国連の気候変動対策会議「COP26」のプリンシプルパートナーになったことを伝えるマイクロソフトの公式ブログ。
大手IT企業のクラウドインフラは規模を拡大しており、その消費電力の大きさが他の産業での消費と同様、カーボンニュートラル※を実現する上での課題となっている。
当然ながら、大手IT企業も自社のみならず、自社インフラを利用する顧客に向けた対策として、クラウドインフラ自体のCO2排出量削減にも取り組んでいる。マイクロソフトは、10月31日から開催している国連の気候変動対策会議「COP26」に向けて、同社の脱炭素に向けた取り組みを発表した。
その内容を見る限り、マイクロソフトの脱炭素の取り組みは、お題目ではなくかなり「本気」だ。
マイクロソフトは「2030年までに自社が消費する電力の100%を再生可能エネルギーに切り替える」と発表しており、2050年までには「創業以来電力消費によって排出したすべての炭素を 2050 年までに環境から取り除く」とも言う。カーボンニュートラルを超える「カーボンネガティブ」だ。
マイクロソフトの本気度が伝わる2つの取り組みを、脱炭素にかかわる担当者のインタビューを交えて深掘りする。
カーボンニュートラルとは:二酸化炭素の「排出量」※から、植林、森林管理などによる「吸収量」 を差し引いて、合計を実質的にゼロにすること
全世界で3年以内にサーバーに使う水を95%削減する
マイクロソフトが顧客企業の脱炭素を支援するためのシナリオをグラフィックで示したもの。
出典:マイクロソフト
マイクロソフトが打ち出した施策の中でも、注目すべき点は2つある。
一つは、同社のクラウドインフラの二酸化炭素排出量削減だ。
マイクロソフトは、世界経済フォーラムの調べを引用する形で、「クラウドインフラはアメリカ全体が消費する総電力量の1.8%を使っている」と説明する。まずはその一角である、マイクロソフトのサーバー群の低消費電力化・二酸化炭素排出量削減を進める必要がある。
同社がフォーカスしたのは「水の徹底した削減」だ。
二酸化炭素と水の使用は、一見、直接関わりがないように見える。しかし、サーバーの温度管理に使われる「水を調達するためのエネルギー」と、「水を冷やすために消費するエネルギー」は決して小さなものではない。
そもそも、貴重な水資源を冷却用途として大量にサーバーに使うことは、そもそも、各地域での持続的な環境を整備する上でも環境負荷がある。
そこでマイクロソフトは、2024年(つまり、わずか3年後)までに、全データセンターで使われる水の使用量を95%削減することを発表した。これは総量にして年間約57億トンに及ぶ。
では、水を使わずどうやって冷やすのか? 答えは「水以外の液体でサーバーを冷却する」のだ。
サーバーそのものを50度で沸騰する特殊な液体に沈めて冷却する「液浸」技術。これをサーバーの冷却水消費を9割削減する奥の手として使う。
ここでは、IT業界で「液浸」と呼ばれる技術を使う。
正確には「二相式液浸冷却」と呼ばれ、50度で沸騰する特殊な液体を使う。発熱したサーバーに触れることで蒸発、その際の帰化熱で冷却する。蒸発した気体は再び液体に戻り、サーバーの冷却に使われる。液浸によってサーバーは空冷・水冷のときよりも20%動作を早め(オーバークロック)て使えるようになり、処理効率はさらに上がる。
マイクロソフトでAdvanced Development for Microsoft’s Cloud Operations and Innovation groupの特別エンジニア兼バイスプレジデントを務めるクリスチャン・ベラディ(Christian Belady)氏は、 「液浸は、ハードウェアの信頼性と寿命を向上させ、長期的なハードウェアの交換率も下げる」ともいう。
理由は、ファンや空冷式ヒートシンクなど、より多くの電力を必要とするデータセンター内の冷却機器が不要になり、可動部分が減るからだ。
「弊社はサーバーの平均寿命に合わせて、4~5年ごとにハードウェアの更新を計画しています。液冷方式(液浸)では、タンク内の温度が50℃を超えないようにするなど、特定の要件を満たすように設計された、新世代のサーバーハードウェアが必要になります。が、液浸は、水の削減と補給の目標をサポートするだけでなく、2030年までのカーボンマイナスと廃棄物ゼロの公約の実現にも役立つでしょう」(ベラディ氏)
