第49回衆院選が終わりました。コロナ禍での選挙戦ということで、候補者たちは地上戦を中心に展開しつつも、SNSを活かした選挙運動が目立ちました。
今回、衆院選でSNSをうまく活用できた政党や候補者はどこだったのでしょうか。
政党と全立候補者1051人を対象に衆院選SNSメディア利用度調査(2021年版)を実施したところ、SNSでの人気は実際の得票には必ずしも結びつかない、という結果が明らかになってきました(調査の概要は記事末に記載しています)。
“地上戦”制した維新、“空中戦”制したれいわ
まず、全体の結果から見てみましょう。
政党ごとに持っているSNSでのチャンネル登録者数やフォロワー数を抽出後、プラットフォームに対して筆者独自に重み付けをし、便宜的に“SNS上の支持率”として計算。その数字を実際に獲得した議席数と比較しました。
SNS支持率とは:衆院選期間中の各政党のSNSフォロワー数や友だち数、チャンネル登録者数などを集計。さらにその獲得フォロワー数(支持者の数)をプラットフォーム別に(Facebook:Twitter:YouTube:インスタグラム:LINE=4:4:1:0.5:0.5)重み付けして、筆者独自に算出した数値。
結果は、自民党・立憲民主党、国民民主党が支持率に対してやや獲得議席数が多く、逆に公明党・共産党・社民党はやや少ない結果に。
SNS支持率と議席数に大きな開きがあったのは、日本維新の会とれいわ新選組です。
維新の会は今回の総選挙で公示前の4倍近い41議席を獲得しましたが、データを見ると、大躍進はSNSの活用が要因ではない可能性が高いと考えられます。
維新の会の勝因としては、SNSに依存しない地上戦をメインした選挙活動、あるいは吉村洋文・大阪府知事の人気を全面に打ち出した選挙戦を展開したため、などのいくつかの理由によるものでしょう。
れいわも健闘して3議席を獲得しましたが、SNSでの支持がリアルの得票率とかけ離れています。断定はできなくとも、分断された領域内だけで熱狂的に盛り上がっている可能性が高いことが今回の調査では明らかになりました。
次に、Twitter、YouTube、インスタグラムのそれぞれのプラットフォームで特徴的だった選挙戦について分析していきます。
Twitterフォロワーは“結果”に結びつきにくい
まず、候補者のフォロワー数と当落結果を見比べてみます。
Twitterフォロワー数10万人以上の16人は全員当選している一方で、17位の自民党新人・森下千里氏(フォロワー数約9万5000人)は落選するという結果となりました。
また、20万人以上フォロワーがいる候補者でも苦戦が目立ちました。立憲では原口一博氏が133票差という僅差でギリギリ小選挙区で当選。小沢一郎氏は小選挙区で敗北し、比例での復活となりました。
SNS上において支持者がいるという事実は、安心材料にはなりつつも、絶対の保証にはならないことが裏付けられました。
Twitter上のフォロワーは全国に散らばっているため、参院選の全国比例だと優位になる可能性がありますが、小選挙区においては票に結びつけることは難しいことがわかります。
では、選挙期間中にSNS上で影響力の高かった候補者は誰だったのでしょうか。 全立候補者のTwitterアカウント所持者における平均被リツイート(RT)数・平均いいね数の高いアカウントを確認してみます。
平均被RTに関しては、自民党では、高市早苗氏、れいわの山本太郎氏、立憲の小沢一郎氏、共産の山添拓氏がトップ3でした。
平均いいね数でもトップの3人は同じでした。
自民党では、今回新人である森下千里氏(RT数7位、いいね数5位)が選挙期間中にもリアクション数を高めていました。
また、自民党では発信力をもつ山田宏氏、佐藤正久氏、和田政宗氏などの参議院議員がツイート。積極的に候補者を援護している様子も伺えました。
立憲民主党に関しては、小沢一郎氏、枝野幸男氏、川内博史氏が積極的にツイートで候補者を応援。共産党でも、志位和夫氏、池内沙織氏、宮本徹氏に加え、田村智子氏、小池晃氏などの参議院議員が援護する姿が目立ちました。
日本維新の会については、吉村洋文(大阪府知事)、松井一郎(大阪市長)の影響力が他議員・候補者、政党公式を圧倒し、影響力を広げていました。
国民民主党に関しては、玉木雄一郎氏が孤軍奮闘で積極的に候補者の応援を支援しています。
やはり影響力で目立つのは党首や政界の重鎮が中心で、彼らが新人たちの援護をすることで注目を集めている様子が伺えました。
2021年の衆院選と2019年の参院選のデータを比較すると、Twitterの影響力が低下していることもわかりました。
前回の参院選では、Twitterを利用している候補者の26%が1日に20ツイート以上していましたが、今回の衆院選では1日に20ツイート以上した候補者は10%程度でした。
