Shutterstock
10月28日、ソニーグループは2021年度第2四半期(7月-9月)決算説明会を開いた。
業績は引き続き堅調を維持し、売上高は前年同期比13%増の2兆3694億円、営業利益は同1%増の3185億円。前期に続いて再度2021年度の連結業績見通しを上方修正し、売上高9兆9000億円・営業利益1兆400億円とした。
2021年度第2四半期業績。売上高は前年同期比で2600億円以上増加。本業の儲けにあたる営業利益も32億円だが増加した。最終利益が前年比で大きく減って見えるのは、決算資料を見る限り大半は、法人所得税の違いによるものだ。
出典:ソニー2021年度第2四半期決算資料より
2021年度の通期見通しを再度上方修正し、売上高9兆9000億円・営業利益1兆400億円とした。
出典:ソニー2021年度第2四半期決算資料より
好調な中で再三、課題として挙げられたのが、全世界的な問題になっている「半導体不足」だ。
この課題に対処するために「検討中」として明かされたのが、台湾の半導体大手・TSMCと合弁での国内工場建設である。
先日より、「熊本に政府支援のもと新工場を建設する」との憶測が出ていたが、「検討中」という含みを持たせつつも、それを初めて公式に認めた形だ。
ソニーグループにとっての半導体戦略という観点で、TSMCとの合弁を含め、解説していく。
台湾TSMC日本工場への参加を検討、理由は「半導体の安定供給」
ソニーグループの業績の数字は堅調で、大きなサプライズはなかった。
ただ、発表したソニーグループ副社長兼CFOの十時裕樹氏は、さまざまな事業領域において「リスク」として、半導体不足の影響を挙げた。
ソニーグループ副社長兼CFOの十時裕樹氏。
出典:ソニー
特に大きいのが家電(エレクトロニクス・プロダクツ&ソリューション分野)とゲーム、そしてカメラのセンサーなどを担当するイメージング&センシング・ソリューションの3分野だ。
セグメント別の売上高を見ると、業績を引っ張ったのはゲームとエレクトロニクス。特に利益貢献ではエレクトロニクスが大きい。それでも、半導体不足の関係から、テレビ・オーディオなどの販売量は、実は減少している。
セグメント別業績。ゲームは売上高を大幅に伸ばしたが、人気ゲーム機PS5立ち上げにかかるコストで減益。エレクトロニクスは売上高・営業利益ともに伸長した。
出典:ソニー2021年度第2四半期決算資料より
エレクトロニクス・プロダクツ&ソリューション分野の詳細。単一セグメントでは増収増益ではあるものの、「半導体リスク」での生産量減少はマイナス要因である。
出典:ソニー2021年度第2四半期決算資料より
ソニーは半導体としてイメージセンサーを中心に自社で製造している。それ以外の半導体、特に演算処理を担う「ロジック半導体」は他社から調達している。
エレクトロニクスやゲームでは、ハイエンドからローエンドまで多数のロジック半導体が使われており、それぞれに調達リスクがある。設計変更や調達先の多様化などで対応はしているが、それでも限界はある。
イメージセンサーについても、ロジック半導体の問題はつきまとう。
ソニーはイメージセンサーの裏にロジック半導体を貼り付け、AIや画像処理を行う「インテリジェント型」を差別化要因としており、ロジック半導体の調達は不可欠だ。
そこで出てくるのが、TSMCとの合弁事業だ。
十時CFOは、TSMCとの合弁検討の必要性を次のように説明する。
「当社のイメージセンサー製造工程では、ロジックウェハー(半導体)生産のほとんどを外部委託している。安定調達のため、TSMCの日本工場を新たなロジックウェハーの調達先にする予定。
長期にわたる世界的な半導体不足が懸念される中、ロジックウェハーの安定調達は重要な事業課題であり、TSMCの日本工場はその解決策になり得る」
国から支援+ソニーの日本工場のノウハウが前提
それでは、TSMCの日本工場はどういうものになるのか?
