ESGファンドへの投資が気候変動の緩和に役立つという実証的な証拠はない。
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流行りものに投資が集まるのは目新しいことではない。例えば、1990年代の株式市場は、あらゆるインターネット関連株に投資家が集まって投機が過熱する「ドットコムバブル」 に巻き込まれた。結局ブームは去ってバブルははじけ、投資家たちはおよそ5兆ドルの損失を被った。
最近の流行は、ESG(環境・社会・ガバナンス)ファンドへの投資だ。ESGファンドの目的は 「社会的責任を果たしている」 企業に投資することで、特に気候変動の緩和を目的とした社会変革を推進しながら、同時に市場収益を得ることだ。
しかし気候変動に関して言えば、この投資ブームの問題点は、この考えを根本から裏付ける実証的な証拠がないことだ。実際、二酸化炭素の排出量が比較的少ない企業の銘柄をポートフォリオの中でオーバーウエイト(訳注:投資対象への配分比率を高くすること)とする投資戦略が、気候変動の緩和に影響がないことは明らかなようだ。ESG ファンドへの投資が急増しているのに、世界は温室効果ガスを排出し続けているのだから。
ESG投資で気候変動は緩和されない
ESGのデータを理解している人々は、商品の人気と、気候変動に関する目標達成との間に関連性がないことを認めている。ロンドン・ビジネススクール(The London Business School)の著名な金融学教授アレックス・エドマンズ (Alex Edmans)は、LinkedInへの最近の投稿で、「ESG投資で気候変動は緩和されない」という筆者のコメントに同意した。
また、英投資管理会社、ロイヤル・ロンドン・アセット・マネジメント(Royal London Asset Management)で社会的責任投資(SRI)の責任者を務めるアシュリー・ハミルトン・クラクストン(Ashley Hamilton Claxton) は、こんな書き込みをしている。
「ESGデータはデータではなく、意見だ。私たちは流通市場(二次市場)における直接的な影響について言及することはできないし、すべきでもない。投資家たちは世界経済を動かす歯車の一つにすぎない。株式や債券を売買して世界を変えたり、気候変動を解決したりすることはできない」
ビル・ゲイツ、ボストン大学(Boston College)のアリシア・マンネル(Alicia Munnell)教授、米ブラックロック(BlackRock)の元サステナブル投資部門責任者タリク・ファンシー(Tariq Fancy)らも同様の認識を持っている。
ESG投資が気候変動に影響を及ぼすとする考え方の背景には、化石燃料を多く排出する企業から資金を移動させることで、 「クリーンな」企業が借り入れや株式発行で資金を安く調達でき、 「クリーンでない」企業の資金調達コストを高くすることができるという主張が存在する。
これは理論的にはよいことのように聞こえるが、実際にはそうではない。なぜなら、ESGファンドが主に影響を与えているのは流通市場であり、そこでは証券は取引されるが、新たな資金は調達されないからである。
ファンシーが説明しているように、ESGファンドへ投資しても、気候変動の緩和に取り組む企業に新たな資金を提供することにはならない。「代わりにそのお金は公開市場で株の売り手へ渡ります」と彼は言う。基本的にESG商品は、企業の株を資産運用会社から購入していて、その事業を行っている企業から買っているわけではないため、これらの企業に直接資金が提供されることにならない。
さらに、二酸化炭素排出量の多い企業の株に投資しようとする投資家はまだたくさんいるため、そうした企業も低いレートで新たな資金を調達することができる。
例えば、米エクソンモービル(ExxonMobil)は低炭素エネルギー生産への移行を拒否し、気候変動緩和のための法案に反対し、ロビー活動を展開して批判を受けた。しかし、もし30年満期の20億ドルの債券を発行すれば、年に約3%の金利を支払うだけで資金調達が可能になるだろう。
ESGブームとは結局、何なのか
ESGファンドで気候変動が緩和されないのであれば、これらのファンドを投資家に売り込む動機は何だろうか。シンプルに言えば、大規模な投資顧問会社、格付会社、インデックス・プロバイダー、コンサルタントなどを含む投資業界は、投資家がESGファンドの株を購入すると、多くの収益を上げるということだ。この収益は、運用報酬がほぼゼロになることもある定番のインデックス・ファンドと比べるとはるかに多い。
もちろん、投資家には、最近の投資ブームを含め自分が好きな投資先に投資する権利がある。しかしその際には、ESG投資が気候変動の緩和につながるわけではないことを理解することが重要だ。投資家がお金を払って得ているものは、ESG以外の同等のファンドに比べて運用手数料が高く、分散投資ができないために非システマティックリスク(訳注:資産の数を増やすことにより軽減されるリスク)が高くなる可能性のある投資ファンドなのだ。
さらに、米証券取引委員会(SEC)は広範囲に及ぶ気候変動情報の開示を義務付ける規則の策定を進めており、これによってESG評価の提供とESGファンドの創設が容易になる。この規則策定の実現のため、筆者が最近SECに宛てた意見書簡で指摘したように、適用される法律上の権限がSECにあるかどうかを判断しなければならない。さらに、SECが規則策定のための裁量的な権限を行使する必要があるかどうかも決定しなければならない。
この裁量権行使の是非を決定するにあたり、少なくとも一部のSEC委員は、気候変動情報の開示義務を課すことが、気候変動の緩和に何らかの形で貢献するとの仮定に影響を受けるのではないかと考えられる。こうした仮定が考慮されることで、委員らは自分たちの法的権限行使の限界を試してみようと思うかもしれない。
しかし、各委員にはその前に、投資業界から出てくる派手な売り込みだけでなく、実証的な証拠を批判的に検討してもらいたい。ESGファンドへの投資が、気候変動の緩和に大きなメリットをもたらすことを示す実証的証拠が得られるなら、法律の許す範囲で、SECが新しい開示規則の策定に関して大胆なアプローチを取ってもかまわないだろう。
しかし、そのような実証的証拠が実際に存在するかは疑わしいため、SECは気候変動情報の開示に関して新しい規則を制定する際には、限定的なやり方で行う必要がある。つまり、投資家たちがESG投資に飛びつき、規制当局がそのような投資を支持するような新しい規則を承認する前に、すべての関係者に「ESG投資で気候変動は緩和されない」ことを再認識してもらいたいと筆者は考えている。
[原文:Wall Street's new 'sustainable' investing fad is a scam]
(翻訳:渡邉ユカリ、編集:大門小百合)