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- アメリカのメイン州では、"気候変動への不安"でセラピストのもとを訪ねるクライアントの数が増えているという。地元紙Bangor Daily Newsが報じた。
- メイン州はロブスター産業に大きく依存している。ところが、気候変動の影響で"ロブスター・ブーム"が終わる可能性もある。
- ロブスターの供給量の不透明性が、業界で働く人々の精神的な負担になっている。
気温の上昇から食料供給、わたしたちのお財布の中身まで、気候危機は生活のあらゆる側面に影響を与えている。中でも、生活… そして自身のアイデンティティーが"安定した気候"に依存しているメイン州の人々にとっては、特に頭の痛い問題だ。
地元紙Bangor Daily Newsは11月1日(現地時間)、メイン州で「気候変動への不安」や気候変動に関連する将来へのストレスでセラピストのもとを訪れるクライアントの数が増えていると報じた。臨床心理士のウィル・ハフォード(Will Hafford)氏は、セラピストを対象とした非公式の調査を実施したところ、回答者の63%が毎週または毎月、こうしたストレスを抱えたクライアントを相手にしていると答えたと、同紙に語った。
観光業に大きく依存しているメイン州では、多くの人々が生活費を稼ぐために"自然"に依存している。ロブスターもそうだ。ロブスターは毎年、メイン州に5億ドル(約571億円)をもたらす好況産業だ。ただ、メイン湾の海水温の急激な上昇や気候の急激な変化を考えると、このブームは長続きしないと科学者たちは見ている。
そして、こうした不透明性が業界で働いている人々の負担になっている。
「例えば、気候変動がロブスター漁に与える影響に気付いたロブスター漁師が相手の場合、ロブスターがより冷たい海水を求めて移動することで起こる変化に対する不安、生活不安、職業アイデンティティーへの影響について話すなどします」とハフォード氏は話した。
「ロブスターがいなくなったり、ロブスター漁を維持できなくなったら、ロブスター漁師は何と呼ばれるのでしょう?」
非営利組織Maine Center for Coastal Fisheriesのチーフ・サイエンティスト、カーラ・ギュンター(Carla Guenther)氏は、気温の変化はロブスターの供給量がどのくらいになるか予想することをほぼ不可能にするため、業界で働いている人々が自らの成功を見込むことが困難になるとInsiderに語った。
「ロブスターに不思議な影響を与える、ものすごく暖かい年がやってくるでしょう。その年、ロブスターは早く脱皮するか、頻繁に脱皮するでしょう。それはロブスターにストレスを与える可能性があるので、翌年、また暖かくても、ロブスターが同じようには脱皮しないかもしれません」とギュンター氏は話した。
メイン湾は世界の海の99%よりも急速に海水温が上がっていて、温かい海水温がこの10年、ロブスターの繁栄を可能にしてきた。ただ、それもある程度まではの話だ。天然資源保護協議会(National Resources Defense Council:NRDC)によると、ロブスターにとっての適温は華氏61~64度(摂氏約16~18度)で、華氏70度(摂氏約21度)を超えると生存が困難になるという。そのため、メイン州ではロブスターがより冷たい海水を求めて移動する可能性がある。
不透明性のストレスに対処するために、ハフォード氏はメイン州の住民が自然界の何に価値を置くのかをはっきりさせ、気候危機の影響と戦うための行動を取ることが重要だと強調した。
そして、ロブスターに関しては気候変動が急速に進む可能性があるとした上で、ギュンター氏は「わたしたちが過去に経験してきた以上の、1年の間の変化が起きています」と指摘した。
「気候変動は、全てが一方向に向かうものではないでしょう」と同氏は語った。
(翻訳、編集:山口佳美)