東京都千代田区の丸ビル地下にある食品売り場に、少し異質な黒い販売スペースが誕生した。
撮影:小林優多郎
ヘルシーでボリュームたっぷりの高級サラダ店が、東京のど真ん中に、ちょっと変わった無人販売店舗をオープンさせた。
首都圏を中心に約20店舗のサラダ専門店「CRISP SALAD WORKS」を展開するCRISP(クリスプ)社は、11月1日から東京・丸の内で無人販売所「CRISP STATION」を開始した。
CRISP社は、店舗で使うモバイルオーダーのシステムを自社開発するなど、飲食店でありながらIT活用ではユニークな存在だ。丸の内の無人販売店舗では、支払い方法にひと工夫して「レジ会計不要で持って行く」という実験的な仕組みにしているという。
さっそく、無人販売店舗を体験してきた。
1. CRISP STAION(冷蔵庫)にある8種類のサラダの中から食べたいものを選ぶ。
好きなサラダを選んで冷蔵庫から出す。鍵などはかかっていない。サラダはどれも1180円(税込)。
撮影:小林優多郎
2. 店舗にある紙袋に商品やフォークなどを入れて持ち帰る。レジ会計は不要だ。
紙袋などは向かって右側にぶら下げられている。
撮影:小林優多郎
3. ランチなど食べたい場所で食べる。
職場でも外でも、好きな場所でサラダを食べる。
撮影:小林優多郎
4. 商品に貼ってあるQRコードをスマホで読み取り、クレジットカードやApple Pay/Google Payで支払う。
支払いは、ふたを留める紙に書かれたQRコードからする。
撮影:小林優多郎
つまり、CRISPのいう世界最速とは、決済を「食後」にすることで、商品をとってから食べるまでの時間を最短にする点にある。
食事、テイクアウトの体験の「改善できる余地」
CRISPの創業者で社長の宮野浩史氏。
撮影:小林優多郎
鍵のない、誰でも持っていける冷蔵庫で「レジ会計不要」店舗をつくるというのは、人によっては常識はずれとみるかもしれない。性善説を前提とした設計だからだ。
CRISPの創業社長の宮野浩史氏は、無人販売店舗は、CRISP SALAD WORKSが以前から進めてきたモバイルオーダー(スマホで事前に注文・決済する買い方)の取り組みの延長線上にあると話す。
「食事の体験、特にテイクアウトの体験はまだまだ改善の余地がある。店に行ってから注文して食べる一般的な流れだと、30分〜1時間くらいの時間が食べる時間に使われている。
これをどうにかできないかと、解決する方法の1つが4年前くらいからやっているモバイルオーダーの手段だ。
現在だと売上の40%ぐらいがモバイルオーダー経由の注文。(CRISP STAIONのある)丸の内には通常のお店もあるが、そこだと約6割がモバイルオーダー経由になる」
CRISP STATIONで売られているサラダのパッケージ。トッピングやドレッシングは容器の中に入っている。また、留め具となっている紙を破らないと開けられない仕組み。衛生管理、いたずら防止の観点では重要な工夫だ。
撮影:小林優多郎
CRISPのサラダはしっかりしたボリュームが特徴だが、何より人気を博しているのが、「カスタムサラダ」(1092円税込)だ。18種類の野菜や果物などをトッピングしてオリジナルのサラダが作れるというものだ。
しかし、そういったカスタマイズ性はCRISP STATIONにはない。ユーザーは8種類の作り置きのサラダから選ぶことになる。
CRISP STATIONでは、カスタマイズ性はない半面、「ストレスフリー」の体験を提供できると、宮野氏は話す。
「僕らはまだ(モバイルオーダーが)利用されている方だが、一般的には使われていない。
大きな原因として、お客さんはこういう(出店した丸ビル地下1階のような)いろいろな食べ物があるフロアーでは、ギリギリまで何を食べるか決めていない。
なので、なるべくギリギリまでお客さんは何を食べるか判断しなくてよく、決めた後の体験というのをいいものにしたい」
盗難対策の前に“体験の課題”を解決したい
CRISP STATIONの説明は、店の右手側にあるタブレットの画面だけ。
撮影:小林優多郎
とはいえ、ここで当然の疑問が残る。商品を食べ終わっても、お金を払わない人がいるのではないか、という点だ。
筆者も実際にサラダを選んで、近くの広場で食べる……という体験をしてみた。会計せずに先に食べるという慣れない体験は、正直言って少々ドキドキする(今回、筆者は試食だったが、本来は食後に支払うことになる)。悪意なく払い忘れる場合だってあるかもしれない。
料金が支払われない可能性も織り込み済みなのだろうか。宮野氏は、「盗難のリスクは織り込み済みな部分はある程度はある」とするが、そもそも支払いの問題は現時点の最優先課題ではないと話す。
「僕らのサラダが好きだと言ってくれている人が対象となっている前提という元で、そんなにそれ(盗難リスク)に関して、現時点では、1番の課題だとは思っていない。
まずは、お客さんの体験が本当に良くなるのかが1番最初にあるべき(課題間)。体験がよくなったのであれば、その後の過程として(盗難を)防いでいくという考えだ」
CRISP STATIONのまわりにはさまざまなテイクアウトタイプの飲食店が並んでおり、平日の人通りはかなりある(写真はオープン前の土曜日に撮影)。
撮影:小林優多郎
なお、CRISP STAIONは無人販売所だが、防犯カメラの監視のほか、バックヤードにはスタッフの待機スペースがある。
平日のお昼時には、付近のオフィスビルなどから多くの人が押し寄せる立地であるため、カメラや有人対応の他に「周囲の目」も防犯材料にはなりそうだ。
徹底的なデータ活用がフードロス対策にも
天井にあるカメラが常に冷蔵庫とその中身を監視している。
撮影:小林優多郎
店舗に設置されたカメラには、防犯的な意味だけではなく、「どのサラダ」が「いつ売れた」かを記録している。
CRISP広報によると、サラダは毎日朝付近の店舗から最大量である60個が運び入れられ、昼に2回ほど補充していく方針になっている。
カメラでリアルタイムの情報を把握し、販売データを積み重ねていくことで細かな在庫の調整が可能になるという。
また、宮野氏は今後のアップデートで、さらなる効率化をしていくことも今回の取り組みの狙いの1つだと話している。
「2021年内ぐらいには、アプリの支払い機能に(CRISP STAITONを)組み込んでいく。そうすると、QRを読み込み後(CRISP STAITONの)初回利用時でもクレジットカード情報の入力は不要になり、どういうユーザーが買っているのかわかるようになる。
このようなお弁当形式のような場所で、誰が買っているかはほとんどわかっていないはずだ。それが分かればわかるほど、当然在庫管理の無駄もなくなっていく」
CRISP STATIONは、11月1日から「正式オープン」しているが、立ち位置としてはPoC(概念実証)に近い取り組みとも言える。現在の予定では2022年4月末までは丸ビルでの営業を続ける計画だ。
(文、撮影・小林優多郎)