また、サーバー設備の建築で問題となる「エンボディド・カーボン(内包二酸化炭素)」。「建築時」に排出される二酸化炭素のことだが、コンクリートや鋼材の選択の段階からツールを活用してエンボディド・カーボンを削減する(マイクロソフトは毎年50から100のデータセンターを世界中で建築している)。
クラウド導入企業にも「CO2の削減効果」を見える化する
注目すべきもう一つの施策は「Microsoft Cloud for Sustainability」というサービスの提供だ。
10月27日から、限られた顧客に対してプレビュー提供が始まっている。
「Microsoft Cloud for Sustainability」。二酸化炭素削減効果を、導入企業自身がチェックするためのツールだ。
Microsoft Cloud for Sustainabilityは、簡単に言えばクラウドサービスを使った際の二酸化炭素排出量の削減状況を、導入企業自身がチェックしながら削減計画を進めるためのサービスだ。
クラウドインフラを使うと機器の利用効率が上がり、企業内にサーバーを抱えているよりも二酸化炭素排出量が下がる、とされる。また、再生可能エネルギーを調達すれば、計算上二酸化炭素排出量は下がる。
しかし、それらをトータルで導入し、エネルギーの調達量や調達先、使い方が変わるとどのような影響が出るのか、ということは見通しづらい。 マイクロソフトは、会計基準まで含めた動的な計算モデルを使用して、導入企業側が、自社の二酸化炭素排出量削減計画の進捗や効率を評価する指針として使えるよう、ツールを提供していく。
「あらゆる人々が、企業の炭素削減の試みと成果について、より多くのコミットメント・説明責任を求めています。そのために、企業側は、正確で一貫性のある信頼性の高い方法で、炭素排出量をグローバルに測定する共通基盤を必要としています」(マイクロソフト グローバル・インダスリー・プロダクトのマーケティング担当ゼネラル・マネージャー Kees Hertogh氏)
クラウドはいまや世界のインフラの1つで、導入先(顧客)は「脱炭素に取り組む企業」であるケースもある。導入先にとっては、脱炭素の「効果」を測定し、持続的に回す必要性が出てきている。その管理システムにはビジネス価値があるのも必然ではある。
企業・地域との連携がなければ「全体での削減」は難しい
MSが公開した「ネット全体での消費削減」に関するビデオ
ただ前提として、電力を使うシステムである以上、「再生可能エネルギーを十分な量、安価に調達できる」ことが前提となる。
マイクロソフト・Director of Energy Innovation and ImpactのVanessa Miler氏も、「再生可能エネルギーについては、各地域にそれぞれ、調達に関する課題がある」と話す。
「マイクロソフトも日本をはじめとするアジア太平洋地域では、事業やサプライチェーンの脱炭素化のために再生可能エネルギーを調達する方法を模索していますが、地域の課題や機会に適応する必要があります。 また、企業による再生可能エネルギーの調達において、規制面での障壁などにより、再生可能エネルギー技術のコスト低下による恩恵をすぐに受けられないこともあります」(Miler氏)
再生可能エネルギーは、地域によって調達のしやすさが大きく異なる。なかでも、日本は再エネ調達においては、比較的厳しい地域だ。
実際、脱炭素を目指す国内企業が集まって組織された業界団体「日本気候リーダーズ・パートナーシップ(JCLP)」は、2020年12月に公表した年次レポートの中で、再エネ調達が難しいマーケットとして、日本を含むアジアを挙げている。
Miler氏も同様に「中国本土、日本、韓国などは再生可能エネルギーの調達価格が割高であることが課題」と話す。その中では、各社が与えられた手持ちのカードで上手く対処していくしかない部分がある。
結果的には、いかにその地域にあった調達手段を拡大していくのか、という、より大きな枠組みでの課題が残っている。
(文・西田宗千佳)