中間管理職はフィードバック疲れに苛まれている。
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ある中間管理職の悲痛な叫び
私が勤務する会社は、オープンドアポリシー(訳注:社長室や役員室のドアをいつでも開けておくことで、従業員が話しかけやすい雰囲気をつくるポリシー)とフィードバックを重視しています。
私はそこで中間管理職を務めており、定期的にフィードバックをすることを部下から期待されています。フィードバック自体はいいことだと思います。従業員みんなの成長に役立ちますから。しかし私の会社では、少しやりすぎなのです。
常にフィードバックをしなければいけないのでとても疲れます。部下は3人で、全員が勤勉で有能でキャリア志向です。
彼らは与えられたタスクを完了するとすぐに、Slackで私に知らせてきます。「仕事の出来栄えはどうでしたか」「もっとよくするにはどうすればよかったのでしょうか」と。
適当なフィードバックは返したくはありませんから、時間をかけてよく考えて返事をします。これを来る日も来る日も3人の部下に対して行うのは相当疲れますし、自分の仕事の「やることリスト」もどんどん長くなっていきます。
おまけに、上司も私にフィードバックを求めてきます。私との1on1面談でこんなふうに聞いてくるんです。「もっとうまくやるために私たちができることはないかな?どうすればもっと君をサポートできるだろう。改善策は?」と。
私も、いろいろなことによく気がつく有能な人材だと思われたいので、なんだかんだでいろいろと答えてしまうのですが、同じことを何度も聞かれると消耗します。
私が言っていることは理不尽でしょうか、それとも理不尽なのは同僚のほうなのでしょうか? 自分の仕事ぶりがどう評価されているかを知る権利は誰にでもあります。しかしこれはちょっと度を越しているのではと思います。このフィードバック疲れに、私はどう対処すればよいでしょうか?
闇雲にフィードバックしてもダメ
この相談者の会社は、ただたくさんフィードバックをすれば従業員は成長するだろうという考えで運営されているようだ。改善のために必要な情報を従業員に渡せば自ずと改善されていくだろう、という考えが根底にある。
しかし、そのロジックには穴がある。情報があるからといって、人はそれに基づいて行動するとは限らないのだ(気候変動危機の経過を見ればいい)。
公平を期すと、こうした考えはなにもあなたの会社に限った話ではない。年に一度、上司と部下が向かい合って座り、どちらかが一方通行の話をするだけの業績評価の時代は終わった。テンプル大学(Temple University)フォックススクール・オブ・ビジネス(Fox School of Business)のマイケル・リベラ(Michael Rivera)准教授の研究によると、現在は継続的かつリアルタイムに360度評価を促すような企業文化づくりが、企業の間で主流になっているという。
「従業員はフィードバックやコーチング、指導を求めています。しかし多くの人が、それらを得られていないと感じています」と同准教授は話す。
なぜか。定期的に有益なフィードバックをする(そして受け取る)のは、恐ろしく難しいことだからだ。それには時間も配慮も訓練も要する。さらに、組織が相互信頼と「心理的安全性」(訳注:チームの他のメンバーが自分の発言を拒絶したり、罰したりしないと確信できる状態)を醸成するための方針と実施方法も確立しなければならない。
最近このテーマに関する研究を発表した、職業心理学が専門のトーマス・リース・エバンス(Thomas Rhys Evans)グリニッジ大学教授は、次のように語る。
「さまざまな企業文化と適切に組み合わせない限り、互いに支え合うフィードバック文化を築くことはできません。組織がどのように機能し、フィードバックがどのくらいの頻度で行われて、どのような枠組みで構成され、どのように伝達されるか。これらすべての調和がとれていなければいけません」
フィードバック疲れに悩む管理職へのアドバイス
冒頭の相談者の悩みを聞く限り、会社が宣言していることと、実際の現場とがかみ合っていない。相談者はいま難しい立場に置かれているが、その重荷を少しでも軽くするために、できる工夫がいくつかある。
まず、ある程度の境界線を引く必要がある。チームメンバーに、これまでのようにすぐにフィードバックすることはできないこと、特にデジタルツールではできないことを伝えよう。非常に面倒だし(こっちも忙しいのだ!)、Slackでは細かいニュアンスや感情は伝えられない。
その代わりに、適切で合理的なペースで調整し(例えば、週1回の1on1)、個別にフィードバックを返す。対面で行うのが理想だが、電話かZoomでもかまわない。チームメンバーが知りたいのはあなたに何を期待できるか、ということだからだ。
チームメンバーが絶えずフィードバックを求めてくる理由はいくつか考えられる。あなたがいつも素晴らしいフィードバックをくれるから。承認欲求が強いから。自分がどう評価されているのか不安で、自分の働きに問題がないかを再確認したいから。面倒見のいい上司だと思われているから……などなど。
1on1では、チームメンバーに自信をつけさせるようなコメントを必ず付け加えること。あなたの能力を信じていると上司の口から聞ければ、変な想像をめぐらせて自信をなくすことも、あなたから常にお墨付きをもらおうとすることもなくなるかもしれない。
上司への対応についてもアドバイスは同じ。境界線を引き直し、それに従って彼らの期待値も設定し直してもらうようにするのだ。上司からフィードバックを求められたら、言い方には注意しつつ、「そのリクエストに応えるには時間と労力を要するので、もっとマシな時間の使い方があるのでは」ということを伝えよう。
上司からのたび重なるリクエストに、そのつど心を砕いて対応していたらキリがない。自分からのアドバイスや見解を述べる代わりに、彼らにこう質問してみてはどうだろうか。
「この時間をもっと効果的なフィードバックの場にするために、組織として何ができるでしょうか?」
「チームリーダーがフィードバックを行動に移すにはどうすればよいでしょうか?」
最後に、あなたの会社が、より建設的なフィードバックを行う方法が学べる管理職養成プログラムに投資する意思があるかどうかを調べよう。実際、こうしたプログラムを導入することで「どうすれば君をサポートできるかな?」という上司の疑問が解決するかもしれない。
フィードバックをすることも受けることも、訓練が必要な技術(スキル)。うまくできるようになれば、時間も節約でき、重荷からも解放されるに違いない。
※この記事は2021年11月9日初出です。