- Z世代が仕事に就くようになり、行動規範や期待されることを変化させてきた。
- 彼らは「スローアップ」で生産性を低下させ、仕事と私生活がよりよいバランスになるようにしている。
- 嫌な仕事を我慢せず、満足できる仕事に出会えるまで転職を繰り返す「大改造(Great Reshuffle)」も彼らが中心となっている。
I'm so tired that I may/Quit my job, start a new life.
(仕事辞めて、新しい人生を始めたいくらい、私は疲れてる)
これは、Z世代(1990年代半ば以降生まれ)の超人気歌手、オリビア・ロドリゴ(Olivia Rodrigo)のヒット曲「brutal(ブルータル)」の歌詞の一節だ。2021年5月にリリースされたこの曲は、大勢のアメリカ人が何カ月にもわたって仕事を辞め続けることを予見していたようだ。
ロドリゴと同じ年齢層、つまり彼女の曲を聴く人々は、そのトレンドの最前線にいる。Z世代たちの多くは、仕事に就く準備はできているが、その仕事は自分の理想通りでなければならない。
同様に、彼らは職場でニューノーマルを強く主張しており、先輩のミレニアル世代が実施してきた規範を受け入れていない。先頃、話題になったニューヨーク・タイムズの記事で研究者のエマ・ゴールドバーグ(Emma Goldberg)は、職場でよりよいワーク・ライフ・バランスを求めて、かつてないほど大胆な要求をするZ世代社員をミレニアル世代がいかに「恐れている」かを調査した。
20代の若者たちは、上司に仕事を任せ、メンタルヘルス休暇を申請し、その日の自分の仕事が終わればそれ以上働かず、帰る時間も自分で決める、とゴールドバーグは記している。仕事中毒のミレニアル世代にお馴染みの、働きすぎで、スケジュールがぎっしりと詰め込まれた日々とは明らかに対照的だ。
これは、エリカ・ロドリゲス(Erika Rodriguez)がガーディアンへ寄稿した記事で「スローアップ(slow-up)」と呼んだものの一例だ。スローアップとは、仕事からより離れるという目的のために生産性を低下させるという永続的変化を指している。休憩時間以外に休憩を取ることや、平日の特定の日にしかメールの返信をしない、といったことで、ミレニアル世代の上司を恐れさせているZ世代の行動そのものだ。
若くして苦労を重ねてきたZ世代
若い世代は束縛されていないことが多く、自分のニーズと合わない嫌な仕事をいつても辞めることができる。Z世代はパンデミック後、これを極端に行っているのだ。
2021年8月、パーソナル・キャピタル(Personal Capital)とハリス・ポール(The Harris Poll)の調査で、調査対象となったアメリカ人の3分の2が、転職を熱望していることが分かった。とりわけZ世代は、91%がそのように感じており、他のどの世代よりも多かった。
これは、過去1年半の出来事と大きな関係があるようだ。「大退職時代(Great Resignation)」という言葉を生み出した組織心理学者のアンソニー・クロッツ(Anthony Klotz)によると、パンデミックのような死や病が身近にある時期を経験すると、人々は実存的な問いかけをするようになるという。クロッツは以前Insiderに対し、こうした経験が人生を方向転換させる可能性があると語っていた。
「従業員、労働者としての在り方が、人としての在り方の中核をなすアメリカでは、特にそうだ」とクロッツは述べた。職場から離れる必要があったパンデミックが、「人生の別の要素」について考えさせてくれたのだ。
その多くがすでに卒業し、パンデミックの世に出たZ世代にとって、この「人生の別の要素」について考えることが仕事をする上での標準になっている。彼は昔からある伝統的な道筋から、バーチャル・スクール、崩壊しかけた経済、そして不確かな未来がある世界に飛び込んだのだ。
リンクトイン(LinkedIn)のCEO、ライアン・ロスランスキー(Ryan Roslansky)は『タイム(Time)』のインタビューで、若い労働者が行っているのは「大改造(Great Reshuffl)」であり、いわゆる「大退職」ではないと述べた。ロスランスキーによると、彼のチームがリンクトインのメンバーでプロフィール上の職業・勤務先を変更した人の割合を追跡したところ、転職率は前年比で54%増となっていることが分かった。特にZ世代では80%増加していたという。
「世界中の従業員が働き方だけでなく、なぜ働くのか、仕事や私生活で一番やりたい事は何なのかを考え直している」とロスランスキーは述べた。
「そして、この人材の入れ替えはもうあと1、2年は続き、最終的には落ち着くだろう」
Z世代が職を転々とするのには、より多くの機会を試し、自分が仕事に求めるものが何かを考えるというメリットがあるとノースウェスタン大学教育・社会政策学部のハネス・シュワント(Hannes Schwandt)助教授は以前、Insiderに語っていた。「融通の利くワークライフの方が、広い視野を与えてくれる」とシュワントは述べている。
Z世代は、自身の退職を皆に知らせることにも抵抗がなく、かつて新しい仕事に就くことが賞賛されたのと同じように、嫌な仕事を辞めることも賞賛されるようになっている。モニカ・トレス(Monica Torres)はハフポスト(HuffPost)で、TikTokに退職することを自ら投稿する人々について書いた。
ウォルマート(Walmart)の仕事を辞めるという動画を投稿した、当時19歳のシェイナ・ブラックウェル(Shana Blackwell)は「もし、もっと多くの人が同じことをしたら、もっと多くの企業が普通だったら気にも留めない、閉じた扉の向こうで起きているすべてのことに、注意を払うようになるかもしれない」とハフポストに語っている。辞める時でさえ、Z世代は職場を再構築しようとしているのだ。
どうやら、「スローアップ」して「大改造」するという決意によって、Z世代が優位に立っているようだ。そしてそのことを、彼らは知っている。
[原文:From a 'slow-up' to the 'Great Reshuffle,' Gen Z is demanding a better workplace. And it's working.]
(翻訳:Ito Yasuko、編集:Toshihiko Inoue)