飾り気のない棚に並ぶ食品。買い物をする客の姿はない。
撮影:横山耕太郎
渋谷駅から徒歩約10分。幹線道路沿いのオフィスビルの1階に、その「スーパーマーケット」はあった。
一見すると普通のオフィスビルだが、中に入ると、トイレットペーパーやペットボトルがずらりと並ぶ。業務用のス―パーのような印象だが、商品の値札もレジも、そしてお客さんの姿もない——。
ここは「ダークストア」と呼ばれる宅配専用の店舗。客の代わりに訪れるのは、大き目なバッグを背負った配達員だ。
2021年11月2日、フードデリバリーサービス・foodpanda(フードパンダ)がオープンさせたダークストアを取材した。
都市部で増え始めた「ダークストア」とは?
商品が整然と並べられている。
撮影:横山耕太郎
ダークストアとはネット販売された商品の物流拠点で、消費者が訪れる実店舗ではない。日本ではベンチャー企業・OniGO(オニゴー)が2021年8月、東京都目黒区にダークストアをオープンさせた。
フードパンダのダークストアに入ってまず目を引くのが、飾り気のない棚にずらりと並んだ商品だ。
お菓子やカップラーメンなど食品のほかに、シャンプーや文房具、ティッシュペーパーやペットフード、生理用用品までそろっている。
飲料は人気が高く、種類も豊富だ。
撮影:横山耕太郎
頭上には「ビスケット」「ふりかけ」「カレー」など商品の位置を示す紙が掲示してあり、並んだ商品の多くは、入荷時の段ボールに入ったまま置かれていた。
現在この店舗では約2000種の商品を扱っているが、今後は「3000~5000商品」を見込む。棚にまだ空いているスペースが多いのはそのためだ。
「よく売れるのはトイレットペーパーやペットボトルの水。家にストックを置くのではなく、なくなる時に注文するというニーズがある。また『夜にアイスを食べたいけれど外出が面倒』など、深夜帯のニーズもある」(フードパンダ担当者)
配達料220円で「30分以内」配達
ダークストアへの注文は、フードパンダのアプリで行う。ダークストアの配達圏内(半径4キロ以内)にいるユーザーには、「pandamart(パンダマート)」という表示がアプリ上に現れ、そこから商品を注文する。
「ピロン」という電子音が鳴ると、注文が入ったという合図だ。
宅配可能なエリアでは注文アプリ上に「pandamart」が登場する。
撮影:横山耕太郎
ユーザーから注文が入ると、ダークストアのスタッフはすぐに商品のピックアップを開始。注文を受けてから2分以内にピックアップと袋詰めを終えるという。
荷物を運んでもらう配達員は、AIがダークストアの近くにいる配達員を選び依頼する。
配達料は一回の注文で一律220円(税込み)。注文から配達までは「30分」という速さが売りという。
取材日はダークストアのオープン初日だったにも関わらず、取材中もひっきりなしに注文が入り、ピンクのバックを背負った配達員が次々とダークストアに姿を見せた。
なぜ地価の高い「都内中心部」にダークストアをつくるのか
オフィスビルの1階にあるダークストア。pandamartというロゴも控え目。
撮影:横山耕太郎
このダークストアの広さは約320平方メートル。一般的なコンビニの約1.5倍の広さだ。
フードパンダは2021年7月、初のダークストアを神戸に設置。その後、大阪、名古屋、大宮、京都など計6カ所に拡大し、今回オープンさせた7拠点目の「渋谷東」で初めて東京に進出した。
将来的に「ダークストア100拠点」を目標にしているという。
ダークストアの担当者は
「物件を確保できるかものポイントになっている。アクセスがいいエリアで、かつ配達員が来やすい1階部分、そしてこのサイズの物件を見つけられるかも課題になってくる」
と話す。
ネットスーパーよりも速い
ダークストア事業を担当する佐藤丈彦・新規事業開発本部長。
撮影:横山耕太郎
ダークストアを拠点として配送サービスは、アマゾンなどのECサイトや、ネットスーパーとも競合するサービスとも言える。将来性はあるのか?
日本でのダークストアビジネスの責任者を務める佐藤丈彦氏に聞いた。
「注文から配達まで30分以内をうたっていますが、多忙な現在においてすぐに届けてもらえるクイックコマースの需要は今後も伸びると考えています。
ネットスーパーの配送は、半日後や翌日になるサービスが多く、差別化できると考えています。価格についても将来的にはスーパー(マーケット)レベルに下げられると思っています。」
配達員の確保にも効果的
ダークストアに商品を取りに来る配達員。
撮影:横山耕太郎
配達員を確保する意味でも、日用品を配達するダークストアの運営は効果的だという。
「フードデリバリーの需要は昼食と夕食の時間に集中しますが、ダークストアの注文は昼食・夕食時以外の時間が7割を占めます。いろいろな時間に働きたいという配達員にとって、需要を分散化することでより働きやすい環境になります」
日本国内のフードデリバリー業界は、UberEatsと出前館が首位争いを続ける一方で、「menu」やアメリカ最大のサービス「DoorDash」、フィンランド生まれの「Wolt」なども参入。配達員をどう確保するかも課題になっている。
サービスが乱立するなかで、「配達員から選ばれるサービス」であることも求められている。
「配達員はギグワーカーですが、フードパンダではシフト制をとっています。時給制ではありませんが、決まった時間にシフトに入ってもらい、その時間の中で注文件数に応じて報酬が決まります。
シフトを決めることで、『待機していたのに配達できなかった』という事態を減らせると考えています。食事時間も働けるという選択肢も増やしていきたいと思っています」
フードパンダでは、2020年11月にはコンビニ大手・ローソンと提携し、商品を配達するサービスも開始。フード以外の配達を本格化させている。
デリバリー各社、フード以外に注力
REUTERS/Issei Kato
競合サービスもクイックコマースへ注力している。
競合のウーバーイーツは、フードパンダより1年早い2019年8月にローソンと提携。出前館も2021年8月から、セブンーイレブンネットコンビニとテスト運用を始めたほか、アスクルと協働して日用品などの配達を始めている。
フードパンダとしては、そんな競合環境をどう見ているのか?
佐藤氏は「競い合う中でクイックコマースの市場を拡大させていきたい」と話す。
「レストランのフードデリバリー市場は約5200億円ですが、食品や日用品などのグロッサリー市場は52兆円と言われています。まだまだクイックコマースが成長する大きいと考えています」
渋谷ではオープン初日から、ひっきりなしに注文が入ったが、浮き足立ってはいない。
「このレベルの反響は、想定の範囲内です。今まさに、お酒の配達について申請中なのですが、若い世代も多い渋谷エリアでは、お酒配達の需要も高いと見込んでいます。
これからもっと忙しくなると思います」
(文・横山耕太郎、動画編集・小林優多郎)