具体的なソニーからの出資額や関わり方については、「包括的な検討・協議をしている段階」(十時CFO)として、明かされなかった。
だが、
「TSMC社および経済産業省とは引き続き協議する」
「当社の持つ日本での半導体工場運営のノウハウを生かし、工場立ち上げに協力していく」
とも語っており、今後の流れはある程度予測できる。
2021年6月、ソニーの半導体部門であるソニーセミコンダクタソリューションズの清水照士社長はグループインタビューに応える形で、「あくまで一般論」としつつ、次のように語った。
「40nm・28nmといった(細かさの、普及型半導体の)プロセスは、すでに減価償却が終わったラインでもある。これから工場を作った場合、そこから償却が始まるので、海外勢に対してコスト的に競争力がなくなる。
もし、そこに金銭的サポートが国から得られるスキームであれば、安定供給にも、国際競争力としても意味がある」(ソニーセミコンダクタソリューションズ清水社長)
最先端ではないが多くの需要があるロジック半導体については、これまで、TSMCなどが「過去に投資済みの工場ラインを転用する」形で製造していた。
そのため、すでに生産設備費用は償却が進んでおり、半導体の生産コスト面で競争力が強かったのだ。
日本でこれから安定調達のための工場を作るとなると、その費用を国がサポートする仕組みがあって初めて、安定供給と長期的な国際競争力を維持できる……という論理だ。
この話を踏まえると、実現するとすれば「国からの金銭的支援」を得た上で「熊本などのソニーがすでに運営している半導体工場の近くに、そのノウハウを活かして」設立される可能性が高いのではないか。
いまだ残る「中国リスク」、米中摩擦の爪痕
イメージセンサーには別の側面もある。
ソニーにとっての主軸は、圧倒的な数量を販売する「スマートフォン向けイメージセンサー」事業だ。だが、ここでは米中摩擦を背景に、ファーウェイなどの中国メーカーの減速がリスク要因になっている。
イメージセンサー事業では産業用増加などの好条件はあるものの、軟調な中国企業向けのリスクが続く。
出典:ソニー2021年度第2四半期決算資料より
「販売先の多様化を進めている」と十時CFOは説明するものの、第2四半期では売上高が前年同期比9%減の2783億円、営業利益は同2%減の497億円と減収減益となっている。ここでは前述のロジック半導体調達リスクもあり、「来年に向けて状況を継続的に注視していく」(十時CFO)とする。
一方で、「カメラ向けの需要が伸びてきた」(十時CFO)とも話す。いわゆるデジカメ向けだけでなく、産業用の監視カメラや工場用カメラなどの領域に向けたものだ。この領域は付加価値が高く安定的なビジネスだ。ソニーとしても産業用領域をさらに「アドオンする形で伸ばしていきたい」(十時CFO)とする。
ただし、数量的にはスマートフォン向けが圧倒的であることは事実で、リスクとして注視が必要であることに変わりはない。
PS5の品不足は当面継続、移行は長期戦へ
世界的に品不足ながらヒット商品となっているPlayStation 5。
撮影:西田宗千佳
もう一つの半導体リスクが「PlayStation 5」(PS5)だ。
PS5は発売開始から1年が経過したものの、いまだ品不足が続いている。生産量が少ないわけではなく、2021年度の目標も、PS4世代の2年目と同水準である1480万台から変更はない。
十時CFOは現状を次のように語る。
「世界的な物流の混乱や半導体を中心としたデバイス供給の影響は確実に大きくなっている。ハードウエア(PS5)の販売は少なからずその影響を受け、7~9月期は想定より若干少ない数量となった」
つまり、品不足解消の目処が立っているわけではなく、当面は今と同じような状況が続きそうだ。
このことがPlayStationビジネス全体に影響を与えていないのか……との問いに対して、十時CFOは「そうではない」と話す。
PS4を含めたソニーのゲームビジネスのユニークユーザーは「ざっくり1億人いる」(十時CFO)という。このうちPS5は現状2割程度であり、「PS5自体が直接的に影響を与えるとは考えていない」と、十時CFOは見る。
ゲームのプレイ時間は前年同期比で17%減っていると言うが、ゲームの追加コンテンツの売上は前年を超える形で推移しており、「良いモメンタムが維持できている、と前向きに捉えている」(十時CFO)という。
ゲーム関連事業。PS5で売上は上がるが、立ち上げコストにより利益は下がった。一方で、アドオンコンテンツなどの売上は伸びている。
出典:ソニー2021年度第2四半期決算資料より
2020年、PlayStationのプラットフォーム企画のトップである、ソニー・インタラクティブエンタテインメント シニア・バイス・プレジデントの西野秀明氏にインタビューした際、彼は「現在の想定では、PS4からPS5への移行には3年くらいかかる」と話していた。
その予想は多少は変わっているかもしれないが、今回の十時CFOの発言も踏まえると、ソニーとしては、「PS5への移行は長期戦である」と考えていることだけは間違いなさそうだ。
(文・西田宗千佳)