また、今回はどの政党も前回の参院選よりもツイート数が減少していました。これは、Twitter効果が限定的だと各政党が判断したことによるものかもしれません。
ツイート増加数とツイート数を各政党ごとに比較すると、れいわ新選組と国民民主党はTwitterをうまく活用しながらフォロワー数を増やしていることもわかりました。
Twitterフォロワー増でも…苦戦した新人・元職
特にこの選挙戦でTwitter上で目立った活躍をした人はいたのでしょうか。フォロワー増加数から読み解いていきます。
前職におけるフォロワー増加数の上位は、自民党の岸田文雄氏、高市早苗氏、国民民主党の玉木雄一郎氏、自民党の長尾敬氏、岸信夫氏と政党幹部や大臣クラスの名前が並びます。
また、元職・新人におけるフォロワー増加数上位は、自民党の森下千里氏、無所属の木原功仁哉氏、れいわの山本太郎氏、共産党の池内沙織氏、立憲の鈴木庸介氏、吉田晴美氏が続いています。
このうち、森下氏、木原氏、池内氏は落選しました。
フォロワーを増加させることによって、メディアへの露出、全国への認知を広げることはできるかもしれません。
一方で前述したように、特に新人にとっては、Twitterを活用するだけでは地域での得票数に繋げることは難しいことがわかります。
YouTubeは安倍晋三氏で注目、拡散には不向き
YouTubeの活用については安倍晋三元首相を除いて、従来からYouTubeを活用、視聴されてきた人が選挙中にもよく見られている傾向になっていました。
選挙期間中におけるYouTube視聴者数上位のアカウントは、以下のようになっています。
今回YouTubeでもっとも注目を集めたのはなんといっても、安倍氏でしょう。
チャンネル開設と同時に公開した「【公式】チャンネル開設にあたって」と題した動画は、視聴回数72万回を記録し、今回の選挙戦でのYouTube視聴回数トップとなりました。
期間中の投稿コンテンツとしては、これまで安倍氏が掲げてきた政策実現や選挙活動のダイジェスト動画が主でした。
しかし、期間中に多く再生されたのは、現場への移動中の一コマが撮影された動画です。
おそらく「総理大臣」という国民から遠い存在だったイメージの政治家が、普段見せない人間味を感じさせる一面をインスタストーリー風に公開することで、視聴者の興味を惹きつけたのでしょう。
安倍氏は、過去にも首相時代に官邸に持ち込まれる日本各地の特産品等を食べる姿がSNSでも人気に。2021年には自身のTwitterでも、マンゴーを食べる際に「ジューシー」という言葉を多用。食レポを期待する声も広がっていました。
こうした普段のSNS人気もYouTubeの視聴回数獲得に一役買っていそうです。
他のYouTube視聴数上位はどうでしょうか。
2位には新党くにもりの本間奈々氏、梓まり氏の選挙応援動画をアップしていた「日本文化チャンネル桜・別館」(投稿された117ビデオのうち61は本間氏、32は梓氏のもの)、3位に「日本第一党」の桜井誠氏、4位に「つばさの党」代表でNHK党の選挙対策本部長も務めた黒川敦彦氏による「チャンネルつばさ」と続きます。
これらのアカウントの特徴は、選挙以前から定期的に動画をアップし、すでにYouTuberとして固定ファンを持っていたアカウントであることです。保守系のアカウントが強いのもYouTubeの特徴でしょうか。
つまり、YouTubeの運用については、選挙期間中から解説などの動画をアップしても、YouTubeを中心に拡散や視聴をしてもらうことは見込めないことが伝わってきます。一方で期間中、動画のアーカイブの置き場所として使用することには適しているようです。
では、政党の公式チャンネルはどうでしょうか。
視聴数とチャンネル登録者数を見てみると、選挙期間前も含めた総視聴数とチャンネル登録者数でトップを独走していたのはともにNHK党(立花孝志氏)でした。
一方で選挙期間中に絞ってみると、視聴数は立憲民主党、公明党、れいわ新選組となりました。選挙期間中にもっともチャンネル登録者を増やしたのは、れいわ新選組でした。
政党のチャンネルに関しても、たとえ視聴数が多かったとしてもそこから登録者を増やすことはなかなか難しいようです。これはYouTubeというメディアの特性によるものでしょう。
小川淳也氏のインスタは「ネット選挙2.0」
最後にインスタグラムをうまく活用した候補者を見てみます。
フォロワー増加数上位は、立憲・小川淳也氏、自民・鬼木誠氏、自民・小泉進次郎氏でした。
この中でも、立憲・小川淳也氏のインスタグラムアカウント活用ポイントについて解説していきます。
香川1区で元デジタル相・平井卓也氏を激戦の末に制して当選した小川氏のインスタグラムは、まさに「ネット選挙 ver2.0」を体現するようなものでした。
従来のネット選挙とは違うポイントについて、以下にまとめます。
