ソーシャルメディア上でビットコインへの投機熱が高まったり、暗号資産を要求するランサムウェア(身代金要求型ウイルス)攻撃が最近相次いだりしたことから、議員や規制当局が、この新興市場の規制を真剣に検討し始めた。
これを受けて、暗号資産の推進派や支持団体は政治的影響力を強めるため、数多くのロビイストをワシントンDCに送り込み、特定の法案を阻むよう議員や規制当局に働きかけている。
ロビイストたちに取材をすると、彼らが特に注視しているのは、デジタル資産に関する議会や財務省の動向、そして大統領令だと言う。
そこで本稿では、暗号資産に関して注視すべき5つの最重要項目を整理する。ロビイストによると、これらの項目は年内にも暗号資産市場を揺るがし、ビットコインやアルトコインの売買方法を劇的に変える可能性があるという。
1. 超党派議員によるインフラ法案
米連邦議会議事堂
Elizabeth Frantz/Reuters
米議会上院の超党派グループによって提出されたインフラ法案をめぐって、暗号資産の関連団体は2021年8月、同法案に盛り込まれた税務報告義務について強く反対を表明した。これはデジタル通貨の取引事業者に対し、米内国歳入庁(IRS)に取引内容の申告を義務付けるものだ。
そんな暗号資産条項を含む1兆ドル(約110兆円)規模のインフラ法案が、上院で可決された。下院では、多数の民主党プログレッシブ(進歩派)議員が不支持を表明しているため、通過は難しいとみられている(訳注:2021年11月5日(米国時間)、下院でも数カ月に及ぶ議論の末に可決された)。
公共政策コンサルティング会社のクライン/ジョンソン・グループ(Klein/Johnson Group)の共同創業者で、2021年に米暗号資産の複合企業、デジタル・カレンシー・グループ(Digital Currency Group)のロビー活動を行ったイジー・クライン(Izzy Klein)はInsiderの取材に応じ、ロビイストたちは暗号資産条項を削除するよう戦い続けるつもりだと話し、「この法案が最終的にどのように可決され、施行されるのか、誰もが注意深く見守っています」と続けた。
ロビー活動やコンサルティングを行うマッカーティ・ファイナンシャルLLC(McCarty Financial LLC)の社長であるパトリック・マッカーティ(Patrick McCarty)は、「暗号資産業界にはびこる脱税行為」に対処するよう、議員たちへの圧力がますます強まっていると話す。
「根本的な問題は、暗号資産の買い手も売り手もIRSに何の報告もしてこなかったことです」と続けた。
2. 暗号資産の規制に大統領令の可能性
ジョー・バイデン大統領
Kent Nishimura / Los Angeles Times via Getty Images
ブルームバーグは2021年10月上旬、バイデン政権が暗号資産への監視・規制を強化する大統領令の発令を検討していると報じた。
報道によると、連邦政府機関に「暗号資産に関連する分野を調査し、勧告を行うよう求める」としている。
バイデン大統領は2021年5月、米石油パイプライン大手コロニアル・パイプライン(Colonial Pipeline)がサイバー攻撃の被害に遭ったことを受けて、サイバーセキュリティの防御力強化を目指す大統領令に署名している。
同9月には、財務省がランサムウェア攻撃を撲滅するための措置を発表した。「身代金の資金洗浄に利用される犯罪ネットワークや暗号資産取引所の活動を遮断することを重視する」内容だ。
ランサムウェア攻撃の増加をめぐっては、ビットコインなどの暗号資産を非難する声もある。デジタル資産業界を代表する事業者団体、デジタル商工会議所(Chamber of Digital Commerce)のチーフ・ポリシー・オフィサーを務めるティアナ・ベイカー-タイラー(Teana Baker-Taylor)は、そのような考えは「断じて間違っている」と言う。
「ランサムウェア攻撃が増えた直接の原因は、サイバーセキュリティに不備があったからです」
ベイカー-テイラーは、ランサムウェア攻撃を抑止する政府の取り組みを今後も注視しつつ、議員に暗号資産をよりよく理解してもらうよう「教育」していくと話した。「犯罪者がランサムウェアで金銭を要求するのであれば、ビットコインは彼らを捕まえるための素晴らしいツールにもなります」とも付け加えた。
3. FRBが独自のデジタル通貨を開発
連邦準備理事会のジェローム・パウエル議長
Pool/ Getty Images
ロビイストたちは、米連邦準備理事会(FRB)が独自のデジタル通貨を創設する動きも注意深く見守っている。これは、ビットコインのような非中央集権型の暗号資産とは異なり、FRBによって発行・規制されることになる。
FRBのジェローム・パウエル議長は9月下旬、独自のデジタル通貨の導入に向けた検討作業を進めており、その調査報告書を近く公表すると明かした。パウエル議長は、「十分な情報を得て、迅速に判断することが重要だ」とする。
報告書を隅から隅まで必ず読む、と意気込むロビイストもいる。
ベイカー-テイラーは、「新たな規制を追加する前に、暗号資産の現在の規制のあり方を適切に正しく評価するべきです」と釘を刺す。
4. ステーブルコイン規制に向けたバイデン政権の取り組み
バイデン大統領
Official White House Photo by Adam Schultz
バイデン政権は、ステーブルコインを規制する法整備を議会に要請した。
ステーブルコインは主に決済手段として使用されるデジタル通貨で、大きな価格変動はほとんどない。
ホワイトハウスは、このデジタル通貨の発行者を銀行のみに限定する法律を制定するよう議会に提言した。
公表された報告書には、「手立てを講じない限り、利用者や金融システム、さらには経済全体が十分に保護されないまま、決済手段としてのステーブルコインの利用が拡大してしまうリスクがある」と記載されている。
ブロックチェーン協会の政府担当ディレクターであるロン・ハモンド(Ron Hammond)はInsiderの取材に対し、これらの動向をしっかり注視していくと話す。
「ステーブルコインは、中央銀行のデジタル通貨と同じ土俵で論じられるべきなのに、政府は少し偏った見方をしています」とハモンドは言う。
5. 海外の暗号資産マイニングに関する上院法案
アイオワ州選出、共和党のジョニ・アーンスト上院議員
Andrew Harnik-Pool/Getty Images
超党派の議員2人は、財務省やその他の連邦機関が海外のマイニング状況の監視体制を強化するように規定する法案を提出した。マイニングとは、暗号資産の新しいコインを生成(採掘)するプロセスのことだ。
マギー・ハッサン上院議員(Maggie Hassan、ニューハンプシャー州、民主党)とジョニ・アーンスト上院議員(Joni Ernst、アイオワ州、共和党)によって提出された法案は、海外のマイニング状況だけでなく、海外での暗号資産の使用状況をも議会に報告するよう財務省に求めている。
この法案が提出された背景には、暗号資産取引所でランサムウェアの身代金の資金洗浄があり、財務省がそれに関わったとされる事業者に制裁を科した一件がある。
法案は9月下旬に提出されて以来、今のところ動きはない。
しかしロビイストによると、この法案は、アメリカの居住者が海外の暗号資産取引所で取引を行う際に影響を与える可能性がある。先出のマッカーティは次のように話す。
「ハッサン・アーンスト法案は興味深いものだと思いますが、対象範囲がとても狭い。ランサムウェア問題で暗号資産に触れていることに驚きはありませんが、いいこととは思いません。ランサムウェアは副次的な問題だと思うからです」
(翻訳・西村敦子、編集・常盤亜由子)
[原文:Cryptocurrency lobbyists are tuned into these five big issues that could soon shake up the industry]