スポーツ用品大手ナイキ(Nike)が、フェイスブックの社名変更などで注目の集まる「メタバース(Metaverse)」分野への進出に本腰を入れようとしている。
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ナイキはこのほど、新設した「メタバース・スタジオ(Metaverse Studio)」の責任者に、入社6年目のエリック・レドモンドを任命した。
メタバース・スタジオの設立は、勃興するイマーシブ(没入型)デジタルリアリティ分野で足場を築くための、ナイキによる全社的な取り組みの一環として位置づけられる。
レドモンドは、ナイキのテック・イノベーション・オフィス(Tech Innovation Office)の共同設立者で、これまでにテクノロジー関連の書籍を数冊執筆。2021年4月には、自身の生い立ちやキャリア、関心ごとなどをつづった『ディープテック(Deep Tech)』を上梓している。
同書のなかでレドモンドは、量子コンピュータ、ビッグデータ、人工知能(AI)など「テクノロジー革命を最前線で目の当たりに」しており、その意味でテクノロジー分野の「フォレスト・ガンプみたいだ」と、自らの立ち位置を表現している。
同書によれば、レドモンドは分散型NoSQLデータベースのバショー・テクノロジーズ(Basho Technologies)を経て、マサチューセッツ工科大学(MIT)メディアラボ、世界経済フォーラムなどに勤務。
新型コロナウイルスの世界的大流行に際しては、オンライン家電ストアのベスト・バイ(Best Buy)でVR(仮想現実)ヘッドセット「オキュラス・クエスト(Oculus Quest)」を購入。
ダウンロードした複数のCADソフトウェアと、アマゾン経由で入手した3Dプリンタをユーチューブ(YouTube)動画を参考にして接続し、オープンソースの設計書をもとに緊急用の酸素吸入器を作成したという。
レドモンドはさらに、人工知能アシスタントを使って日常生活の一部を自動化した経験や、グーグルグラス(Google Glass)を1年間毎日装着して過ごした経験についても、同書のなかで披露している。
「メタバース・スタジオ(Metaverse Studio)」の責任者に就任したエリック・エドモンド。
Eric Redmond
レドモンドは『ディープテック』序文にこう書いている。
「(人工知能や仮想現実などの)デバイスや革新的なテクノロジーが私たちの日常生活に完全に統合されるまでにあと10年はかかりそうですが、そうした革命はすでに今日時点で始まっており、いままさにあなたのまわりで進んでいるのです」
同書のなかでは、ナイキにおけるテクノロジー関連の取り組みについてはあまり詳しく書かれていない。それでも、新設されたメタバース・スタジオが具体的にどんなものになるのか、各所から読みとれる。
レドモンドのほかにナイキ社内でメタバースに取り組んでいるのは、リンクトイン(LinkedIn)のプロフィールに「メタバースエンジニアリングディレクター」とあるアンドリュー・シュワルツ、同様に「メタバースハッカソン責任者」とあるジャスティン・ラチエ、デジタル特許とメタバース関連の知財(IP)責任者を務めるクリストファー・アンドンら。
ナイキの求人情報をみてみると、メタバース関連のスキルを持つ人材の募集はほかにもいろいろ出ている。
うちフットウェアデザイナーとバーチャルマテリアルデザイナーについては、「デジタルランドスケープの再定義、メタバースへの進出、チームの能力向上に重要な役割を果たす」人材が求められている。
メタバース・スタジオやレドモンドらの人事について同社にコメントを求めたが、記事公開までに返答は得られなかった。
なお、上で紹介したレドモンドの近著では、過去に彼の率いるチームがどんな風に新たなテクノロジーを取り入れてきたかについても触れられている。
パンデミックの発生直後には、通常の(二次元的な)ズーム(Zoom)ビデオ会議ではなく、「最先端のVRゴーグル」を購入し、日々のちょっとした打ち合わせから社内の公式会議まであらゆる場面にVR経由で参加。「移動にかかる費用と時間を節約したり、環境の良くないホテルに一人孤独に泊まる事態を避けたり」できたという。
レドモンドは著書をこう結んでいる。
「私たちが新たなツールをいかに使いこなすかは、次世代の生活にまで影響を及ぼします。そして、私たちは(ツールをどう活かすかを)自ら決めることができる幸運な時代に生きているのです」
(翻訳・編集:川村力)