売上高の低迷、競争の激化、半導体不足の悪影響。苦境の「巨人」インテルが活路を見出すには……。
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米半導体大手インテルは売上高の低迷と競争激化のはざまで、先行きの見えない苦境に陥っている。
アドバンスト・マイクロ・デバイセズ(AMD)やエヌビディア(Nvidia)のような半導体設計分野のライバル企業との競争が過熱し、新たな企業の進出も目立つ。
また、アップルが自社製品向けの半導体設計を内製化したことも、インテルのビジネスに影響を及ぼし始めており、グーグルまでその動きに追随する計画を進めているとの報道もある。
さらに、世界的な半導体不足は(人材確保の困難化など)さまざまな形でインテルにも悪影響をもたらしている。
2021年初頭に同社の最高経営責任者(CEO)に就任したパット・ゲルシンガーは、リーダーシップチームを刷新。製造からオープンソースソフトウェアまで、新たなテクノロジーやビジネス分野の開拓に注力している。
半導体分野のアナリストらは、以下に挙げる3つのテクノロジーが今後インテルのビジネスの基盤となり、コアプロダクトの強みを維持しながら新しい分野で成長を遂げるための支えになると指摘する。
ファウンドリー事業に200億ドル以上を投資
インテルは3月、200億ドル(約2兆2000億円)を投じて米アリゾナ州に2工場を新設する計画を発表。ファウンドリー(受託生産)事業を強化して、2025年までに半導体製造分野のリーダーとしての地位を確立するとしている。
アナリストによれば、インテルは生産能力で台湾セミコンダクターマニュファクチャリング(TSMC)など競合に遅れをとっており、開発に注力して生産分野におけるリーダーの地位を回復しようと考えているようだ。
モバイル・ワイヤレス分野専門の調査会社CCSインサイトのウェイン・ラムは次のように指摘する。
「インテルは製造の基礎部分に注力することで、市場における現時点でのポジションを守り抜くことを目指す、これまでとは異なる企業になるでしょう」
ただし、この方針転換が成果となってあらわれるまでには何年もかかると懸念するアナリストもいる。
米証券大手エドワード・ジョーンズのローガン・パークはこう語る。
「ファウンドリー事業への進出にはリスクが伴います。それでも、サプライチェーンの強化やアメリカ国内での半導体生産の増加をうたうバイデン政権の眼鏡にかなう選択肢であるということは言えるでしょう」
モービルアイなどを買収してAI分野に進出
インテルは2017年に自動運転開発を手がけるイスラエル企業モービルアイ(Mobileye)を買収。人工知能(AI)テクノロジーの自社開発という大きな目標に向けて走り出した。
モービルアイを傘下におさめたことで、インテルはセンサー、高精度地図の作成、画像認識、高精度地図用のクラウドソーシングによるデータ収集、自動運転の意思決定など新たなテクノロジー分野に進出する足がかりを得た。
米金融サービス大手シノバス(Synovus)のダン・モーガンは、大きな成長の可能性を秘めたAIおよび自動運転向け半導体分野でインテルが優位に立つ可能性を指摘する。
「インテルはモービルアイの買収を通じて、自動運転システムの構築に必要とされる広範なテクノロジーを手にしただけでなく、さまざまな自動車メーカーとの関係まで手に入れたことになる」
モービルアイ以外にも、インテルは2016年にナーバナ・システムズ(Nervana Nervana)を買収するなど、AI用半導体分野の強化を進めている。
インテルのアプローチは、画像処理やAIアプリケーションの高速化を実現する強力なGPUに特化したエヌビディアとは一線を画するものと言える。
「x86」プロセッサーはビジネスの基盤
アナリストらは、インテルの「x86」プロセッサーがこれまでも、そしてこれからも、同社のビジネスの基盤であり続けると強調する。
1970年代後半に初めて導入されたx86プロセッサーがなかったら、パソコン、クラウド、自動車など、今日活用されているテクノロジーのほとんどは存在し得なかった。
とはいえ、現在のインテルはAMDやエヌビディアなどライバル企業との激しい競争に直面している。
半導体業界の全般的な状況として、各社は消費電力を効率化してコストを削減するチップ設計をめぐってしのぎを削っている。また、データストレージ、5G、AIなどの用途に対応するチップの開発競争も過熱している。
したがって、インテルが業界のトップに君臨し続けようとすれば、そうした多岐にわたる分野で優位に立つ必要がある。
「インテルの礎となるテクノロジーは純粋に馬力のあるCPUであり、それがあるからこそインテルはこれまでその地位を守り続けることができたのです」(前出エドワード・ジョーンズのローガン・パーク)
(翻訳・編集:川村力)