1. ユーザーの対話が生まれる質問コンテンツを複数用意
1つ1つの質問に答える・聞くことで、候補者が市民の声に耳を傾ける姿を体現しています。
2. 世界観が統一された写真
余分な加工はせずに、写真一枚とハッシュタグのみで表現しています。選挙現場の臨場感が力強く伝わってきます。
3. 本人とSNSチームからの投稿を分けて表示
ネットを用いた選挙現場においては、候補者の代わりにスタッフが代理投稿するケースが多く、候補者本人が書いているかのように演出する陣営もあります。
しかし、小川氏の陣営はあえて本人投稿とSNSチームの投稿のどちらが投稿したものかを明かすことで「誠実」という印象を与えていました。またこれにより、少なからず本人自らが投稿していたことも伝わっていました。
4. オリジナルハッシュタグ『#かがわおがわ』を使用
オリジナルのハッシュタグを使用することでフォロワーとの一体感を生み出していました。
また、タグづけされたアカウントは小川氏のインスタストーリーでシェアされていました。
5. キャプションは写真とのズレがないように短く演説風に表現
投稿する時には演説時の画像を用いつつ、あたかもユーザーが実際の演説を目にしているかのようにスピーチの内容を表現していました。
候補者のスピーチの核となる「本当に伝えたい言葉を届けたい」という印象を受けます。選挙後半、デザイナーと写真家がインスタグラムアカウントを運営するチームに入っていることが明かされました。
現状の投票方式では、ここまでの「ver2.0」のようなSNS運用が求められることはなくても、将来的にネット投票が解禁された際には、このレベルでSNSを活用していた人が有利になる可能性があります。
こうしたプロによる候補者の世界観の構築は、これからのSNSでの選挙戦で不可欠なものになっていくのかもしれません。
SNS選挙戦のカギは「対話とギャップ」
選挙期間中、TwitterとFacebookに関しては9割以上の候補者がアカウントを開設しており、ネット選挙においてSNSを活用することはもはや当たり前のフェーズとなっています。
しかし、SNSの活用が票に結びつくのかどうかは、また別の問題として切り離して考えるべきでしょう。
結果を踏まえると、SNSの活用は小選挙区ではなく政党の比例票を伸ばすことに適していると考えられます。
現在の小選挙区制で票を伸ばす目的ならば、辻立ち・街頭活動を通じて、名前と顔を覚えてもらう地上戦に力を入れたほうが票に繋がる可能性は高く、ネット活用はユーザーに興味関心を持ってもらうきっかけ作りとして捉えるべきでしょう。
ネット選挙の視点で考えると、今回のキーポイントは「いかに早い段階からSNS活用に着手できていたか」「伝えたい情報を絞ってコンスタントに発信できていたか」が問われたネット選挙だったのではないかと筆者は考えます。
政治家のSNSへの興味を底上げするためには、政治・政治家個人自体への興味関心を引き上げる施策が重要です。
SNSを使うことは当たり前となった今、次に政治家サイドに問われることは、コンテンツ力です。
今後は、単に活動を報告したり政策を主張するだけでなく、市民の声を丁寧に聞く姿を見せることが、より重要になるでしょう。
またこの選挙期間中、全ての立候補者のアカウントを覗いた中で筆者が感じたことは、与党である自民党と、野党が実践していくべきイメージ戦略の違いです。
普段から固いコンテンツ・活動報告型のコンテンツをよく目にしている自民党支持層は、候補者の柔らかなギャップが見えるコンテンツや政党からの親近感の湧くコンテンツ発信に、リアクションが集まる傾向にありました。
一方で、普段からデザイン性が高かったり、ゆるキャラを展開しているような野党層(立憲民主党・国民民主党・共産党)は、選挙期間中に自民党議員が普段するような、固く真面目な発信・とにかく厳しい情勢を訴える発信・必死さが伝わる発信にリアクションが集まる傾向を感じました。
これからのネット選挙は、政治家一人一人が自分の立場を客観的に分析しながら個性を活かす、セルフプロデュース力を持つことが問われる時代になりつつあるのかもしれません。
政治家はネットとどのように向き合っていくべきなのか。今後も引き続き注目していきます。
(文・中村佳美、編集・西山里緒)
中村佳美/政治・SNSコンサルタント。慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修士課程修了。専門は、政治家のSNS活用・ネットメディア戦略。在学中は多数の政治家にインタビューしながら、世界各国の政治家・政党の広報戦略・SNS活用の研究リサーチ・論文執筆に取り組む。現在は、ポリティクスメディアのリサーチ分析・執筆を中心に、国内の様々な地方選挙・国政選挙に携わりながら、SNSコンサルティング・講師を担う。