2019年4月13日、エジプトのカイロ南部にあるサッカラ遺跡で、古代エジプトの貴族クウイの墓を発見したエジプト調査団団長モハメド・ムジャヒド(Mohamed Mujahid)(左)が墓の内部の壁を調査している。
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- 高度な技術で防腐処理が施されたエジプトのミイラは、当初考えられていたよりもはるかに古いものかもしれないという。
- この発見は、高度なミイラ作りの技術がこれまで考えられていたよりも1000年早く使われていたことを示している。
- 専門家によると、この発見は「ミイラ作りの進化についての我々の理解を覆す可能性がある」という。
古代エジプトのミイラの新しい分析結果で、これまで考えられていたより1000年も早く、高度なミイラ化技術が使われていたことがわかり、これまで考えられていた古代エジプトの葬儀の歴史が塗り替えられそうだという。
今回の発見の中心は、高位の貴族だったと考えられている「クウイ(Khuwy)」と呼ばれるミイラだ。クウイはカイロ近郊にあるエジプトのファラオや王族の広大な古代埋葬地で2019年に発掘された。
現在、科学者たちは、クウイが生きていた時代がこれまで考えられていたよりもはるかに古く、エジプトの古王国時代にさかのぼると考えており、そうなるとこれまで発見された最も古いエジプトのミイラのひとつだとイギリスのガーディアン・メディア・グループの日曜新聞、オブザーバー(The Observer)は報じている。
エジプトの古王国時代は、紀元前2700年から2200年の間で、「ピラミッド建設者の時代(Age of the Pyramid Builders)」と呼ばれている。
クウイの体はそれよりもずっと後に開発されたと思われていた高度な技術を用いて防腐処理されている。彼の皮膚は木の樹液から作られた高価な樹脂を使って保存され、体に樹脂を染み込ませ、上質な麻の衣装で覆われていた。
今回の分析は、4000年前の古代エジプト人が高度な埋葬を行っていたことを示している。
カイロにあるアメリカン大学(American University)のエジプト学部長であるサリマ・イクラム(Salima Ikram)教授は、「我々のミイラ作りの進化についての理解を完全に覆すだろう」とオブザーバーに語っている。
「もし、これが本当に古王国時代のミイラであれば、ミイラ作りや古王国時代の歴史に関するすべての書物を改訂する必要がある」
サッカラ遺跡の発掘現場。2021年1月17日撮影。
REUTERS/Hanaa Habib
「これまで我々は、古王国時代のミイラ作りは比較的単純な、必ずしも成功するとは限らないもので、基本的には乾燥させ、脳は取り除かず、まれに内臓の除去を行っていると考えていた」とイクラム教授はオブザーバーに語っている。
イクラム教授は古王国時代のミイラにはあまり見られない、保存のための樹脂の量に驚いたという。
また彼女は、一般的にはミイラは、内部よりも見た目に注意が払われて作られることが多いと付け加えた。「このミイラは、樹脂や織物であふれていて、ミイラの印象がまったく違います。むしろこの1000年後に発見されたミイラに近いのではないだろうか」と彼女は語っている。
使用された樹脂は中近東、特にレバノンから輸入されたものである可能性が高く、当時の近隣の帝国との交易がこれまで考えられていたよりも広範囲に及んでいたことを示しているとイクラム教授はザ・ナショナル(The National)に話している。
この発見は、ナショナル・ジオグラフィック(National Geographic)のテレビ番組「失われたエジプトの財宝(Lost Treasures of Egypt)」シリーズでも取り上げられている。この番組をウインドフォール・フィルムズ(Windfall Films)で制作したトム・クック(Tom Cook)がオブザーバーに語ったところによると、イクラム教授は、当初、高度なミイラ化技術が使われていたため、クウイが古王国時代にさかのぼる人物だと信じられなかったという。
「墓の中の器が古王国時代のものであることは分かっていたが、保存状態が良すぎたため、(イクラム教授は)ミイラもそうだとは思っていなかった」とクックは同紙に語っている。
「しかし、調査の過程で彼女は(古王国時代のミイラだという考えに)賛同し始めた」
エジプトのサッカラで新たな考古学的発見があった。第5王朝の高官、クウイの墓には特別な絵が描かれていた。
スミソニアン学術協会(The Smithsonian)によると、クウイの華麗な墓には、紀元前25世紀初頭から24世紀半ばにかけての第5王朝時代に埋葬されたことを示す象形文字が刻まれていたという。
また、ミイラ作りの過程で体の一部を保存するために使われた土器や壺なども発見された。
イクラム教授のチームは、遺骨がクウイのものであることを確認するために、さらに調査を実施する予定だ。
彼女は、数世紀後に別の人物をミイラにして、墓を再利用して埋葬された可能性もあるとザ・ナショナルに語っている。
「炭素年代測定が終わるまで、まだ確信できない」とイクラム教授は語り、それには6カ月から8カ月かかると付け加えている。
(翻訳:大場真由子、編集:Toshihiko Inoue)