まで続いているのではないかと考えるグループの2つがあった。いずれにせよこれほどまでに深いというのは、やはり驚きだ」
とはいえ、大赤斑の深さはその直径に比べれば大したことはない。大赤斑の直径は約1万6000キロメートルで、地球の直径の約1.3倍だ。
「非常に広く、まるでパンケーキのような形だ」と、テキサス州サンアントニオにあるサウスウエスト研究所(Southwest Research Institute)で、ジュノーのミッションを率いるスコット・ボルトン(Scott Bolton)は、記者会見で述べている。
「だが、そのパンケーキは我々が予想していたよりもはるかに厚いものだった」
木星の大赤斑の直径と深さを、地球と比較したイラスト。
研究チームはこの研究の成果を、2021年10月28日付けで学術誌Scienceに発表した。
大赤斑の深さは、何かによって500kmで止められている
一方、不思議なことに、大赤斑を取り巻くジェット気流は、大赤斑よりもさらに深いところまで流れており、その深さは約3000kmにも及ぶ。その理由は、研究者にもよく分かっていない。
「大赤斑の循環を制限している何かが、500kmの地点にあることは明らかだ」とパリシは言う。
大赤斑は、木星を取り囲むガスの帯であるジェット気流によって、その構造が保たれていることが分かっている。反対方向に動く2つのジェット気流が大赤斑の渦を回転させているのだ。
大赤斑は、木星で最も有名な嵐であり、何百年も前から観測されている。
NASA, ESA, A. Simon/Goddard Space Flight Center, M. H. Wong/University of California, Berkeley, and the OPAL team
「今回、新たな測定値が得られたので、現在行っているのはリバースエンジニアリング(中身を分解して構造などを明らかにすること)のようなものだ」とパリシは言う。
「ジェット気流の深さも大赤斑の深さも分かっている。では、なぜこれらの深さにこれほどの違いがあるのか、理論家は説明できるだろうか」
大赤斑は常に変化している。約150年前に天文学者が観測を始めて以来、縮小し、より円形に近くなっている。2021年9月には別の科学者グループによって、過去10年間で大赤斑の外縁付近の風速が速くなり、その内側の風速は遅くなっていることが発見されたばかりだ。また、NASAのハッブル宇宙望遠鏡の測定結果によると、大赤斑は縮小しながらも厚みは増しているという。
科学者の中には、大赤斑は縮小しているため、わずか数十年のうちに崩壊して消滅すると指摘する人もいれば、それに反論する人もいる。
ジュノーは今後4年間、木星を周回して研究を続ける予定だ。
(翻訳:仲田文子、編集:Toshihiko Inoue)